終わらない復讐は初恋のかたち

いとま子

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6.それでいい※

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『やろうぜ』

 そう小野塚自ら言った割に、彼は自発的に行動しようとはしなかった。やり方が分からないからかもしれない。

(それもそうだよな。付き合ってるときもキスまでしかしなかったし、同性と付き合って『気持ち悪い』と言って別れた人が、男同士のセックスなんか調べようとは思わないか)

 頭の片隅で冷めた感想を抱きながら、木崎は次第にキスを深くし、熱い舌を絡ませた。
 小野塚は今、気持ち悪い、と思っているのだろうか。そして、これも金のためだと諦めながら、自らの人生を呪っているのだろうか。木崎は小野塚の表情を盗み見る。

(嫌悪にしろ後悔にしろ、先輩が今苦しんでるなら好都合じゃないか。この行為自体が復讐みたいなものなんだし)

 身体の線をなぞりながら、小野塚の中心へと触れた。少し反応している。溜まっていたのだろうか。女性と付き合っているようには見えないし、この部屋に女性は呼べないだろう。
 スウェットの上から、少し揉むようにして、下から上へと擦り上げる。

「……っ」

 小野塚が少し眉を寄せた。スウェットのズボンに手をかけ、下へとずらすと、小野塚のペニスがあらわとなった。すでに半分ほど勃ち上がっている。

(よかった)

 木崎は胸を撫で降ろす。萎縮するほど嫌悪はされていないようだ、と前向きに考えた。触れば誰でも反応するとは思いたくない。
 木崎はそこに顔を近づけ、口に含んだ。奥まで、できるだけ口の中に収めようと飲み込んでいく。

「……っ、ふ……」

 独特の青苦さと、次第に喉を圧迫していく質量に、たまらず眉根を寄せた。ゆっくりと吸いとるように顔を持ち上げる。唇で擦るように抽挿を数回、繰り返した。
 それから先端に口付け、透明な蜜を溢れさせる窪みに舌を這わせる。くびれた部分を伝い、裏筋を上から下へとゆっくりなぞった。どこがいいのか、小野塚の反応を見ながら愛撫する。小野塚のペニスは完全に上を向いていた。
 経験はあまりない。ずっと過去に囚われていてはいけないと、数度、コミュニティサイトで知り合った男性とホテルへ行ったことはある。木崎も触られれば反応するし、快楽に身をゆだねることも出来た。だが、関係は長くは続かなかった。どうしても小野塚の顔が浮かんでくる。相手も男を求めているのだから、小野塚の言葉など気にしなくてもいいのに、キスをするたび、身体を重ねるたび、小野塚のことが思い出された。

(その小野塚先輩が、目の前にいるんだ)

 改めて実感しながら行為を続けた。舌を這わせる合間に、自分の指も咥えた。唾液を絡ませ、滴るほど纏わせる。それを自らの窄まりにあてた。
 こんなことは自分でやったことがなかった。今まではずっと一夜を共にしてきた相手がリードしてくれ、木崎は受身に回っていたのだ。任せてさえいれば良かった。

「っ、……く、ぅ……んっ」

 今回はそういうわけにはいかない。おそるおそる探りながら、ゆっくりと指を差し込む。そして押し広げるように指を動かした。経験が少ないということを小野塚に悟られないように、必死に動かした。木崎は普段からこういう風に他の男ともやっているんだ、と思ってくれた方が楽だと思った。もうすでに頼めば誰にでも体を許すおかしい奴だと思われているかもしれないが。
 小野塚の先端から、熱く苦い液が溢れてくる。すっかり張り詰め、脈打っている。唾液で光る茎から口を離すと、細い糸が小野塚と木崎の口を繋いだ。それを舌に絡ませて、断ち切った。
 後ろから指を引き抜く。まだ完全にはほぐれていなかった。それでもかまわない。

(先輩が正気に戻ってしまう前に、早く……)

 木崎は小野塚にまたがり、上を向く先端を自らの蕾にあてがうと、ゆっくりと腰を落とした。

「……――っ!」

 瞬間、圧倒的な質量が木崎を襲った。目の前がちかちかと明滅する。指とは比べ物にならない異物感に、頭の天辺まで裂けてしまいそうだ。あまりの衝撃に息が詰まり、声も出せない。しばらく下唇を噛み、激痛に耐えた。小野塚を見ると、彼も苦しげに眉間に皺を寄せていた。
 まだ先端も入っていないが、血が出ているかもしれない。

