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第3章 Link up~合流~
11.
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祐仁は店員を呼び、颯天に選ばせることなく勝手に、なお且つ適当にメニュー表を見ながら注文をした。もともと祐仁は強引な嫌いがあった。加えていまある素っ気なさはどうやったら取り除けるだろう。
「話せないっていうのは監視されてるからですか。……盗聴も?」
店員が立ち去るなり颯天は訊ねた。
「至るところに防犯カメラが設置される時代だ。盗聴もネットも、疑えばきりがない。けど、おれとヘッドとの会話は聞いていただろう。もし二十四時間監視され、盗聴されているなら、おれが立ち回るまでもなく当然ヘッドは裏切り者がいるか否か、いるのならそれがだれかを知っていて、わざと泳がせているのでないかぎり組織は放っておかない。わざと泳がせてるのなら、おれがやってることは邪魔になる。ほかのことに手を尽くせるのに、そういう貴重な時間をおれから奪うのは無駄だ。とどのつまり、不必要に監視されているわけじゃない」
「けど心得にありましたよね。『監視されていると思え』って」
「あくまで『思え』だろう。常に規律を正せよ、ということだ。トップが部下を信用できないようでは組織として崩壊しているも同然だ。逆も然り。疑惑を抱えていながら忠誠心が生まれるはずはない。少なくとも、簡単にその存在を外に漏らしてはならないという性質を持った秘密結社は、信頼で成り立っているべきだ。上昇志向のもと多少、鎬を削ることはあっても」
「それは裏切り者がいるってことと矛盾してませんか」
「だから慎重に内偵している。人の心は絶対じゃない。そう思ってるとしたらめでたい奴としか云えないな」
そう云った祐仁は颯天を見ながら、その実、颯天を見透かして過去へと手を伸ばし、すぎた時間を手繰り寄せているような気配で焦点が合っていない。
颯天も同調して過去へと遡る。
かつて、密告により祐仁もタブーを犯したとして立場を危うくした。颯天のせいだ。
「すみません」
颯天の謝罪は唐突に聞こえただろう。祐仁は首をひねり、怪訝そうに眉をひそめる。
「何をしでかした」
「五年前のことです。おれが口を滑らせたから祐仁をあんな目に……」
「春馬か」
あのあと祐仁は大学に出てくることはなく、話す機会もなく別れさせられてなんの弁明もできていない。組織がわざわざ経緯を話したのか、颯天は祐仁の口からすんなりと春馬の名が出てくるとは思わなかった。
「聞いたんですか」
「そのくらい察せられる。おまえが拉致されるまえ電話で話したばかりだった。おれが拉致されたのも電話のあとだ」
「すみません。祐仁が話してくれた組織のことを喋ってしまったんです。監視されていると思え、ってつまり仲間内でも油断するなってことですよね。おれは油断しました」
「おれは漠然と説明しただけで、ちゃんと組織のことを教えていなかった。おまえのせいにしてもしかたがない。おれは目先の欲求に負けて油断した。それだけだ」
目先の欲求とは、いまはもう欲求もないと颯天に釘を刺しているのだろうか。それを確かめるには訊ねにくい。ガキのままか、とそう云った祐仁の言葉を思いだすと、答えは颯天の希望するものではないことが明らかだ。
「工藤さんはいまどこですか? 案内されたときは見当たりませんでした。隅から隅まで見たわけではないですけど」
再会して颯天がばかみたいに期待していたことは祐仁も知っている。いま落胆したのは期待を捨てきれていない証明で、それを祐仁が見越している気がして、颯天は取って付けたように春馬の話を持ちだした。
「アンダーのブルーに変わった。情報収集に役立っている」
「情報収集?」
「おまえと一緒だ。躰を武器にして組織の役に立ってもらう」
ブルーといえば多岐にわたり躰を張る仕事で、業務内容は違ってもホワイトと立ち位置は変わらないはずだ。エイドからブレーンに昇任することさえ難しいのか。けれど、祐仁はブレーンからエリートを越えてフィクサーにまで昇りつめた。あとはヘッド直属の側近か、もしくはヘッドしかない。
