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じきに魔法陣を描き終わり、フィラーナは当然のようにギルオスの隣に腰掛けた。
しばし二人のイチャつきがあり、イリーシャに咳払いをされて共に表情を引き締めた。
「……さて、今のうちに、話すべきことを話そうか」
真面目な顔で話し出したギルオスの切り替えの早さは称賛に値するだろう。
ギルオスは「その前に」とクライドに視線を送った。
「君は、このまま私達に同行するつもりか?」
「許可をもらえるならな」
クライドの目は真っ直ぐギルオスに向けられた。意地でも付いていくと言わんばかりの目つきだ。
彼の本気を認めたらしいギルオスは、どこか安堵したように笑った。
「それは良かった。出来れば無理強いはしたくなかったからな」
彼の言葉は、要は返答の如何に関わらず、クライドを同行させる気だったということだ。
彼の考えに合点がいかずに子供三人が眉をひそめたのを見て、ギルオスは一呼吸置いて告げた。
「……まず言おう。薄々でも気づいているとは思うが、君達はクレムルの魔術師の子だ。一人は私とフィラーナの子だがね」
それを聞き、三人共顔を見合わせた。身近にいたギルオスが魔術師なのだから、別段驚きはしない事実だ。しかし、昨日会ったばかりの者同士が仲間だったことに運命を感じた。そして、三人の頭の中には、同じ考えと戸惑いが浮かんでいた。
「……もしかして」
代表して発言したのは、そこはかとなく悲しげなフォルティカだ。
「私とクライドは、きょうだいなの……?」
こうもそっくりで、しかも同じ国の生まれとあっては、そう考えずにはいられなかった。そして、案の定彼は頷いた。
「ああ、君達は双子だよ」
そう返したあとで、ギルオスの目がクライドに向き、一息ついてから厳かに告げた。
「クライド=クレムレア……それが君の本当の名だ。そして君は、王位継承権を持つ王太子だよ」
「……は? 俺が、王太子?」
即ち、クライドとフォルティカは、王の子ということだ。
子供三人は、そんなこととは露ほども予想していなかったため、揃って目を白黒させた。
「……一旦、私達の関係を整理しようか」
三人が事を上手く呑み込めていないと判断したギルオスは適当な枝を拾い、地面に相関図を書いた。
それを黙って見ていたクライドは、少しばかり驚いた顔を、ギルオスに向けた。
「あんた、王妃の兄なのか」
「血は繋がっていないがね。妹のルーシェアは、父の再婚相手の連れ子だ」
「きょうだいには違いないのね」
イリーシャが呟き、フォルティカとクライドを交互に見やる。
二人が王の子ならば、イリーシャがギルオスの子ということになる。そして、ギルオスと王妃は兄妹……。
「ということは、この二人は私の“いとこ”ってことだね」
二人が赤の他人でないことは、何となく嬉しく思えた。いとこであれば、二人が王族であっても、たまには会えるだろう。
そう思って微笑むと、難しい顔をしていた親友は笑い返してくれた。クライドはどうかといえば、どこか不満そうに睨んできた。
「妙に気が合ったから、お前も俺の兄妹だと思ったのに」
予想が外れたからと言って睨まないでほしい。何故か無性に気にくわない。
「残念でした!」
べーっ、とイリーシャが子供っぽく舌を出すと、彼の額に青筋がたった。
「イリーシャ、お前……」
「はいはい、そこまで。ギルオスの話は最後まで聴いて」
フィラーナに諌められ、同時に顔を背けた。
二人の様子を黙って見ていたギルオスは「仲良しだな、お前達は」と笑ったあと、真面目な顔に戻した。
「話を戻すぞ。王族と私の関係だが、王妃の兄というだけではない。私とフィラーナは、共に王家専属の守護者を代々務めてきた家柄の魔術師だ。守護者は親衛隊よりも王との距離が近い存在で、何より王家の守護を重んじる」
親が守護者なら、イリーシャも守護者だ。故に、今後はフォルティカ達を護っていかなくてはならない。
「私、弓も剣も体術も苦手だけど、何とかして二人を護るからね」
「いやいや、待て待て待て」
堅い決意と共に宣言すると、ギルオスに慌てて突っ込まれた。
「いいか、イリーシャ。お前はまだ魔術を使えないし、そもそも守護者に任じられていないから、二人を護る必要はない。まずは自分をしっかり護りなさい。わかったな?」
「……はい」
二人を護るのは許さないと言わんばかりの勢いで言われ、彼女はがっくり肩を落とした。未熟ゆえに役立たずでは、と本心では思っていたところへ、親からのだめ押しを食らったのだ。落ち込まずにはいられない。
ギルオスは他の二人にも、自分を最優先で護れと言い聞かせた。
それからしばしの間は、ギルオスによる“魔力覚醒までの護身術講座”が開かれ、子供たちは半ば詰まらなく思いながら聞いていた。
