裏切られた令嬢は、自分になりすました従者から婚約者を守るため走る

柚木ゆず

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幕間 レイジSideその2(1)

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『アリス。少し休憩しよう』

 タイミングを見計らって予行演習を一旦止め、レイジはアリスを誘って城にある私室に来ていた。
 こうして二人きりになったのは、無論疑心を確かめるため。二人はレイジの従者が用意した紅茶を優雅に飲んでいるが、その実レイジの内心は穏やかではなかった。

「……レイジ様と飲む紅茶は、いつも以上に美味しくなります。不思議ですよね」
「その時の気持ちで味が変わるなんて、不思議なことだよね。とある本に載っていた『愛は最高のスパイス』、それは間違いなかったよ」

 いつものようにソファーに二人並んで座り、いつものようなやり取りをする。
 けれどやはり、しっくりこない。まるでアリスの姿をした別人が、そこにいるような感覚に陥る。

(…………あれから何度も、本人じゃないと思ってしまっている……。そういう事は、有り得ないが……。この感覚を信じて、探りを入れてみるか……)

 紅茶を飲んで、スコーンを摘み、他愛もない話をして――。こちらはいつも通りだとアリスに認識させ、レイジはさり気なく作戦を始めた。

「アリス。僕達はついに、夫婦になるんだよね。そう考えていたら、出会った時から今までの事が蘇ってきたよ」
「実を言うと、私もそうなんですよ。三年の間に、色々ありましたよね」
「そう、だね。……初めて僕が、外出に誘った時。どこに行ったか覚えてる?」
「東にある『ユーレの森』、ですね。レイジ様と最初にお出かけした場所ですし、綺麗な鳥の声の合唱……。忘れるはずがありませんよ」

 レイジは三年前に東にあるユーレの森に誘い、陽だまりの中で共に鳥達の歌声を楽しんだ。
 今の台詞の中に、間違いは一つもない。

「あとは…………アレ。君が初めてくれたクリスマスプレゼント、あれはすごく嬉しかったな」
「手編みのマフラー、ですよね。お渡しする時はとってもドキドキしていて、満面の笑みが返ってきてホッとしました」

 12月25日の夜。職務から帰ると城にアリスがいて、緊張気味にプレゼント袋を渡してくれた。その中身は青色の手作りマフラーで、今でも大事にしている宝物の一つだ。

(この出来事もすらすらと、しかも微塵も迷わず即座に答えた……。やはり、僕の考えすぎなのか……?)

 特に、二つ目。アリスは『満面の笑み』と、その時の顔の様子まで正確に口にした。
 それを言えるという事は、その場にいたという事。即ち本人の証左となる。

(……あの時あの場には、二人きりだった。二人しか知らない内容を知っているのであれば、どう考えても――待てよ……。そうとは、限らないぞ……)

 これらの出来事は、秘匿の義務が生じないもの。そのため、アリスが誰かに話をしている、という可能性があるにはある。

(……可能性があるのであれば、ソレを0にするまでは止めてはいけない……。…………次は、アレを出してみよう)

 レイジは、ごくりと唾を嚥下。精一杯心音を落ち着け、平常の表情を張り付けて普段のペースで口を動かす。

「アリス。僕の中でもう一つ、とても印象深い記憶があるんだよ」
「そうなのですか? なんなのでしょう?」
「なんでも軽々とこなしてしまう、才能に溢れた少女。実はそれは間違いで、本当は努力と根性で成し遂げていた、という事だよ」

 この世でレイジしか知らない、アリス・ワールの秘密。そのネタを出してみると――

「え……?」

 アリスの態度が、激変。これまで悠々としていたアリス・ワールが、おもわず固まった。
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