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序章 ~終わって始まった~
死天使とあたし
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「だってキミ面白いんだもン!」
にんまり笑う、美少年天使は褒め言葉か分からない台詞を吐いた。
「面白いから死なせてくれたわけ?」
「そーだよ。通常の状態だと肉体と魂は離れないし、ぼくら天使にも分離出来ない。でも、あの時のキミは切れ掛かってる状態だった。だから、ぼくにもキミを連れて来る事が出来たんダヨ」
「……」
「不満?あのままだと苦しんで苦しんで辛かったと思うけどナ」
「そうだろうね。物凄い衝撃で吹っ飛んだのは覚えてるし」
「ぼくはね。キミと話してみたかったんだ。だから連れて来たノ」
「どうして?」
「若いコのクセに、ものすんごい考え方持ってるから見てみたかっタ」
「見たい?訊きたいじゃなくて?」
「見たかったのは魂。魂がどこまで変わってきているかを見たかったんダ」
「魂って変わるものなの?」
「うん、変わる。学んでそれを受け入れたらね。キミは本当に面白い存在だし、ぼくを楽しませてくれたからチャンスをあげようと思うんダ」
「チャンス?」
「このまま天国に行くか、前世の記憶を持ったまま生まれ変わるかどっちがイイ?」
天国と転生の2択ってどーなのよ?
おかしくない?
天国と地獄どっちがいい? って言うなら分かるけど。
変な2択だ。
「それは、チャンスって言うの? 微妙な選択肢じゃない」
「そーかなぁ。キミなら面白い人生を見せてくれると思うからこその提案なんだケド」
「面白いって……酷くない?それ」
「なんで?酷くなんかないし、まぁ前世の記憶を持って生まれてくるのはちょっとだけリスクがあるけど、記憶が無くて自分が行った事に対して後悔する率少なくなるじゃン?」
「リスクって?」
「前世の感情に引っ張られるってトコロとか。まっさらな状態から作り上げる人格じゃなくなるから、どうしても培ってきたマイナス要因が邪魔をするヨ」
「……」
「それでも、愛される事や愛する事を実感出来るよ、どれだけそれが幸せなのかヲ」
優しい眼差しで美少年天使は見詰めてくる。
どきりとして、呼吸が止まる。
「ぼくはね、キミに悲しいだけの真理を体験しただけで終わって欲しくない。だから、選んデ」
「記憶を持ったまま転生しろって事なのね?」
「うん。キミの要望も聞くヨ?」
「要望って?」
「どんな所に生まれたいとか、あるでショ?」
「う~ん……」
いきなりそう言われても、即座に思い浮かばない。
「ま、取り敢えず、こっち来テ」
手を取られて、あのでっかい大樹に案内される。
どーんと鎮座している大木は、凄く威圧感があるが、不思議と安心感もあった。
「幹に手を触れテ」
「えっと、こう?」
そっと右の掌を幹に押し当てる。
木の皮のごつごつ感が、触れた所から伝わってくる。
何の意味があるのかは分からないが、美少年天使を見詰めると。
「そうそう、それでどんな所で生まれ変わりたいか言ってみテ」
「え……」
「希望だよ。家族は何人とか、時代背景はどんなだとかあるでショ」
「えっと……」
思い浮かべる。過去自分が欲しかったもの。
「あたしを愛してくれる両親、兄弟が欲しいな、お兄ちゃんがいい」
さわさわと樹の葉が揺れた。
頭上を見ると、緑色だった葉っぱは銀色に光ってる。
幻想的だ。
「OKだって。他の希望も言ってみテ」
「え、じゃぁ、宇宙旅行が出来る世界で――」
嫌な時はいつも星を見ていた。
遠い遠い場所だけど、色々な冒険や未知と遭遇してみたいと空想に耽って気持ちを紛らわせていた、小さな自分。
幻想はどこまでいってもただの夢想でしかないのも知っていた。
想う事で心を保っていた。
「魔法とかも存在している場所に生まれてみたい」
馬鹿みたいな妄想。
夢を見る事で、悲しみから逃れられていた。
死んでいて、何も失うものが無いなら願ってもいいよね?
