皇子は愛を秘匿できない~抱き溺れる愚者~

奏井れゆな

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第4章 二十三番めの呪縛

20.

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「逃れられないだろう?」
 ハングはタロを絶対の存在として崇めた問いを投げかける。
 逃れられないというのはおそらく預言のことだと、そこまではわかったものの――
「ハング、預言がロード・タロの単なる希望だというのはわかっている。僕たちはそれに沿ったよ。凪乃羽に危険が及ぶことはないよね?」
 凪乃羽はムーンの言葉に預言が予言ではないことをあらためて示された。
 ハングはロード・タロの意向に沿って、あるいは相乗りをして、永遠の子供たちはそれに加担して凪乃羽を呼びよせたのだ。
 衝撃を隠しきれずムーンを見やったとき、だれかが凪乃羽の手を取った。見下ろすと、スターの小さな手が握りしめてくる。
「凪乃羽、大丈夫。わたしたちは裏切ったんじゃないの。御方だから。ハングはどうだか知らないけど」
「スター、凪乃羽にとっては全然、大丈夫じゃないだろ、それじゃあ」
 サンが呆れつつ指摘した。対してスターは反論を示してつんと顎を上げた。
「でも、森のなかでわたしたち以上に凪乃羽を守れる存在はいないでしょ。皇子からだって隠すことができるのよ。違う?」
「まあ、それはそうだけど……」
 サンが肩をすくめていると、ハングが長いため息を漏らし、同時にそれまでの重々しい気配を捨て、悠然とした様に変えた。
「心配しなくていい。おまえを――凪乃羽を傷つけることはない。私が制裁するのは、他の尊厳をないがしろにして痛めつける奴のみだ」
 それがだれを指し示しているかははっきりしている。ハングは永遠の子供たちから目を転じ、凪乃羽を見据えた。
 取り繕うだけの言葉には感じなかった。スターが察したように裏切られたと感じていた衝撃はおさまり、ハングの首が問うようにかしぐと凪乃羽はうなずいて応じた。暗黙の会話はハングがうなずき返すことで落着する。
「凪乃羽、ロード・タロが待っている。私と来てくれるな」
「……会えるんですか」
 思わず訊ねてしまったのは、夢の中でフィリルに同調したかぎり、ロード・タロの気配は感じられても姿を見ることがかなわなかったからだ。
「来てくれたらわかる」
 凪乃羽はためらった。迷うのではなくためらうという時点で、一緒に行かなければならないという気持ちが自分にあることの証しでもあった。
 凪乃羽の正体がローエンにばれていなくても、ヴァンフリーはローエンから裏切り者と見なされている。それならば、いずれは――いや、もうまもなく何かが動くことは凪乃羽にとってもわかりきったことだ。
 逃れられない。
 ロード・タロの希望にかかわらず、きっとハングの言葉がすべてだ。
「あの、ヴァンフリー皇子が傷つけられるようなことはありませんよね?」
 凪乃羽がためらう唯一の理由を問いかけると、ハングは驚いたようにわずかに目を見開く。
「我々が永遠に生きられることは知っているだろう? 加うるに、皇子は私のように捕らわれたとしても瞬時にして逃れられるが」
「はい。それでも……危めようと狙う人がいることといないことでは違います。深い傷を負えば動けなくなることもあるって聞きました。それに、皇帝陛下はいま皇子のことを疑っているかもしれません」
 ハングは何かを慮ったように目を細めて凪乃羽を見つめた。つと目を逸らしたかと思うとすぐに凪乃羽の顔に戻ってくる。
「なるほど。皇子は抜かりなく振る舞っているようだ。皇子のことなら心配無用だ。皇帝はまだエムを信じているようだからな。加えて、凪乃羽のことと同様におれがあえて皇子を傷つけることはない」
 ハングがエムを恋うていた、もしくは手に入れたがっていたことは聞いたけれど、その気持ちをずっと抱持してきたのかはわからない。ここでヴァンフリーの母親の名が持ちだされるのはどういうことだろう。そんなちょっとした疑問も、ハングが、どうする? と問うように首をひねると、即座に答えなければならない気にさせられ、凪乃羽は考える間もなくうなずいた。
「永遠の子供たち、行くぞ」
「うん」
 凪乃羽が身構える間もなくスターに手を引かれて二歩を踏みだし、ヴァンフリーに預言のことを話しそびれたと気づいたとたん、そこはスライドショーのように景色を変えた。
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