裏切られた令嬢は、自分になりすました従者から婚約者を守るため走る

柚木ゆず

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4話 偶然のトラブル、発生(2)

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「にゃっ! にゃっっ! ふしゃー!!」《待てっ! 待てっっ! 逃がさんぞ!!》
(あ、あんなのに捕まったら大変っ! 逃げないとっ!)

 猛追され始めた私は更に速度を上げ、必死になって両足で地面を蹴る。
 危険っ。あの子は、すごく危険だっ!

(逃げなきゃ逃げなきゃ! 逃げなきゃっっ!!)

 転ばないように細心の注意を払いながら、前へ前へ。空で優雅に鳴いている鳥の真下を、死に物狂いで走る。

「ふしゃーふふーっ! ふーっ!!」《オレはこの辺りのボスだっ! 嫁に来れば一生デカい顔をして暮らせるんだぞっ!!》
「にゃにゃにゃにゃっ! にゃにゃにゃにゃっ、にゃんにゃーっつ!」《だからそういう問題じゃないのっ! どんなに魅力があっても、貴方と結婚なんてお断りよっつ!》

 直線だと追いつかれちゃうから、道を何度も右に左に曲がって距離をつける。あの子は巨体で曲がるのが苦手だから、カーブで引き離す。

「にゃあっ! にゃあぁ! にゃにゃにゃーにゃ、にゃにゃにゃっ!」《とまれっ! とまれぇっ! お前はオレと一緒にいれば、幸せになれるんだぞっ!》
「にゃにゃあっ! にゃっ! にゃにゃ、にゃにゃにゃにゃにゃーっ!」《そんな幸せなんて要らないわっ! それにねっ! なにより、そういう相手を物みたいに扱う人は大嫌いよっ!》

 私達は、道具なんかじゃない。ちゃんと意思を持った生き物。
 だからそういう部分を当たり前に尊重してくれる人じゃないと、嫌だ。

「にゃ……っ。にゃぁ……っ。にゃぁぁ……っ」《くっ……。待て……っ。まてぇ……っ》
「にゃにゃにゃにゃっ。にゃにゃーっ!」《待つはずないでしょっ。さようならっ!》

 大声を発しながらジャンプをして、真正面にあった小さな川をどうにか飛び越える。
 あの子の体型なら、この幅は越えられない。猫は基本的に水が嫌いだから泳げなくって、これで完全に撒けた。

「にゃあ……っ。にゃあぁぁぁぁ……っ」《そんな……っ。くそおおおお……っ》
(はあ、はあ、はあ。どうにか、振り切れた……。まさか、こんなことが起きるだなんてね……)

 私は速度を落として、嘆息。オスの態度に注意しながら進まないと――。そんなことを思いながら、一騒動あったアール村を抜けたのでした。
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