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64.究極のエロティシズム(3)

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「やだ、待ってっ」
 云っても無駄だと知りながら智奈は口走った。
「躰の具合が悪い?」
「そうじゃなくて!」
「よかった。縛っているだけで、いつもと変わらないんだろう? だったら、ただ感じていればいい」
 京吾はくちびるにさらりと口づけ、胸に飛んでトップを咥え、軽く吸着しながら離れたあと、みぞおちから臍窩へと下った。その窪みに舌がもぐり――
 あぅっ。
 なんとも云えない感覚に智奈の躰がうねった。尖らせた舌先が窪みの中でくるくるとうごめく。やはり、躰は動かせなかった。逃れられないぶん、感覚は鮮明になるばかりで中心からこぼれ出そうな感触がしてくる。
 京吾がそこを離れたときは喘ぎながらほっとしたけれど、それはつかの間にすぎず、下腹部を舌が這い、脚の付け根、そして右腿の内側に伝う。そこが性感帯とは思ったこともなかったけれど、脚の付け根に近い内腿は意外に弱点だった。そこにキスを受けたとたん、思わず脚を閉じようとしたけれどかなわなかった。
「智奈、力を抜いてて。せっかくきれいな肌をしてるのに痣ができる」
「だったら、ほどいて!」
「こういう倒錯したシチュエーションもたまにはいい。智奈が嫌がるとなおさら」
「サディスト!」
「それなら、縛られても感じてる智奈はマゾヒストだ」
 いつものように京吾の応酬には敵わず、智奈はやり込められる。
 いいから、と、京吾はなだめ、そして淫蕩な笑みを浮かべると、立てた中指を智奈の秘口に押し当てる。すると、中指は吸いこまれるように、ぬぷっとこもった粘着音を立てながら潜りこんだ。
 あ、あ、あ、ふっ。
 すぐさま突き立てるのではなく、じわじわと侵入してくるからその感触は鮮明だ。指に絡む襞を通して、ふるえるような快感を呼び起こす。そうして奥に進みつつ、ひとつの弱点に着いてとどまると、指の腹でそこを摩撫された。
 あふぅっ。
 ぶるっと智奈が身ぶるいをした直後に指はそこから引き返し、入り口を抜けだし、そこが閉じる寸前でまた潜ってくる。智奈は溺れかけたようにひどく喘いだ。
「智奈、やっぱりグチャグチャだ。指が融けるかもな」
「やっ、……ふ、あっ……」
 なんの抵抗もなく、それどころか京吾の指が出入りするのを助けるくらいに智奈の体内から蜜が溢れている。くちゃっくちゃっとその淫音はだんだんと激しくなって、お尻の間に伝っていた。
「んっ、ぁあっ……キョー、ゴっ……ああっ……漏らして、しまいそ……っ」
 手足を縛られているせいで腰だけがわずかに揺れるその様はひどく卑猥だ。
「大丈夫だ」
 智奈の訴えも、そう応じる京吾も、ルーティンと云っていい、意味のない応酬にすぎない。京吾だけ余裕綽々でそれを楽しんでいる。それ以上に、京吾にとっては責め立てる合図になっているのかもしれない。
 噴くという感覚にはいまだに慣れない。というより、わからない。自分の意思とは関係なく、それは起き、京吾はそんな智奈の躰を素直だと悦ぶ。そうなる前兆は、水を掻きまわすような音が体内で起こったときだ。
「あ……キョーゴっ……」
 浅いところにある弱点で指の腹が小刻みにうごめいた。智奈の意思から離れたところで腰がかくかくとっと上下する。
「もぅ――……ふぁああっ」
 智奈のイク瞬間を京吾はちゃんと見切っていて、その間際で花片が咥えられた。熱く濡れた京吾の口は未知の軟体生物のようで、ぱくりと貼りつき、そのまま浸蝕されそうで智奈はおののく。花芽ごと花片を吸着するキス音が立ち、体内の弱点がぐりっと捏ねられたとたん果てへと向かった。智奈のお尻がびくんっと跳ねる。同時に、止めようもなく淫水を噴いてしまう。
