最愛の人と弟だけが味方でした

柚木ゆず

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第6話 語っていたこと ユリス視点

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「ギヨム様、エミリー様。お二方は、ウチ――わたしの財力を気にされているのですよね?」

 こんな状況下でも、平然と嗤う愚かな夫婦。俺は愚か者2人を連れてサーシャ様に悟られない位置へと移動し、昨夜考えた台詞を口にした。

「い、いえ……。そういうわけでは……」
「そ、そうですわ。決してそういった理由ではなく、別に――」
「お気遣い痛み入ります。ですが、その感情は尤もでございます」

 俺は敢えて、勘違いを続ける。『ウチはここ最近失速気味で、大切な娘が将来安泰で過ごせるのか? 良いパイプを作れるのか? という2点を気にしている』と思い込んでいるように演じ、用意していた書類を懐から取り出した。

「「? それは……?」」
「わたし個人の貯蓄と、わたし個人が所有するもの――所謂不動産に関する記載がされたものでございます。ご覧ください」

 現在自由に使える金、およそ3億7400万ルピス。6棟編成の借家が2つなどなど。そこにはそんなデータがあり、それを見た2人は――

「こ、これは……! な、なぜこれほどまでに……!?」
「いっ、一体どうなされたのですか……!?」

 ――食いついた。

「商会にいつ何があるか分からない。何かあった時の保険がないといけない。……わたしは資産運用などを得意としておりまして、そういった理由でコツコツと増やしてまいりました。無論今後も手堅く確実に増やすつもりでして、来年内には更に1億ルピス上乗せできる計算になっております」

 悲しいかな、世の中は金が物を言う。金の切れ目が縁の切れ目、そんな厄介な人間が沢山いる。
 そこでご先祖様が守って来た商会を次の世代にちゃんと渡せるように、必死になって勉強をした。そのためのテクニックを身につけたのだ。

「わたしの手元にはアリシア様が何不自由なく暮らしていけるだけの力がございますし、意味のある『有益なパイプ』になれると自負しております。ですので、そういったご心配は杞憂。少々失礼なことを申し上げますが、もしもこの先貴方がたマチエス家が金銭的な問題を抱えても、わたしが支えることが可能なのですよ」

 金銭的な問題。つまりそれは、勝負に失敗をしても致命傷にはならないということ。
 ちゃんとソレを理解できるように語り、その上で、『結婚に感謝してるから困った時は親身に助けるよ』『プライベートなお金だから独断で動けるよ』と匂わせる。
 そうすると――

「じ、実は我々は、仰られている通り財の面で心配をしておりました」
「ですがそれは、まさに杞憂。余計な心配でしたわね」

 アリシア様を使って、新たな勝負に乗り出そうとしていた2人は――。行動の一番の理由は長女憎し、妹を盲目的に可愛がっているわけではない2人は――。サーシャ様の言葉を無視して、金持ちに売るよりずっと良い『美味しすぎる話』に飛びつく。
 あっという間に、ぜひとも結婚してくれ! といった感情が溢れ出るようになった。

「よかった。では、戻りましょうか」

 やるべきことは全て済んだので席に戻り、そのあとはもちろん――


「ええ! 娘をよろしくお願い致します!」
「よろしくお願い致しますわ!」


 次のステップへと進むために必要なもの、『快諾』を得たのだった。
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