Our place ~転生乙女のジュラーレ魔法学院の日常~

龍希

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第2章

初授業で……sideKAGURA

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 初めは……わしゃわしゃと金の髪を撫でるリョウに、もやもやっとした。
 次に目の前でナツキを強引に引き寄せる、レーツェルにムカついた。

 バランスを崩したナツキの腰を片手で引き寄せ、転ばない様にしてから、俺はレーツェルを見遣った。
 アイツはバツの悪い顔をして、ナツキの手を放した。
 『彼女』は解放されたと言うのに、俺は最後までもやっとした気持ちを少しだけ抱えていた。



「身体の気……魔力、血の流れを感じろ。叡智は血であり、血は魔力なり、己の身体にある力を認識しろ。手を伸ばして胸の高さまで上げるんだ」
 風の元素に働きかけるために、ナツキを誘導しながら横顔を見詰めていた。


 中性体に変わっていても、ユーナ・アマハの娘だけはある。可愛らしいその横顔に重なる、本来の可憐で美麗な姿。
 知らなければ解らないが、知っていれば多少なりとも気付くだろう。
 仕方ないとは言え、本当の姿を隠して過ごすのは大変だと思う。
 本当の名、本当の姿で培える筈の人間関係などを初めから放棄しているのだから……。
 ナツキ・タカマガハラが築き上げるものは、実質ナツキ・ルウィン・アマハものにならないだろう。
 ナツキが『彼女』として、信頼出来る者のみに話したとしてもそれは極一部に過ぎない。

――――守る為とはいえ、酷な事をする……。
 王族に連なる者でも、本来の名で学院に通えるのにな……。
 どんなに面倒でも、今後の事を考えればどれだけ揉まれてもそれは必要な経験になる。
 家の名に振り回されない力をつける機会を彼女の保護者達は取り上げた。
 それ程の危険があるという事だろうか……。


 突如、ぷつんと、魔力の制御が外れた感覚がした。
「!?」
 ナツキが操っていた風が、俺の身体をすり抜けていく。

「ちっ」
 俺は無意識に舌打ちし、腰のホルスターから銃を抜く。
 視界に一瞬だけ、レーツェルが入り込む。俺の意を汲んで、リョウを追っ駆けていくのが解る。
 魔力に障壁の魔法を込める。
 ガン!
 ガン!
 ガン!
 ガン!
 と、四方へ撃ち込む。
 撃ち込んだ箇所の虚空に、障壁の黒の魔方陣が展開されていく。
 閉ざされた真っ黒い空間の中に、俺とナツキが取り残される。

「ナツキ、魔力の放出を止めろ」
 俺の言葉に、びくっと反応してナツキは俺を見る。何を言われているのか解らない表情をしてから。

「……も、もしかして、リョウが吹っ飛んだのって私のせい?」
「ああ、だから、止めろ」
「止めるって……あれ?」
 ナツキは手を閉じたり開いたりして確かめて、青い顔をこちらへと向けた。

「嘘っ!? どどどどど、どうしよ~~っ」
 ナツキの顔は、血の気の引いた色をしていた。
 焦りまくるナツキの身体が、ふらっと傾ぐ。
 俺は、ナツキに手を伸ばす。

「ナツキ」
 名を呼んで自分の方へぐいっと身体を引き寄せ、腕の中へと抱き留める。

抑制フォリーゴ
 俺は強制介入する為の魔法の言葉を紡ぐ。
 ナツキの後ろ髪に指を絡ませ、胸元にぎゅっと囲い込む。

「くぇrtyhじゅきぉ;p:@!?」
「まずは落ち着け。魔力の使い過ぎで倒れるぞ」
 腕の中で奇声を出すナツキの背中を、数回優しく撫でる様に叩く。

 状況を説明する為に、俺は冷静にナツキに告げる。
「魔力がどんどん吸い上げられてるのが解るか? 介入して流出を抑えるからこのままでいろ」
 ナツキから流れ出る魔力を、腕の中、俺の周囲、障壁の外へと出さない様に意図的に介入する。