(初めてでもないのに)

 馬鹿げた考えが頭をよぎる。木崎は苦痛を何とか逃がそうと、深く息を吐きながら、少しずつ小野塚の屹立を受け入れていった。

「……っ、……うぅ……っ」

 ふいに、涙がこぼれた。あまりの痛みに耐えられないからか、こんなことをやっている自分が情けなくなったのか、久しぶりの快楽に喜んでいるのかは分からない。小野塚に悟られないよう、無理やり腰を動かし始めた。
 加減が分からなかった。相手にまたがり、自分から動くなど初めての事だ。そのことに気付かれないように、無我夢中で身体を上下に揺さぶった。苦痛で、揺れる木崎の性器が萎縮してしまっている。木崎は右手でそれを掴むと上下に扱いた。小野塚の目の前で自慰をするような行為は恥ずかしかったが、こうでもしないと腰を動かすたびに起こる苦痛から逃れることが出来なかった。
 木崎は必死に身体を動かしていたが、突然、小野塚が木崎の腰を掴み、思い切り突き上げた。

「――っあ、ああっ!」

 思わず口から上擦った声が漏れる。あまりの衝撃で体勢が崩れた隙に、小野塚は木崎を横に倒し、ついには仰向けにした。乱暴に男根が抜き取られ、内壁が喪失感を覚える。限界まで広げられていた場所は、だらしなく収縮を繰り返した。

(な、なに……先輩、なんで……?)

 あまりにもとろい動きに痺れを切らしたのだろうか。小野塚の突然の行動に混乱しているうち、再び、中へと差し込まれた。二度目の挿入は、容易に小野塚の屹立を奥へと飲み込んでいく。蕩けた襞が熱く絡みつき、卑猥な水音を出した。激しく揺さぶられるたびに、木崎の喉からは意思に反し、嬌声が漏れた。

「は、あ、あ、ああっ」
 
 木崎は飛びそうな意識の中でふと思い出した。隣に住むスーツ姿の男の言葉。

『ここの壁、薄いから外の音って簡単に聞こえるんですよね』

 木崎は腕を噛み、声を抑えた。

「んっ……ふ、ぁう……んんっ」

 小野塚の上にまたがっている時には苦痛の方が勝っていたが、今はただ、小野塚にのしかかられ突かれるたびに、頭が真っ白になるほどの快感を味わっていた。そして、小野塚がある一点を突いたとき、今までとは全く違う感覚に襲われた。

「っ……う、んあっ……あっ、ああ、ぃああ!」

 そこを突かれるたび、木崎は声を押し殺すことも無駄な足掻きに終わり、身体を打ち震わすことしかできなかった。小野塚も木崎の様子が変わったことに気付いたのか、何度も同じ場所を攻め立てた。
 次第に小野塚の息も上がり始め、動きは激しさを増していった。腰を軽く持ち上げられ、奥まで一気に突かれるたびに、木崎の目の前には火花が散った。このまま死んでもおかしくないと思った。

「ああ、いいっ、せんぱ……せんぱい……ああっ」

 もう腕も噛むことも忘れていた。呼吸とともに上擦った声を上げた。自分のどこからこんな声が出ているのか分からないような声だ。隣に聞かれるという危惧も、頭から吹き飛んでいた。
 やがて小野塚がぎりぎりまで引き抜き、一気に奥まで突き刺した。

「あああっ――」

 その衝撃に、木崎の中で快楽が弾けた。意識は飛び、筋肉は引きつり、びくびくと身体を震わせながら、白濁した液を勢いよく噴出させた。同時に最奥まで収まった小野塚を締め付ける。熱塊は痙攣しながら中に熱い飛沫を放った。
 倦怠感に目はうつろのまま、木崎は荒い息を繰り返す。
 小野塚は今、どう思っているのだろう。お金をもらえることに喜んでいるのか、気持ち悪いと言っていた男を抱いて後悔しているのか、積極的に動いていた男を忌々しく思っているのか。

(後悔や忌々しく思う気持ちがあるのなら、それでいい。復讐したかったんだから)

 小野塚の表情を確かめようとしたが、すぐに意識が途切れた。
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