冒険したいとか。
ファンタジーに溢れてる世界とか。
銀河を超えてみたいとか。
そして――――愛されてみたい。
神様……そう願っても良いですか?
サワサワと銀色の葉がざわめいている。
頭上の部分だけじゃなく、大樹の全部の葉っぱが銀色に輝いていた。
キラキラと光ってて、荘厳な一枚の絵を連想させた。
「OKだって。その望みは全て叶えられるヨ」
微笑みをたたえて美少年天使は、はっきりとあたしに言った。
「え?」
「輪廻の樹が認めてくれたんだよ。喜びなヨ」
「え?えええーー!?」
思わず大声を上げてしまう。
嘘でしょ? 嘘でしょぉぉぉぉ!!
百万歩譲ってSFは良いとしよう、だって、いつか誰が実現させるだろうから。
宇宙を旅出来るって夢と言うよりは、ずっと先の未来だからね。
魔法の世界って……ありえなくない?
混在出来ないと思ったのに!
「ふぁいやーとか、めらとか、ほいみだとか、けあるとか、やっちゃう魔法の世界だよ?いいの?本当にいいの?」
無茶な設定バリバリの世界OKなんですか?
サワサワサワと枝が揺れ、答える様に輝く葉が音をたてる。
「うん、イイって言ってるヨ」
嬉しそうに美少年天使は笑って言う。
「この樹がOKすればそうなるの?」
「そうだよ~。ココに迷い込んだ者の行き先は、この輪廻の樹が決めるんダ」
キラキラ、サワサワと葉っぱが揺れていた。
そうだよ~って答える様に、風に舞うみたいに揺れ動く。
「無数にある世界の中で、キミにピッタリな世界があって行けるんだ。喜びなヨ」
美少年天使に、じ……っと覗かれる。
その時のあたしは、自分がどんな顔していたのか分からなかった。
「凄く、不安そうダネ?」
「え?」
「コワイのカナ?」
「えっと……」
どう答えていいのか分からずにいると、美少年天使が天使の微笑みをして言う。
「コワイんでしょ?イイヨ、ぼくがおまじないしてあげるヨ」
がふっ!!! 鼻血出そうな感じの。
く、クリティカルヒット! 間違いなしの。
なにこの可愛さ!!
おまじないってナニ? なんなのーーーーぉ?!
「キミの魂が来世で輝きますように」
そう、言って美少年天使は両手を伸ばし、私の頬にそっと触れて来る。
一呼吸の後に。
ちゅっと言う音と共に、額に美少年天使のキスが落ちた。
えええええええええええええええええええええええええええええ?!
目を見開いて、美少年天使を見詰め、口をぱくぱくしてしまう。
衝撃だ。衝撃の出来事だ!
なんだこれ?
なんだこれ?
どーゆうこと?
「フフフ。おまじないダヨ~。この位の役得あってもイイででしょ?あ、それとも唇の方がヨカッタ?」
にこにこ顔の美少年天使に、あたしはあんぐり。
ぶっとび過ぎでしょ? それは、なんでも……。
この場合、あたしが役得なのよ……ねぇ?
美少年天使のデコちゅーだよ!?
一生分の運使っちゃったよ!
って、とっくに死んでるから一生じゃないじゃん!
「たのし~ィ。ホントキミって楽しいコだよネ」
あたしの混乱具合を見て笑顔を浮かべる美少年天使が、頭上を見てすっと表情を変えた。
はっとなって、彼を見詰めた。
「えっ!?どうしたの?」
「時間ダ」
少し寂しそうに小さく笑って、美少年天使が告げた。
「時間?」
「うん、お別れの時間。樹に背中を預けテ」
「……こう?」
くるっと反転して、背中をぴったり幹に着けて問い掛ける。
美少年天使は、頷いて一歩近付いてあたしの目の前に立つ。
「うん、そう。ねぇ、一つだけぼくのお願い聞いてくれるカナ?」
「お願い?」
「キミの名前を頂戴」
「名前?いいよあげるよ。どーせ、好きな名前じゃないから」
「思い出せなくなるけどイイノ?」
「欲しいんでしょ?」
「うん!欲しい!だから、頂戴」
美少年天使の強請る仕草もなんか可愛い。
彼にとっては、貰って嬉しいものなのかな?