 京吾が指を動かしてグチャッ、グチャッと淫水を掻きだし、その傍ら、体内の収縮に合わせてお尻が跳ねるたびに智奈自らも噴いている。京吾の喉を鳴らす音は聞こえなかったけれど、一定の間隔で花片が吸引され、きっと京吾は飲み下している。花片までもが吸いこまれそうに感じて、智奈のお尻が打ちふるえた。
「はぁっ、キョ……ゴ……も、ゃ……め、て……」
 智奈はできうる限りで腰をよじりながら、息も絶え絶えに京吾を制した。つらくはなくて、いまキョウゴから与えられているのは快感でしかないけれど、躰の中心から離れてくれなければ、智奈の躰は干からびてしまいそうな気がした。
 京吾は惜しむようにそこに吸いつきながら顔を上げていく。お尻が痙攣を引き起こし、伴って智奈は腰が砕けそうにぐったりした。
「おれのばんだ」
 喘ぐ智奈の口もとで京吾が熱く囁いた。薄らと目を開け、緩慢に瞬きをした。潤んでぼやけた視界が晴れるよりもさきに、京吾のオスが秘口に押し当てられた。
 んっ。
 抉じ開けられる瞬間は本能的に呻いても、やはりつらくはない。脚を開ききっているせいだろうか、体内の襞が京吾のオスに纏わりつく感覚がくっきりとして、意識が遠のきそうなほど心地が良すぎた。ゆっくりと埋もれて隘路が満たされ、すると心までもが満ち足りた。それは京吾も同じなのだろう、奥まで貫いたあと深く息をついた。
「ゆっくりやるから」
「ぅん……っ」
 呻くような返事をすると、京吾の手が髪を撫でながらすっと落ちていく。毛先をつかんで持ちあげ、口づけながらその香りを嗅ぐ。その様子は、媚薬が潜んでいたかのように恍惚として見える。
 そうして京吾は智奈の腰を支えるように持ち、自分の腰を引いた。突端が抜けだす寸前で京吾は静止し、次にはいったん閉じかけた秘口がまた開かれていく。ゆったりしているからこそ、よけいに快感は大きくなる。京吾もそうなのかもしれない。耐えるような呼吸音をこぼしている。
 律動が始まった。京吾が腰を引けば、智奈の体内は引きとめるように纏わりつき、反対に侵略してくると、招くように順々に吸いついていく。その二通りの微妙に違う快感と濡れた淫音に煽られて脳内が酔う。
 智奈の中で前後するスライドは一定の速さを保っていて、けれど、その深度はだんだんと奥深くなっている。それは気のせいではなかった。
 ん、ぁああああっ。
 っく……ぅっ。
 智奈の嬌声がひと際甲高くなったとき、京吾もまた堪えきれずに唸った。京吾が押しつけるでもなく、智奈の最奥が勝手にオスを導いて突端を咥えこんだのだ。
 京吾が腰を引けばずんと重たくそこを抜け、腰を繰りだせばじゅぷっと粘り気のある蜜音が立ってすっぽりと嵌まりこむ。智奈は気の遠くなるような快楽に浸かってそこに閉じこめられた。嬌声はもう吐息にしかならない。
 躰を開ききって拘束されていることで、意識も躰も投げだしたくなるような快楽が待っているとは思わなかった。繋がった中心だけが息づいて、そこには快感しかない。
「はっ……はっ、ふっ……ぅっ……きょ……ご、んっ……」
「ああ。っ、く……一緒に、ふ……イク……?」
 京吾は途切れ途切れに問う。 
 んっ……。
 智奈は返事とも呻き声ともつかない声で応じ、のろのろとうなずいた。
 京吾は智奈の背中に右手をまわして上体を起こし、抱き寄せたあと左手で腰もとを密着させた。京吾は腰を揺り動かし、最奥で浅いスライドを繰り返した。
 自分の躰の奥がどうなっているのか、智奈はまるでわからない。京吾は病みつきだと云う。智奈は京吾しか知らないけれど、躰の大きさが違っても、いや、違っているからこそすっぽりと京吾の腕のなかにおさまってぴったりだと思えている。きっと、その逆のことが智奈の体内の最奥で起きているのだ。
