Our place ~転生乙女のジュラーレ魔法学院の日常~

龍希

文字の大きさ
65 / 69
第2章

試される自制心? sideカグラ

しおりを挟む

 レーツェルがナツキを構い倒しながら、ちらりと俺を見る。
 右手にココア、左手にコーヒーのカップを持ってナツキ達の方へ俺は近付いていく。
 騒がしい周囲は、俺を確認して一瞬だけ静まるがまたざわつき始める。

 ゆったりと近付き、レーツェルを見遣る。俺の言いたい事を理解したレーツェルは1歩半分移動する。その空いた場所に体を入れ、ナツキの背後に立つ。
「ナツキ、疲れた時は甘いものが良いだろう?」
 アイスココアをすっ……と、ナツキの目の前に置く。

「え!? いいの?」
 可愛らしい瞳を子猫みたいに丸くさせて、ナツキは俺を見上げる。

「ああ。頑張ったご褒美だ。と言っても、そこのレプリケイター(複製装置)作だがな」
 クスリと笑って、俺は答える。

「カグラ、ありがとう」
 ふわっと笑顔を浮かべるナツキに、俺は小さく頷く。
「遠慮せずに飲め」

「うん……」
 ナツキはこっくりと首を縦に振って、アイスココアのカップを両手でそっと持ち上げる。
 視界の端に入る不快な人物の動向を見ながら、ナツキの可愛らしい仕種を堪能する。

 ダンとテーブルを叩く勢いで、フレアが言い放った。
「ナツキ! あたしにも一口頂戴!!!」
 瞬間、室内が完全に凍りついた。貴族階級に属する家格の者は、血の気の引いた真っ青な顔になった。

 俺もそう来るとは思わず、真面目に呆れ返る。貴族なら間違いなく、不敬罪的な目で見られる言動で、一般的な教養を欠く無礼な真似だ。
 皇族に連なる者が下賜した物を「自分にくれ」と、言うのはタブーになっている。見えない場所でも行ってはならないのだ。
 下賜(物をプレゼント)するという事は相手に対しての信頼や好意を表していて、それを譲る行為は皇族に仇なすと昔からそう捉えられてきている。こっそり捨てる事は黙認されていたりするが、譲る事は禁忌をなっている。
 実はこれは、貴族階級での基本ルールで、上位の家格が下位の家格に対して何かをプレゼントした場合も同じ事が言える訳である。
 貴族階級の生徒と、一般の生徒の無用なトラブルを避ける為にも、学院の注意事項(入学の手引)にも記載されている。
 それを、本人が居る前で行うとは常識とその脳ミソを疑う。

「え……と、それは、ちょっと……」
 注意事項を知っているのか、ナツキは渋面でフレアに答える。

 不満そうにむすーっとした表情で、フレアが口を開く。
「いっぱいあるんだから、一口くらい貰っても良いでしょ!?」

 どこかで「ひっ」と小さな悲鳴がしているのにも気付かずに、自分の主張を曲げ様とはしない。
 理解している人間は、ブリザード級に慄き凍り付いている。
 違う意味で、極め過ぎだろう、コイツは。
「君さ、学院の注意事項に目を通している?」
 俺はフレアを見て問い掛ける。

 声を掛けられた事が嬉しいのか、顔を赤らめて俺を熱心に見つめる。
「あ、はい! 当たり前です!」
 喜々としてフレアは答える。その答えに当然だが、室内は沈黙した。

「…………へぇ」
 コイツの年齢が15歳だと言うが、黒髪に混ざる白髪、無駄に出てる前歯が30代を彷彿とさせる。
 学園の生徒のデータは見せて貰っていても、疑いたくなる外見だ。
――――その笑顔が、胡散臭く気持ち悪い。正直、友人もだが、お近づきにはなりたくない。
 その凍り付いた周囲を見回せ! 愚か者がっと突っ込みたいほどだ。