あたしは、自分の名は好きじゃない。
親が付けた名前じゃなければ、そんなに嫌いにならなかっただろう。
皮肉的な名前に泣いた事もある。
うん、そんなに欲しいならあげる。
今のあたしにあげられるものはないから。
喜んでくれるなら、あげる。
あんな名前でいいなら、貰って下さい。
「うん、あたしの最後に良い思い出をくれたからあげる。あんなんで良ければ貰って」
「嬉しいナ。アリガト」
本当に嬉しそうな、輝くような笑顔で、美少年天使が微笑む。
どきりとして、声を出せず息を呑む。
その刹那――。
あたしの頬に影が落ちる。
「……んっ」
美少年天使の柔らかい唇が、あたしの唇を塞いでいた。
頭の中が真っ白になった。
触れるだけのキスだった。
直ぐ離れていった。
少し翳りのある笑顔が目に入る。
「有り難う。これでお別れだけど、キミの名前があるから寂しくないヨ。キミの名前、ずっと大事にするネ」
「……名前?」
自分の名前が思い出せない事に気付く。
美少年天使が、あたしの唇をそっと人差し指でちょんと触れる。
「言えないでしょ?さっき貰ったからネ」
「……あっ!」
「サヨナラ」
呆然としてると、トンと両肩を押された。
がくんと、半身が樹の中へを入り込む。
樹の幹が無くなっているかの様に、倒れ込むながらあたしは落ちていく。
物凄い速さで真っ暗な穴に、真っ逆さまに落ちていく様な感覚に全身が包まれる。
怖くは無かったけど、いつの間にかぷつりと意識が途絶えていた。
樹の前で、美少年天使がぽつんと立っていた。
エメラルドグリーンの瞳が、寂しそうに樹の幹を見詰めていた。
そして、祈る様にぽつりと呟く。
――――「幸せになりなよ、愛花《あいか》」――――と。
にんまり笑う、美少年天使は褒め言葉か分からない台詞を吐いた。
「面白いから死なせてくれたわけ?」
「そーだよ。通常の状態だと肉体と魂は離れないし、ぼくら天使にも分離出来ない。でも、あの時のキミは切れ掛かってる状態だった。だから、ぼくにもキミを連れて来る事が出来たんダヨ」
「……」
「不満?あのままだと苦しんで苦しんで辛かったと思うけどナ」
「そうだろうね。物凄い衝撃で吹っ飛んだのは覚えてるし」
「ぼくはね。キミと話してみたかったんだ。だから連れて来たノ」
「どうして?」
「若いコのクセに、ものすんごい考え方持ってるから見てみたかっタ」
「見たい?訊きたいじゃなくて?」
「見たかったのは魂。魂がどこまで変わってきているかを見たかったんダ」
「魂って変わるものなの?」
「うん、変わる。学んでそれを受け入れたらね。キミは本当に面白い存在だし、ぼくを楽しませてくれたからチャンスをあげようと思うんダ」
「チャンス?」
「このまま天国に行くか、前世の記憶を持ったまま生まれ変わるかどっちがイイ?」
天国と転生の2択ってどーなのよ?
おかしくない?
