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第3章 Link up~合流~
12.
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黙したまま人を黙らせるのは祐仁が上に立つ資質を備えているからか。颯天に向けられたものではないとわかっていても口を開くのははばかられ、静かな怒りはテーブルにメニューがそろうまで続いた。
注文したものを一度に持ってくるよう云いつけていたとおり、四人掛けのテーブルには所狭しとプレートが並んでいる。ハンバーグにステーキ、そして生姜焼きなどやたらメーンディッシュが多く、素揚げサラダにポテトという、どう見てもカロリー過多な料理ばかりだ。そもそも外食はそんなものだが、それ以前の問題で――
「おれ、いまこんなに食べられませんよ」
と、無理強いされるまえに颯天は申告をした。
家にこもりがちで少食になったのは事実であり、沈黙を破るきっかけにはなったものの、はねつけるような気配で祐仁はじろりと颯天を睨みつけた。
「それでも食べろ」
反論は聞きたくないとばかりに命じると、祐仁はさっさとカトラリーボックスからナイフとフォークを取りだす。目の前に置かれたサイコロステーキを一つ、フォークで突き刺して口に入れた。
昼時であり、颯天も腹が空いていないわけではない。祐仁を倣って目の前にあった豚の生姜焼きを半分にカットして口に運んだ。
凛堂会で食べていたもののほうが、よく云えば品がよく、文句をつければ味が薄い。監禁されていたときは何も思わなかったが、いざ出てみると、ひどい扱いは男娼としての務めに限られていたと気づいた。もちろん監禁自体がひどい仕打ちだが、純粋な意味での暴力を受けたことはない。
永礼が守っていたのか、初対面のときに颯天が覚悟したことから思うと待遇はけっして悪くなかった。もっと突き詰めれば、男娼としての務めについては快楽を覚えていた以上、ひどい扱いとは云えないのかもしれない。
「永礼組長のことを考えているのか」
颯天はその言葉にハッと顔を上げた。何も見逃さないといった目と目が合った。
祐仁はなぜそう思ったのか。凛堂会での暮らしに思いを馳せていたのだが、永礼のことを考えなかったとは云えない。
ただし、不快さを滲ませた祐仁の声音から感じる意味は違っている。
「……そうですけど、違います」
迷ったままを口にすると、しばらくじっと颯天を見ていた目はすっと滑り落ち、それは無視するかのようでもあった。
「祐仁、まえにEタンクと凛堂会は対極にあるって云われてましたよね。どういうことなんですか」
「それを聞いてどうする」
「どうするって……」
べつにどうするつもりもない。祐仁が何を気にするのか颯天は考えてみた。その意が思い当たったとき、祐仁は手を伸ばして颯天が食べていた生姜焼きを取り、かわりに颯天の前には半分になったサイコロステーキが来た。
祐仁は生姜焼きに手をつける。テーブルに並んだ料理をすべてシェアするつもりか、それが、祐仁と同じぶんだけちゃんと食べろという強制であっても、そんな行為はごく親しい間にしかないはずだ。現に、大学時代、思いが通じ合った頃のわずかな期間、シェアはよくあった。
颯天は勘違いするなと自分に云い聞かせつつ、祐仁にたとえ別の目的があったとしてもごく自然に見えたしぐさはうれしかった。
「祐仁、おれはEタンクのことを偵察するつもりはないし、永礼組長からそんなことを頼まれたわけでもありません」
嘘は吐いていない。それは確かで、颯天はまっすぐ祐仁の眼差しを受けとめた。云われたのはフィクサーを監視しろとだけで、報告しろとまでは命じられてはいない。監視しろというのだから、当然なんらかの報告を期待しているのかもしれないが、颯天は都合よく解釈して続けた。
「凛堂会との関係を訊いたのは、緋咲ヘッドがおっしゃったからです。おれは永礼組長にうまく取り入って情報をつかんだみたいですね。おれのことなのに、なんのことかおれにはまったくわからない。五年前……もしくはそのあと、おれは知らないうちに祐仁の駒になっていた。ですよね?」