「……上に行かれてるのかと思ってました」
「おれを裏切るということがどういうことかわかってない。その結果だ」
祐仁は淡々としながら冷酷さを剥きだしにした。
「話せないっていうのは監視されてるからですか。……盗聴も?」
店員が立ち去るなり颯天は訊ねた。
「至るところに防犯カメラが設置される時代だ。盗聴もネットも、疑えばきりがない。けど、おれとヘッドとの会話は聞いていただろう。もし二十四時間監視され、盗聴されているなら、おれが立ち回るまでもなく当然ヘッドは裏切り者がいるか否か、いるのならそれがだれかを知っていて、わざと泳がせているのでないかぎり組織は放っておかない。わざと泳がせてるのなら、おれがやってることは邪魔になる。ほかのことに手を尽くせるのに、そういう貴重な時間をおれから奪うのは無駄だ。とどのつまり、不必要に監視されているわけじゃない」
「けど心得にありましたよね。『監視されていると思え』って」
「あくまで『思え』だろう。常に規律を正せよ、ということだ。トップが部下を信用できないようでは組織として崩壊しているも同然だ。逆も然り。疑惑を抱えていながら忠誠心が生まれるはずはない。少なくとも、簡単にその存在を外に漏らしてはならないという性質を持った秘密結社は、信頼で成り立っているべきだ。上昇志向のもと多少、鎬を削ることはあっても」
「それは裏切り者がいるってことと矛盾してませんか」
「だから慎重に内偵している。人の心は絶対じゃない。そう思ってるとしたらめでたい奴としか云えないな」
そう云った祐仁は颯天を見ながら、その実、颯天を見透かして過去へと手を伸ばし、すぎた時間を手繰り寄せているような気配で焦点が合っていない。
颯天も同調して過去へと遡る。
かつて、密告により祐仁もタブーを犯したとして立場を危うくした。颯天のせいだ。
「すみません」
颯天の謝罪は唐突に聞こえただろう。祐仁は首をひねり、怪訝そうに眉をひそめる。
「何をしでかした」
「五年前のことです。おれが口を滑らせたから祐仁をあんな目に……」
「春馬か」
あのあと祐仁は大学に出てくることはなく、話す機会もなく別れさせられてなんの弁明もできていない。組織がわざわざ経緯を話したのか、颯天は祐仁の口からすんなりと春馬の名が出てくるとは思わなかった。
「聞いたんですか」
「そのくらい察せられる。おまえが拉致されるまえ電話で話したばかりだった。おれが拉致されたのも電話のあとだ」
「すみません。祐仁が話してくれた組織のことを喋ってしまったんです。監視されていると思え、ってつまり仲間内でも油断するなってことですよね。おれは油断しました」
「おれは漠然と説明しただけで、ちゃんと組織のことを教えていなかった。おまえのせいにしてもしかたがない。おれは目先の欲求に負けて油断した。それだけだ」
目先の欲求とは、いまはもう欲求もないと颯天に釘を刺しているのだろうか。それを確かめるには訊ねにくい。ガキのままか、とそう云った祐仁の言葉を思いだすと、答えは颯天の希望するものではないことが明らかだ。
「工藤さんはいまどこですか? 案内されたときは見当たりませんでした。隅から隅まで見たわけではないですけど」
再会して颯天がばかみたいに期待していたことは祐仁も知っている。いま落胆したのは期待を捨てきれていない証明で、それを祐仁が見越している気がして、颯天は取って付けたように春馬の話を持ちだした。
「アンダーのブルーに変わった。情報収集に役立っている」
「情報収集?」
「おまえと一緒だ。躰を武器にして組織の役に立ってもらう」
ブルーといえば多岐にわたり躰を張る仕事で、業務内容は違ってもホワイトと立ち位置は変わらないはずだ。エイドからブレーンに昇任することさえ難しいのか。けれど、祐仁はブレーンからエリートを越えてフィクサーにまで昇りつめた。あとはヘッド直属の側近か、もしくはヘッドしかない。
「……上に行かれてるのかと思ってました」
「おれを裏切るということがどういうことかわかってない。その結果だ」
祐仁は淡々としながら冷酷さを剥きだしにした。
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