天国と地獄どっちがいい? って言うなら分かるけど。
変な2択だ。
「それは、チャンスって言うの? 微妙な選択肢じゃない」
「そーかなぁ。キミなら面白い人生を見せてくれると思うからこその提案なんだケド」
「面白いって……酷くない?それ」
「なんで?酷くなんかないし、まぁ前世の記憶を持って生まれてくるのはちょっとだけリスクがあるけど、記憶が無くて自分が行った事に対して後悔する率少なくなるじゃン?」
「リスクって?」
「前世の感情に引っ張られるってトコロとか。まっさらな状態から作り上げる人格じゃなくなるから、どうしても培ってきたマイナス要因が邪魔をするヨ」
「……」
「それでも、愛される事や愛する事を実感出来るよ、どれだけそれが幸せなのかヲ」
優しい眼差しで美少年天使は見詰めてくる。
どきりとして、呼吸が止まる。
「ぼくはね、キミに悲しいだけの真理を体験しただけで終わって欲しくない。だから、選んデ」
「記憶を持ったまま転生しろって事なのね?」
「うん。キミの要望も聞くヨ?」
「要望って?」
「どんな所に生まれたいとか、あるでショ?」
「う~ん……」
いきなりそう言われても、即座に思い浮かばない。
「ま、取り敢えず、こっち来テ」
手を取られて、あのでっかい大樹に案内される。
どーんと鎮座している大木は、凄く威圧感があるが、不思議と安心感もあった。
「幹に手を触れテ」
「えっと、こう?」
そっと右の掌を幹に押し当てる。
木の皮のごつごつ感が、触れた所から伝わってくる。
何の意味があるのかは分からないが、美少年天使を見詰めると。
「そうそう、それでどんな所で生まれ変わりたいか言ってみテ」
「え……」
「希望だよ。家族は何人とか、時代背景はどんなだとかあるでショ」
「えっと……」
思い浮かべる。過去自分が欲しかったもの。
「あたしを愛してくれる両親、兄弟が欲しいな、お兄ちゃんがいい」
さわさわと樹の葉が揺れた。
頭上を見ると、緑色だった葉っぱは銀色に光ってる。
幻想的だ。
「OKだって。他の希望も言ってみテ」
「え、じゃぁ、宇宙旅行が出来る世界で――」
嫌な時はいつも星を見ていた。
遠い遠い場所だけど、色々な冒険や未知と遭遇してみたいと空想に耽って気持ちを紛らわせていた、小さな自分。
幻想はどこまでいってもただの夢想でしかないのも知っていた。
想う事で心を保っていた。
「魔法とかも存在している場所に生まれてみたい」
馬鹿みたいな妄想。
夢を見る事で、悲しみから逃れられていた。
死んでいて、何も失うものが無いなら願ってもいいよね?
冒険したいとか。
ファンタジーに溢れてる世界とか。
銀河を超えてみたいとか。
そして――――愛されてみたい。
神様……そう願っても良いですか?
サワサワと銀色の葉がざわめいている。
頭上の部分だけじゃなく、大樹の全部の葉っぱが銀色に輝いていた。
キラキラと光ってて、荘厳な一枚の絵を連想させた。
「OKだって。その望みは全て叶えられるヨ」
微笑みをたたえて美少年天使は、はっきりとあたしに言った。
「え?」
「輪廻の樹が認めてくれたんだよ。喜びなヨ」
「え?えええーー!?」
思わず大声を上げてしまう。
嘘でしょ? 嘘でしょぉぉぉぉ!!
百万歩譲ってSFは良いとしよう、だって、いつか誰が実現させるだろうから。
宇宙を旅出来るって夢と言うよりは、ずっと先の未来だからね。
魔法の世界って……ありえなくない?
混在出来ないと思ったのに!
「ふぁいやーとか、めらとか、ほいみだとか、けあるとか、やっちゃう魔法の世界だよ?いいの?本当にいいの?」
無茶な設定バリバリの世界OKなんですか?
サワサワサワと枝が揺れ、答える様に輝く葉が音をたてる。
「うん、イイって言ってるヨ」
嬉しそうに美少年天使は笑って言う。
「この樹がOKすればそうなるの?」
「そうだよ~。ココに迷い込んだ者の行き先は、この輪廻の樹が決めるんダ」
キラキラ、サワサワと葉っぱが揺れていた。
そうだよ~って答える様に、風に舞うみたいに揺れ動く。
「無数にある世界の中で、キミにピッタリな世界があって行けるんだ。喜びなヨ」
美少年天使に、じ……っと覗かれる。
その時のあたしは、自分がどんな顔していたのか分からなかった。
「凄く、不安そうダネ?」
「え?」
「コワイのカナ?」
「えっと……」
どう答えていいのか分からずにいると、美少年天使が天使の微笑みをして言う。
「コワイんでしょ?イイヨ、ぼくがおまじないしてあげるヨ」
がふっ!!! 鼻血出そうな感じの。
く、クリティカルヒット! 間違いなしの。
なにこの可愛さ!!
