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02. 占いの結果は良い運勢

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 昨日と同じ場所を訪れるとガシュウはそこにいた。あいかわらず怪しげな占いの店を出している。
 近づけば、ガシュウはフレアに気が付いてフードを外し笑顔で手を振ってきた。

「や、これは騎士さま。またお会いしましたね。占いはいかがですか?」

「遠慮しておく」

「お安くしておきますよ。なんとたったの2000ベル!」

「昨日より高くなっているな」

「あれ、そうでしたか?なら1500ベルでいかがでしょう?」

「そんなガバガバな料金設定でやっているから客がとれないんだ」

「あ、あたしは崇高なまじない師ですよ。決してお金目当てではございません!」

「本当か?昨日はいくら儲かった?」

「これが全然。面白がってくれる人もたまにいるんですがね。本当たまにですよ。昨日なんて騎士さまが来てくれた以外はゼロ。空き缶広げて道に座ってた方がまだ稼げるってもんですよ。あたしなんて道で拾ったキレイな石に向かって適当なことを言ってるだけですからね。やっぱり伝わらないもんなんですよ。そういうもんなんですよ。別の商売に切り替えた方がいいのかなあ。でもあたしはなんの才能も無い男でして、ああ、お金欲しい…あっ!」

「相変わらずお喋りだな」

「へへ、今のは独り言ですよ騎士さま。…あたしは崇高なまじない師」

「…」

「占いはいかが?」

「いるか」

「へへっ」

 自称まじない師は誤魔化すように笑った。

 やはり、このガジュウという男との会話は愉快に思えた。くだらないやりとりにフレアはフッと息を吐き静かに笑った。

 ガシュウはそれをため息を吐かれたのだと勘違いをして身を硬くした。
 呆れられたのだろうか。ガシュウにはそういう経験がよくあった。普通に会話しているつもりでも、どうも噛み合ってないらしい。相手の機嫌を損ねてしまうのだ。フレアにもそう思わせてしまっただろうか。
 ガシュウは眉を困らせて頼りのない笑顔をした。

 ガシュウの心許ない笑顔に気付き、フレアはなんともいえない感情が押し寄せた。ガシュウの笑顔は悲壮感が透けて見える。ガシュウには、そんな表情をして欲しくない。

 フレアはガシュウの手を掴んだ。意味は特になかった。自然と掴んでしまった。
 フレアの鍛えられた腕と比べると可哀想なくらい貧弱な腕だった。少し力を入れれば簡単に折ることができるだろう。

「騎士さま?なにを…?」

 ガシュウは驚いて顔を上げた。腕を引いて離そうとしたが力の差で動けない。掴まれた腕とフレアの顔を交互に見て、どうしたものかと焦っていた。

 フレアは、掴んだガシュウの腕をまじまじと見つめた。骨と皮だけの腕。肌はカサカサで爪先は割れている。
 視線だけで顔を見つめれば、ガシュウは居心地が悪そうに下を向いてしまった。
俯いた瞳の下には隈があった。乾燥した唇。耳にかかる白い髪には枝毛がみえる。
 白い髪。
 フレアも白に近い銀髪をしているがこの国ではありふれた髪の色だ。ただ、ガシュウのように純粋な白い髪は珍しかった。

 ガシュウは居心地が悪そうに、視線を下に向けたままキョロキョロと目を動かしていた。遠慮がちにしどろもどろ喋った。

「き、騎士さま。そんなにジロジロみないでくださいよ。そりゃあ、あたしは目がギョロギョロしてて気持ちの悪い顔ですからね。物珍しいのは分かりますがね、ハハ、ハ…」

「そんなこと言っていないだろう」

「いや、ははは。でも。あんまり気分の良い顔じゃないでしょう?」

「お前がコンプレックスに思うのは勝手だが、それに付き合うつもりはない。俺は気にしていない」

 「そ、うですか…?」
 
「それより、髪。珍しい色だ」

「あー、髪ね。真っ白ですよね。ハハハ。よく分かんないですけど、白くなっちゃいました。元々は黒かったんですけどね。苦労しているせいですかね。まだ若いのに白髪なんて嫌になっちゃう…」

 フレアは眉をひそめた。その白い髪は天然の色ではないようだ。ストレスで髪の色は抜け落ちると聞く。ガシュウもそうなのだろうか。

「いくつだ?」

「え?」

「年齢」

 ガシュウはフレアの様子を伺うように視線をあげた。

「…22です」

「思ったより若いな」

「…騎士さまはおいくつですか?」

「28だ」

「もっと上だと思っていました。落ち着いていらっしゃる!」

「名はフレアという」

「フレアさま」

 先程の悲壮感のある表情とは違い、ガシュウは明るい笑顔をフレアに向けてその名を呼んだ。
 名を呼ばれたフレアは胸が熱くなった。胸の奥のまた奥が熱い。苦しいようで居心地の良い熱さ。鼓動がわずかに速くなる。身体も熱くなっているようだった。それをガシュウに知られてはいけないような気がして、フレアはガシュウの腕を離した。

 ガシュウは離された腕をさすりながら、不思議そうにフレアを見つめた。

「フレアさまは力がお強いですね」

「加減したつもりだったが、痛かったか?」

「いいえ滅相もありません!あたしの細い腕とは違い、たくましい腕だと惚れ惚れしてしまいました。憧れてしまいますねえ。やはり鍛えられている身体は素敵ですよ。さすが国民を護る騎士さまです!」

「国民を護る、ね」

 騎士をしていると何度となく言われる言葉だが、フレアはその言葉が嫌いだった。幼かった頃の自分が泣いている。誰が誰を護るって?誰が俺を護るって?誰も護れやしないし誰も護ってくれない。自分はそれだけの存在だ。

「騎士さま?」

「なんだ」

「いえね、騎士さま。今ボーッとしてらっしゃるように見えましたからね。大丈夫ですか?」

 フレアはギクリとした。フレアは物思いにふけることはよくあるが、表面上それを人に悟らせないように振るまっている。それを気づかれた。ガシュウはぼんやりしているようできちんと人を見ているのだろうか。
 心を透けて見られてしまったようで不安感を抱いた。
 居心地が悪くなりフレアは立ち去ろうと考えた。しかし、それは名残惜しく思った。ガシュウとまだ離れたくない。話をしたい。

「おまえ。食事、ちゃんと食べているのか?」

「ご覧のとおり、貧乏人なものでして。まあまあです」

「何が食いたい?」 

「へ?」

「めし、食べに行くぞ」

「え、いや、でも…」

「なんだ。俺とじゃ不満か」

「まさか!そうじゃなくて、その、あたしは、その、お金が、その、あの」

「誰がおまえなんぞに支払わせるか。俺の奢りだ」

「え、でも、いや、そんな、悪いですよ。騎士さまに、そんな…」

なりゆきで食事に誘ってみたものの、歯切れが悪い。なんだか腑に落ちない。もっと喜ぶかと思っていた。喜ぶ?

俺はこいつの喜ぶところが見たいのか?

「それじゃあ、食事がてら、占いでも見てもらおうか」

「占い、ですか?」

「それがお前の仕事だろう?」

フレアはさっさと歩き出した。ガシュウが慌てて後を付いてきた。

「フレアさま!」

フレアが振り返るとガシュウは満面の笑みだった。

「お礼に良い運勢をバシバシ出しますからね!」

「だから、それがインチキなんだろ」

フレアはガシュウの頭を軽く小突いた。ガシュウは「ヘヘヘ」と笑うのだった。
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