 汗ばんだふたりの肌がぺたりと吸着して気持ちがいい。そんなことすらも快感に変わって――
「はっ、あ、あ、あ、……イっちゃ……ふ、はぁあ、ふ――――っ」
 ぶるっと身ぶるいをしたとたん京吾が強く抱きしめて、一寸も躰を動かせない。そのぶん、快感は体内にこもったのかもしれない。ドックン、と激しい収縮に見舞われ、智奈の躰は弛緩した。京吾が智奈の頭上で呻き、腰をせん動させて――それは無意識だったかもしれないが、最奥に熱を迸らせた。溢れた智奈の淫蜜と混じり合う。爆ぜた余韻で京吾が貫くように腰を押しつけるたびにグチャリ、グチャリとひどい淫音がした。
 ふう――っ。
 やがて、満足そうな長い吐息が聞きとれた。
 智奈を抱きしめたまま京吾は、手脚を縛っていたバスローブのベルトをほどいた。ひくっひくっと、智奈はまだ痙攣が続いている。京吾はぐったりした智奈をお尻からすくい、立ちあがった。
 ん、ふっ。
 躰はまだ繋がったままだ。自分の躰の重みで少し沈み、京吾のソレが奥深くに嵌まってしまう。爆ぜたはずが、京吾は智奈と違って力尽きていない。京吾の首もとに手をまわして縋りつき、這いあがろうと試みたけれど、力が入らなかった。
「きょ……ご……ぅくっ……」
 苦痛は微塵もない。ただ、いまの快楽はある種の怖さを招く。脳がただれ、溶けてしまいそうな怖さだ。智奈が嗚咽すると、なだめるように京吾はこめかみに口づけた。智奈の躰が持ちあげられて、すると快感もらくになった。
「泣くことはないだろう」
 京吾は智奈の全体重を支えたまま歩きだした。智奈の躰がますますびくつき、かすれた悲鳴をあげた。
「や、待っ……はぁっ……」
 果てからおりかけていたのに、京吾が一歩進むたびに、上へ上へとのぼらされる。ベッドに寝かされる直前に独り、智奈はのぼりつめた。びくつく躰に京吾は覆い被さって横たわると、智奈が落ち着くまで顔中にゆっくりとキスをちりばめた。
「京吾……」
 吐息混じりに名を呼ぶと、京吾は顔を上げて真上から智奈を見下ろす。
「智奈、届出は出さなくても結婚式は挙げないか? だれか立会人をつけて」
「……ほんと、に……?」
 頭がうまくまわらないなか、智奈はのんびりとびっくり眼になって京吾を見上げた。
「ああ。教会とか、証明書を出してもらえるようなところで」
 どう? と、京吾が問うよりも早く、智奈は俄に力が甦ってうなずいていたかもしれない。
 京吾は短くだったが笑い声をあげ、その振動が繋がった体内から躰中に伝わって智奈は身をよじった。連動して京吾も呻き、決して快楽に弱いのは智奈だけではないことを教える。
「京吾、ありがとう」
「礼を云うべきはおれのほうだ。愛してる」
「わたしも愛してる。大好き」
 重ねた告白に、参ったな、とそんな雰囲気で京吾は力ない笑みを浮かべて首を横に振った。
「競争してみようか?」
「何を?」
「どっちが溺れそうに重篤か。負ける気はしないけど」
「そんなこと……んあっ……」
 智奈が否定するさなか、京吾がゆったりと躰を揺らした。
「ひとつ、はっきりさせようか。ひと晩も持たずにおれの欲情は萎えるのか」
 つまり、朝までこのままでいようという宣言なのか。
「無理っ……あっ……」
「智奈、波に任せて。ふたりで漂う。ゆっくり……」
 京吾の言葉は呪文のようで、云ったとおりにスローテンポで躰をうねらせる。暗示にかかったように智奈は無抵抗に身を任せた。くちゃっ、くちゃっと水が鳴る音は、波打ち際のそれに似ている。
「このままだと朝にはふやけてそうだ」
 そう云ったあとの含み笑いも戯れるように智奈に纏わりついて、ただ心地がいい。
 いつしか感覚に任せて意識を手放したとき、果てたのか眠りについたのか、その区別はつかなかった。
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