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華燭の典へ向けて

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「皇帝陛下。エルーシャ・デ・グラン=エスカーラ、只今帰国致しました」
 エルーシャはその身に白軍服纏い、帝国王太子の正装姿で謁見の間に片膝を着いて告げる。
 皇帝陛下である父親の前であったが、臆する様子は微塵もない。
 エルーシャの隣には、黒の軍服を着用したファルクスが同じ様に膝を着いていた。
「同じく、ファルクス・フレッダ、帰国致しました」
 跪拝して二人は、最高権力者の言葉を待った。

「二人とも大儀であった。立つが良い。そなたたちの働きで貿易問題が解消されたぞ」
 にこやかに笑うフロスト・デ・グラン=エスカーラ皇帝陛下である。
 言われたとおりに立ち上がるエルーシャとファルクス。

 帝国を束ねる王である彼は、美丈夫であり偉丈夫でもあった。美形でありながら、身体を鍛え騎士団の長すらも退ける程の腕を持っている。筋肉ダルマには至らず、余すことなくその美貌を増す要素となっている。
 油断のない黒曜石の様な瞳と、太陽の下でも存在感を放つ黒髪を持っていた。その彼の色をエルーシャ受け継いでいる。
 皇帝の玉座に座る父、その横には、皇妃の玉座には叔母とそっくりな母が座っている。
「なぁ、皇妃よ」
 皇帝は皇妃に言う。すると、彼女はふわり微笑み口を開いた。
「ええ。ジークリンデから書簡が届きました。エルーシャは良くやってくれたと。わたくしも皇妃としても、また母としても誇りに思います。無事に戻って来て良かったわ」
「はい。ありがとうございます」
 堅苦しい感じで返すエルーシャに、少し困った様に笑う皇妃を見て、ニヤニヤと口元を緩ませて楽しそうしている皇帝が助け舟を出す。
「エルーシャ、ファルクス、二人とも、今日はゆるりと休むがよい」
「「はい」」
 一礼をして二人は、謁見の間から退出した。
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