役に立てたのならそれでいい。そのはずが、いま祐仁はフィクサーに昇りつめ、五年半前のあの光景が全部芝居であり、そうなるための手段として引き裂かれたふりをしたのだったとしたら――と考えると、さっきまでのうれしさは簡単に消え散った。
注文したものを一度に持ってくるよう云いつけていたとおり、四人掛けのテーブルには所狭しとプレートが並んでいる。ハンバーグにステーキ、そして生姜焼きなどやたらメーンディッシュが多く、素揚げサラダにポテトという、どう見てもカロリー過多な料理ばかりだ。そもそも外食はそんなものだが、それ以前の問題で――
「おれ、いまこんなに食べられませんよ」
と、無理強いされるまえに颯天は申告をした。
家にこもりがちで少食になったのは事実であり、沈黙を破るきっかけにはなったものの、はねつけるような気配で祐仁はじろりと颯天を睨みつけた。
「それでも食べろ」
反論は聞きたくないとばかりに命じると、祐仁はさっさとカトラリーボックスからナイフとフォークを取りだす。目の前に置かれたサイコロステーキを一つ、フォークで突き刺して口に入れた。
昼時であり、颯天も腹が空いていないわけではない。祐仁を倣って目の前にあった豚の生姜焼きを半分にカットして口に運んだ。
凛堂会で食べていたもののほうが、よく云えば品がよく、文句をつければ味が薄い。監禁されていたときは何も思わなかったが、いざ出てみると、ひどい扱いは男娼としての務めに限られていたと気づいた。もちろん監禁自体がひどい仕打ちだが、純粋な意味での暴力を受けたことはない。
永礼が守っていたのか、初対面のときに颯天が覚悟したことから思うと待遇はけっして悪くなかった。もっと突き詰めれば、男娼としての務めについては快楽を覚えていた以上、ひどい扱いとは云えないのかもしれない。
「永礼組長のことを考えているのか」
颯天はその言葉にハッと顔を上げた。何も見逃さないといった目と目が合った。
祐仁はなぜそう思ったのか。凛堂会での暮らしに思いを馳せていたのだが、永礼のことを考えなかったとは云えない。
ただし、不快さを滲ませた祐仁の声音から感じる意味は違っている。
「……そうですけど、違います」
迷ったままを口にすると、しばらくじっと颯天を見ていた目はすっと滑り落ち、それは無視するかのようでもあった。
「祐仁、まえにEタンクと凛堂会は対極にあるって云われてましたよね。どういうことなんですか」
「それを聞いてどうする」
「どうするって……」
べつにどうするつもりもない。祐仁が何を気にするのか颯天は考えてみた。その意が思い当たったとき、祐仁は手を伸ばして颯天が食べていた生姜焼きを取り、かわりに颯天の前には半分になったサイコロステーキが来た。
祐仁は生姜焼きに手をつける。テーブルに並んだ料理をすべてシェアするつもりか、それが、祐仁と同じぶんだけちゃんと食べろという強制であっても、そんな行為はごく親しい間にしかないはずだ。現に、大学時代、思いが通じ合った頃のわずかな期間、シェアはよくあった。
颯天は勘違いするなと自分に云い聞かせつつ、祐仁にたとえ別の目的があったとしてもごく自然に見えたしぐさはうれしかった。
「祐仁、おれはEタンクのことを偵察するつもりはないし、永礼組長からそんなことを頼まれたわけでもありません」
嘘は吐いていない。それは確かで、颯天はまっすぐ祐仁の眼差しを受けとめた。云われたのはフィクサーを監視しろとだけで、報告しろとまでは命じられてはいない。監視しろというのだから、当然なんらかの報告を期待しているのかもしれないが、颯天は都合よく解釈して続けた。
「凛堂会との関係を訊いたのは、緋咲ヘッドがおっしゃったからです。おれは永礼組長にうまく取り入って情報をつかんだみたいですね。おれのことなのに、なんのことかおれにはまったくわからない。五年前……もしくはそのあと、おれは知らないうちに祐仁の駒になっていた。ですよね?」
役に立てたのならそれでいい。そのはずが、いま祐仁はフィクサーに昇りつめ、五年半前のあの光景が全部芝居であり、そうなるための手段として引き裂かれたふりをしたのだったとしたら――と考えると、さっきまでのうれしさは簡単に消え散った。
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