しばし二人のイチャつきがあり、イリーシャに咳払いをされて共に表情を引き締めた。
「……さて、今のうちに、話すべきことを話そうか」
真面目な顔で話し出したギルオスの切り替えの早さは称賛に値するだろう。
ギルオスは「その前に」とクライドに視線を送った。
「君は、このまま私達に同行するつもりか?」
「許可をもらえるならな」
クライドの目は真っ直ぐギルオスに向けられた。意地でも付いていくと言わんばかりの目つきだ。
彼の本気を認めたらしいギルオスは、どこか安堵したように笑った。
「それは良かった。出来れば無理強いはしたくなかったからな」
彼の言葉は、要は返答の如何に関わらず、クライドを同行させる気だったということだ。
彼の考えに合点がいかずに子供三人が眉をひそめたのを見て、ギルオスは一呼吸置いて告げた。
「……まず言おう。薄々でも気づいているとは思うが、君達はクレムルの魔術師の子だ。一人は私とフィラーナの子だがね」
それを聞き、三人共顔を見合わせた。身近にいたギルオスが魔術師なのだから、別段驚きはしない事実だ。しかし、昨日会ったばかりの者同士が仲間だったことに運命を感じた。そして、三人の頭の中には、同じ考えと戸惑いが浮かんでいた。
「……もしかして」
代表して発言したのは、そこはかとなく悲しげなフォルティカだ。
「私とクライドは、きょうだいなの……?」
こうもそっくりで、しかも同じ国の生まれとあっては、そう考えずにはいられなかった。そして、案の定彼は頷いた。
「ああ、君達は双子だよ」
そう返したあとで、ギルオスの目がクライドに向き、一息ついてから厳かに告げた。
「クライド=クレムレア……それが君の本当の名だ。そして君は、王位継承権を持つ王太子だよ」
「……は? 俺が、王太子?」
即ち、クライドとフォルティカは、王の子ということだ。
子供三人は、そんなこととは露ほども予想していなかったため、揃って目を白黒させた。
「……一旦、私達の関係を整理しようか」
三人が事を上手く呑み込めていないと判断したギルオスは適当な枝を拾い、地面に相関図を書いた。
それを黙って見ていたクライドは、少しばかり驚いた顔を、ギルオスに向けた。
「あんた、王妃の兄なのか」
「血は繋がっていないがね。妹のルーシェアは、父の再婚相手の連れ子だ」
「きょうだいには違いないのね」
イリーシャが呟き、フォルティカとクライドを交互に見やる。
二人が王の子ならば、イリーシャがギルオスの子ということになる。そして、ギルオスと王妃は兄妹……。
「ということは、この二人は私の“いとこ”ってことだね」
二人が赤の他人でないことは、何となく嬉しく思えた。いとこであれば、二人が王族であっても、たまには会えるだろう。
そう思って微笑むと、難しい顔をしていた親友は笑い返してくれた。クライドはどうかといえば、どこか不満そうに睨んできた。
「妙に気が合ったから、お前も俺の兄妹だと思ったのに」
予想が外れたからと言って睨まないでほしい。何故か無性に気にくわない。
「残念でした!」
べーっ、とイリーシャが子供っぽく舌を出すと、彼の額に青筋がたった。
「イリーシャ、お前……」
「はいはい、そこまで。ギルオスの話は最後まで聴いて」
フィラーナに諌められ、同時に顔を背けた。
二人の様子を黙って見ていたギルオスは「仲良しだな、お前達は」と笑ったあと、真面目な顔に戻した。
「話を戻すぞ。王族と私の関係だが、王妃の兄というだけではない。私とフィラーナは、共に王家専属の守護者を代々務めてきた家柄の魔術師だ。守護者は親衛隊よりも王との距離が近い存在で、何より王家の守護を重んじる」
親が守護者なら、イリーシャも守護者だ。故に、今後はフォルティカ達を護っていかなくてはならない。
「私、弓も剣も体術も苦手だけど、何とかして二人を護るからね」
「いやいや、待て待て待て」
堅い決意と共に宣言すると、ギルオスに慌てて突っ込まれた。
「いいか、イリーシャ。お前はまだ魔術を使えないし、そもそも守護者に任じられていないから、二人を護る必要はない。まずは自分をしっかり護りなさい。わかったな?」
「……はい」
二人を護るのは許さないと言わんばかりの勢いで言われ、彼女はがっくり肩を落とした。未熟ゆえに役立たずでは、と本心では思っていたところへ、親からのだめ押しを食らったのだ。落ち込まずにはいられない。
ギルオスは他の二人にも、自分を最優先で護れと言い聞かせた。
それからしばしの間は、ギルオスによる“魔力覚醒までの護身術講座”が開かれ、子供たちは半ば詰まらなく思いながら聞いていた。
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