「……うん」
 腕の中に居るナツキは、素直に頷く。

「解呪してみろ」
強制解除ディスペル
 俺に抱き締められながら、ナツキは解呪の呪文を口にした。

「っ!」
 ナツキの力が抜け、崩れ落ちるのが解る。

「寄りかかっていろ」
「~~っ」
 そのまま、腕の力を込めてナツキを抱き締めながら、ゆっくりと地面へと誘導していく。
 俺もまた腰を下ろし膝を立て、ナツキの身体を支える様にその間に座らせ向かい合う。
 ぐったりとしたまま、俺の肩にコテンと頭を寄せて凭れ掛かる姿は可愛くも艶があった。

「……」
 ナツキの頬をそっと撫でる。
 苦しそうな辛そうな、表情に、目元に、どきりとする。
 両手でそっと、頬を少しだけ持ち上げると、無意識にナツキは薄目を開けた。
 俺はその艶めく容貌に息を呑んだ。
 手に少しだけ力を入れ、俺は顔をナツキにそっと寄せ、ナツキの震える唇に自分の唇を寄せていきそうになる。

――――やばっ……。

 唇にキスしそうになるのを無理矢理に抑え、理性を総動員して額に方向転換する。
「っ……回復の息吹グワリジョーネ
 ナツキに体力の回復魔法を掛ける。

 回復魔法は、基本的に皮膚のどこからでも掛ける事が出来る。
 ただし、回復魔法が得意でない者や治癒属性などを持っていない者は、自分の唇と呼気を介し直接的に行う事で回復魔法を扱う事が出来る。

 思わず誘われる様に、キスしてしまいそうになったが、何とか自制心を取り戻して回復魔法を掛ける事が出来た。

――――危な過ぎだろう、俺……。
 あまり表情が豊かでない事が幸いなのか、ナツキにはバレてはいないだろう……と思いたい。

 俺をじっと見詰めるエメラルドアイズは、当たり前だが困惑気味だ。
「ぇ……と」

 眼を泳がせるナツキに、ちょっとだけどう反応するのか見たくて、俺は意地悪な問い掛けをする。
「今のでは足りないか?」
「めめめめめ、滅相も御座いません! 大丈夫です!」
 さっきの蒼白な顔に赤みが差し、目を丸くして慌てるナツキは手をワタワタさせる。

 体力を多少回復させたとは言え、持ってかれた魔力の補填は出来ていないので声を掛ける。
「少しこのままでいろ」
「でも」
「なら、立てるか?」
「腕を放し……」
 恥ずかしそうにするナツキに、微笑ましい気分と守ってあげたいなと素直に思う。

 俺はナツキの腰に回した腕には、力を入れず添えるだけに留める。
「力はいれていないから、押し退けてみろ」
「……」
 身体を捩って何とか立とうとしている意気込みだけは見ていて理解出来たが、実際には殆ど動けていない。

「ダメか」
 ぼそりと俺は呟きつつ、ナツキの魔法具を着けている右手を取る。
 ほっそりとした指を眺めながら俺の唇へと引き寄せ、指輪へゆっくりとキスをする。

「我が魔力の欠片を与える」
 魔力を呼吸と共に、ナツキの指輪に流していく。

「っ……ぁ……」
 ナツキがビクリと身体を震わせ、初めての感覚に戸惑う姿に、不思議な愛おしさが湧き上がる。

「……」
 ちらっと、視線を黒の障壁へ向ける。あちら側にあるレーツェルの張った結界は、簡易とは言えど優秀な代物だ。
 外から見ると幻影魔法が掛かっているから、中で本当に何が起こっているか解らない。
 もしもの為に、掛けさせておいて正解だったと思う。
 気付かれないし、誰にも邪魔されない。
 とは言え、あまり時間を取り過ぎるとレーツェルが俺の障壁を破壊して乗り込んで来そうだが……。

――――もう少しだけ、このままで居ても良いだろうか。

 頬を染めるナツキを見下ろしながら、俺はこのひとときをそっと楽しんだ。
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