おまじないってナニ? なんなのーーーーぉ?!
「キミの魂が来世で輝きますように」
そう、言って美少年天使は両手を伸ばし、私の頬にそっと触れて来る。
一呼吸の後に。
ちゅっと言う音と共に、額に美少年天使のキスが落ちた。
えええええええええええええええええええええええええええええ?!
目を見開いて、美少年天使を見詰め、口をぱくぱくしてしまう。
衝撃だ。衝撃の出来事だ!
なんだこれ?
なんだこれ?
どーゆうこと?
「フフフ。おまじないダヨ~。この位の役得あってもイイででしょ?あ、それとも唇の方がヨカッタ?」
にこにこ顔の美少年天使に、あたしはあんぐり。
ぶっとび過ぎでしょ? それは、なんでも……。
この場合、あたしが役得なのよ……ねぇ?
美少年天使のデコちゅーだよ!?
一生分の運使っちゃったよ!
って、とっくに死んでるから一生じゃないじゃん!
「たのし~ィ。ホントキミって楽しいコだよネ」
あたしの混乱具合を見て笑顔を浮かべる美少年天使が、頭上を見てすっと表情を変えた。
はっとなって、彼を見詰めた。
「えっ!?どうしたの?」
「時間ダ」
少し寂しそうに小さく笑って、美少年天使が告げた。
「時間?」
「うん、お別れの時間。樹に背中を預けテ」
「……こう?」
くるっと反転して、背中をぴったり幹に着けて問い掛ける。
美少年天使は、頷いて一歩近付いてあたしの目の前に立つ。
「うん、そう。ねぇ、一つだけぼくのお願い聞いてくれるカナ?」
「お願い?」
「キミの名前を頂戴」
「名前?いいよあげるよ。どーせ、好きな名前じゃないから」
「思い出せなくなるけどイイノ?」
「欲しいんでしょ?」
「うん!欲しい!だから、頂戴」
美少年天使の強請る仕草もなんか可愛い。
彼にとっては、貰って嬉しいものなのかな?
あたしは、自分の名は好きじゃない。
親が付けた名前じゃなければ、そんなに嫌いにならなかっただろう。
皮肉的な名前に泣いた事もある。
うん、そんなに欲しいならあげる。
今のあたしにあげられるものはないから。
喜んでくれるなら、あげる。
あんな名前でいいなら、貰って下さい。
「うん、あたしの最後に良い思い出をくれたからあげる。あんなんで良ければ貰って」
「嬉しいナ。アリガト」
本当に嬉しそうな、輝くような笑顔で、美少年天使が微笑む。
どきりとして、声を出せず息を呑む。
その刹那――。
あたしの頬に影が落ちる。
「……んっ」
美少年天使の柔らかい唇が、あたしの唇を塞いでいた。
頭の中が真っ白になった。
触れるだけのキスだった。
直ぐ離れていった。
少し翳りのある笑顔が目に入る。
「有り難う。これでお別れだけど、キミの名前があるから寂しくないヨ。キミの名前、ずっと大事にするネ」
「……名前?」
自分の名前が思い出せない事に気付く。
美少年天使が、あたしの唇をそっと人差し指でちょんと触れる。
「言えないでしょ?さっき貰ったからネ」
「……あっ!」
「サヨナラ」
呆然としてると、トンと両肩を押された。
がくんと、半身が樹の中へを入り込む。
樹の幹が無くなっているかの様に、倒れ込むながらあたしは落ちていく。
物凄い速さで真っ暗な穴に、真っ逆さまに落ちていく様な感覚に全身が包まれる。
怖くは無かったけど、いつの間にかぷつりと意識が途絶えていた。
樹の前で、美少年天使がぽつんと立っていた。
エメラルドグリーンの瞳が、寂しそうに樹の幹を見詰めていた。
そして、祈る様にぽつりと呟く。
――――「幸せになりなよ、愛花《あいか》」――――と。
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