騎士さまとガシュウは契約中

りこてき

文字の大きさ
4 / 9

04. おいしい食事の時間

しおりを挟む
04. おいしい食事の時間

 フレアがパスタを食べ始めるのを見てから、ガシュウはスプーンを手に取った。グーの形で上から掴んでスプーンの柄を握った。そのおかしな持ち方をフレアは一瞥したが、指摘はしないで自分の食事に戻った。
 フレアの一瞬の視線に気がついて、ガシュウはまた眉を困らせた。スプーンを持っていない方の手で耳までかかる白い髪を指に絡ませながら言った。

「持ち方が変ですよね。あの。あたしは、その。食事の時はあまり食器を使わない方でしてね。この持ち方しか出来ないのです。あの。礼儀やマナーが分かっていなくて申し訳ありません。その。騎士さまの前でご無礼と思いますがどうかお許しください」

「俺は何も言ってないだろう」

「いや。はい」

「そんなマナーなんぞ気にする洒落た店じゃないだろう。はやく食べろ」

「はい」

 食事が運ばれた時には嬉しそうだったガシュウの表情が、こんなことで曇ってしまうのは喜ばしくなかった。フレアはガシュウにも食べろと薦めるように自分の食事を続けた。ガシュウはそれに倣って、おかしな持ち方のスプーンを器用に動かしてオムライスのてっぺんをすくった。

「あっ!騎士さま!大きな卵焼きかと思っていたら、中からお米が出てきましたよ。それに、色が赤いんです!」

「そういう料理だからな」

「へえ!へえ!」

ガシュウは感慨すると、横から下からとオムライスを観察し出した。

「オムライスは初めてか?」

「おむらいすは初めてです」

 スプーンですくった分のオムライスを口に含むと、ガシュウの痩けた頬はふんわりと膨らんだ。ほっぺたに手を添えてもぐもぐと噛みしめる。
ガシュウの小さな黒い瞳が心なしか大きく見える。その瞳にはキラキラとした輝きが映っていた。

「ほいひいえふ!」

「飲み込んでから喋ろ」

 ガシュウはこくこくと頷いて、急いで飲み込もうとしていた。

「焦らなくていい」

 ガシュウは口に手を当てて、またこくこくと頷きながら頬をもぐもぐさせている。焦らなくていいと言っているのに慌ただしい。
 口がふさがって呼吸が苦しいのか、それとも食事を堪能して高揚しているのか、頬がうっすらと染まったガシュウは血色が良く健康的に見えた。
 飲み込むとガシュウは満面の笑みで声を発した。

「おいしいです!」

「そうか」

「本当ですよ!」

 フレアはそっけなく返事をしてしまった。普段から他人に対して距離のある会話をしていたため、急に向けられた好意的な感情を受け止めきれなかった。それにガシュウに対しては遠慮のない会話に慣れていたため、照れ隠しで突き放してしまったのもある。
 それをガシュウは、フレアがお世辞にとったと勘違いをしてやっきになった。

「本当の本当ですよ!こんなおいしいもの、ガシュウは今まで食べたことがありません。おいしいものを食べるって、こんなに幸せなことなんですね。今ガシュウは実感しています。幸せなんです。騎士さまのおかげです!」

テーブルをバンッと叩き、身を乗り出す。

「あ、ああ。分かった。喜んでもらえて何よりだ」

 ガシュウの勢いに、フレアは珍しく動揺した。が、すぐに冷静を取り戻す。

「そんなに喜んでもらえたなら、連れてきた甲斐がある」

 フレアは目を伏せて微笑んだ。
 ガシュウは意外に思った。
 フレアの目は鋭い。表情の変化も乏しいので冷淡な印象を受ける。それなのに、笑った顔はこんなにも優しいのかと、その表情が見れてガシュウは満足感を覚えた。うんうんと頷き、座り直して食事を再開した。

「この黄色い液体はなんですか?」

「オレンジのジュースだ」

「オレンジ。ガシュウ知ってますよ。丸いやつですよね。それがこんな風になるんですか?」

「その丸いやつを潰すとこんな風になるんだろう」

「へえ、不思議ですね」

 皮をむいて搾るとかあるんだろうが、オレンジジュースの作り方に興味がなかったフレアは説明がめんどくさくなり「そうだな」とだけ返した。
 ガシュウは用意されたストローに気づかずに、いや、使い方を知らないのだろうか、グラスに口をつけて飲んだ。

「甘い!すっぱい!わあ、不思議ですね。おいしい!」

 オレンジジュースひとつでころころ表情の変えるガシュウを見て、子供のようだと思えた。見ていて飽きない。おかしくて笑いそうになり、フレアは「そうだな」とだけ返した。

 食事中は、食べることに集中して会話はあまりなかった。会話はなかったが居心地は良かった。それはどちらともなく感じていることだと思えた。

 ガシュウは半分ほど食べ終えた頃に、少し迷った仕草を見せてから、スプーンをテーブルに置いた。視線を少し彷徨わせてから、上目遣いでフレアを見た。

「騎士さま。これって、持ち帰ることはできますかね?」

「腹がいっぱいか?残せばいい」

「それは、もったいないですよ」

「そう言うと思った。持ち帰りは出来ない。普段ろくなもの食べてないんだろう。無理して食べきれ」

「いいえ、いいえ!もちろん食べきれます!ただ。あたしだけがこんなおいしいものを食べていていいんでしょうか。ポフに申し訳がない。ポフにも食べさせてあげたい…」

「ポフ?ペットか?」

「弟です!」

「ほう。弟がいるのか」

 ガシュウには身寄りがいないと勝手に思い込んでいた。ガシュウの家族構成に興味をもった。
 ガシュウのことがもっと知りたいとフレアは思った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

猫系男子は恋は盲目を理解する

黄泉
BL
「好き」そう突然告白してきたのは、クラスで猫目な冷徹王子と謳われる、イケメメン男子清水伊月(しみずいつき)、突然の事に一度は断るがグイグイと迫られていき、平凡に送るはずだった学校ライフが崩れ去っていく。そしてまさかの隣の席になってしまいどうする俺???

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

処理中です...