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第8話 切っ掛けは部室で(1)
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「おはよう。加藤さん」
「おはよう。加藤」
「おはようございます。井上さん、松浦先輩」
涼子や百合が所属している、女子テニス部の部室。朝練に参加するため入室した百合はチームメイトに挨拶を行い、着替えるべく室内を縦断しながら内心ほくそ笑みます。
((橋本さんはいつも、一番先にここに来ていた。だとしたら))
今日は、朝練に参加しない。練習熱心な彼女が朝練に不参加という事は、ついに折れたという事。
折れたという事は、不登校になる。不登校になるという事は、部活動にも参加できない。
部活動に参加できないという事は、
レギュラーの椅子が、一つ空く。
となれば、空いて席に座るのは自分。
興奮、喜び。それらを内心では抑えきれなくなり、おもわず頬が緩んでしまいました。
「今朝のユリ、機嫌がいいわね。イイコトあった?」
「はい、そうなんですよ。今日は、幸せな日々の始まりの日、なんです」
不正を働いた者に罰が下り、不正を働かれた者に光が差す日。百合は部長・飯島早苗に対して満面の笑みを浮かべ、足取り軽く自分用のロッカーへと移動。鼻歌交じりで鍵を開け、練習用のユニフォームへと着替えを始めました。
((このタイミングなら、次の大会は選手として参加できる。間に合ってよかった))
再び自然と笑みが零れ、喜びを満喫します。行動には起こせないので、心中でピョンピョンと飛び跳ねて。落ち込んで四つん這いになる涼子の背を踏みつけるイメージをして嗤い、((そういえば))とロッカーに詰め込んだ鞄を見やります。
((折角準備をした、更なるお仕置き。無駄になってしまいましたね))
百合が用意していたもの、それは『涼子から監督への手紙』。
これを適当な場所に落として部員に発見させ、『涼子が渡そうとして落としていた』『やっぱり遠い親戚だったんだ』などなど――。不正をした女は最低でも謹慎処分に、何かしらの理由で贔屓をした監督をクビにする道具を、偽装していたのでした。
((一生懸命筆跡を再現したのに、役に立たないのは残念ですわね。はぁ。もっと早く再現できるようになっておけば、よかった))
でも、似たような状況にはなった――。正当な罰を下せたのだから、よしとしましょう――。
百合は何度も何度も大きく頷き、そしてその後。一瞬にして、全身から血の気が引く事になります。
なぜならば――
「ね、ねえユリ。さっき、さ……。アンタの鞄から、こんなものが落ちたんだけど……」
――今し方話しをした部長の飯島早苗が、手紙を持っていたから。
可愛らしい封筒の隅に『涼子より』とある、涼子を装い書いた手紙を持っていたからです。
「おはよう。加藤」
「おはようございます。井上さん、松浦先輩」
涼子や百合が所属している、女子テニス部の部室。朝練に参加するため入室した百合はチームメイトに挨拶を行い、着替えるべく室内を縦断しながら内心ほくそ笑みます。
((橋本さんはいつも、一番先にここに来ていた。だとしたら))
今日は、朝練に参加しない。練習熱心な彼女が朝練に不参加という事は、ついに折れたという事。
折れたという事は、不登校になる。不登校になるという事は、部活動にも参加できない。
部活動に参加できないという事は、
レギュラーの椅子が、一つ空く。
となれば、空いて席に座るのは自分。
興奮、喜び。それらを内心では抑えきれなくなり、おもわず頬が緩んでしまいました。
「今朝のユリ、機嫌がいいわね。イイコトあった?」
「はい、そうなんですよ。今日は、幸せな日々の始まりの日、なんです」
不正を働いた者に罰が下り、不正を働かれた者に光が差す日。百合は部長・飯島早苗に対して満面の笑みを浮かべ、足取り軽く自分用のロッカーへと移動。鼻歌交じりで鍵を開け、練習用のユニフォームへと着替えを始めました。
((このタイミングなら、次の大会は選手として参加できる。間に合ってよかった))
再び自然と笑みが零れ、喜びを満喫します。行動には起こせないので、心中でピョンピョンと飛び跳ねて。落ち込んで四つん這いになる涼子の背を踏みつけるイメージをして嗤い、((そういえば))とロッカーに詰め込んだ鞄を見やります。
((折角準備をした、更なるお仕置き。無駄になってしまいましたね))
百合が用意していたもの、それは『涼子から監督への手紙』。
これを適当な場所に落として部員に発見させ、『涼子が渡そうとして落としていた』『やっぱり遠い親戚だったんだ』などなど――。不正をした女は最低でも謹慎処分に、何かしらの理由で贔屓をした監督をクビにする道具を、偽装していたのでした。
((一生懸命筆跡を再現したのに、役に立たないのは残念ですわね。はぁ。もっと早く再現できるようになっておけば、よかった))
でも、似たような状況にはなった――。正当な罰を下せたのだから、よしとしましょう――。
百合は何度も何度も大きく頷き、そしてその後。一瞬にして、全身から血の気が引く事になります。
なぜならば――
「ね、ねえユリ。さっき、さ……。アンタの鞄から、こんなものが落ちたんだけど……」
――今し方話しをした部長の飯島早苗が、手紙を持っていたから。
可愛らしい封筒の隅に『涼子より』とある、涼子を装い書いた手紙を持っていたからです。
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