 俺のイラつきを知ってか、レーツェルが冷徹な視線をフレアに向けて声を上げる。
「うっそだあー!」
「嘘やないなら、覚えてへんのんか? 貴族の人達にめっちゃケンカ売っとるでー」
 茶化しながら言うリョウだが、声にはトゲがある。
「読んだってのが嘘でないなら、ひとっつも覚えていないって事だね? 読み直して自分の行動がどんな事態を引き起こすのが考えた方が良いよ」
 レーツェルが、はぁぁとため息を吐きながら忠告を一応告げる。
 うんうん、と頷きながらリョウが更に言い募る。
「まぁ、これからの人生は長いんやから、頭をつこうて頑張って生きよった方がええで」
 俺はフレアを見てから、言を継ぐ。
「そうだな、人に迷惑を掛ける行動は慎んだ方が良い」
「そうそう、会話に横入りするのや、礼儀を弁えないのは人を不愉快にさせるから、悪いけど僕らの会話に参加しないでね。それと、友達がいるのならそっちに移ってくれるかな?」
 人を魅了する笑顔で、レーツェルは辛辣な台詞を告げる。
 微笑まれてぽっと顔を赤く染めるフレアは、こくんと頷いて椅子から立ち上がり、氷河期さながらの室内を後にしていった。


――――相変わらず、鮮やかな手並みだな。
 正面からまともにアレをくらうと、大抵の女性はころっと騙される。
 誘われる様な美貌と、自分に向けられる瞳の熱、言葉は冷酷でも、それをカバーしていう事を聞かせてしまう。
 夜会や舞踏会などで何度となく面倒な相手を、レーツェルに撃退して貰っているがココに来てもそれが役に立つとはな……。

「………………猛獣使い?」
 レーツェルを見上げながら、ぼそりと、ナツキが呟く。
「それを言うなら、結婚詐欺師だろ?」
 俺がそれを混ぜっ返す。
「ひ、ひどい……」
 打ちひしがれる表情をするレーツェルに、まじまじと視線を向けてリョウが言う。
「それ、商談に生かしたら、億万長者になれるで? 卒業したらウチに来いひん?」
「行かないよー。卒業したら、強制的に騎士団行だからねー」
「行きと言うより、強制収容じゃないのか?」
「カグラ酷い! 考えない様にしてたのにぃ。慰めてナツキ~~」
 泣き真似をして、どさくさ紛れに抱き付こうとするレーツェルの脳天に、俺はどすっと手刀をお見舞いする。
 くすくすと笑うナツキによって殺伐とした雰囲気がかき消され、ほんわかムードになっていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

弱いままの冒険者〜チートスキル持ちなのに使えるのはパーティーメンバーのみ?〜

秋元智也
ファンタジー
友人を庇った事からクラスではイジメの対象にされてしまう。 そんなある日、いきなり異世界へと召喚されてしまった。 クラス全員が一緒に召喚されるなんて悪夢としか思えなかった。 こんな嫌な連中と異世界なんて行きたく無い。 そう強く念じると、どこからか神の声が聞こえてきた。 そして、そこには自分とは全く別の姿の自分がいたのだった。 レベルは低いままだったが、あげればいい。 そう思っていたのに……。 一向に上がらない!? それどころか、見た目はどう見ても女の子? 果たして、この世界で生きていけるのだろうか?

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

悪役令嬢が処刑されたあとの世界で

重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。 魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。 案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。

灼熱の連撃(ラッシュ)と絶対零度の神速剣:転生した双子のチート令嬢は、その異能で世界を救う

夜詩榮
ファンタジー
あらすじ 現代日本。活発な空手家の娘である姉・一条響と、冷静沈着な剣道部員である妹・一条奏は、突然の交通事故に遭う。意識が薄れる中、二人を迎え入れたのは光を纏う美しい女神・アステルギアだった。女神は二人に異世界での新たな生と、前世の武術を応用した規格外のチート能力を授ける。そして二人は、ヴァイスブルク家の双子の姉妹、リーゼロッテとアウローラとして転生を果たす。 登場人物 主人公 名前(異世界) 名前(前世) 特徴・能力 リーゼロッテ・ヴァイスブルク 一条いちじょう 響ひびき 双子の姉。前世は活発な空手家の娘で黒帯。負けず嫌い。転生後は長い赤みがかった金髪を持つ。チート能力は、空手を応用した炎の魔法(灼熱の拳)と風の魔法(超速の体術)。考えるより体が動くタイプ。 アウローラ・ヴァイスブルク 一条いちじょう 奏かなで 双子の妹。前世は冷静沈着な剣道部員。学業優秀。転生後は長い銀色の髪を持つ。チート能力は、剣術を応用した氷/水の魔法(絶対零度の剣)と土の魔法(鉄壁の防御・地形操作)。戦略家で頭脳明晰。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...