改造王女の後継争奪記

ユズキ

文字の大きさ
16 / 42

16話:王妃と偽王女の覚悟

しおりを挟む
 ラタ王女の危篤の報が届いてから、領主館の中の雰囲気は、張り詰めたように一気に緊張の色に塗り替わった。
 館で働く人々は、ソティラスたちを除き、ミラージェス王国出身者で統一されている。悲願達成へ大きく前進した気分だろう。
 バークティ妃の命令で、館にいる全ての住人や召使が、大広間に集められた。

「予定では、まだ半月ほど生きている筈だったのだけど。もう、もちそうもないわね」

 バークティ妃の口元に、残酷な笑みが浮かぶ。

「おそらく一週間も経たないうちに、訃報も届くでしょう。そうなれば、ラタ王女のために、王は盛大な葬儀を催すでしょう」
「自分の後継者として、ラタ王女のことは溺愛しておったからの」

 テーブルの上にちょこんと座って、カルリトスは髭を撫でた。

「そして葬儀が済めば、シャンティとアルジェンの、新たな後継者候補宣言が大々的に発布される」

 ギュッと握ったバークティ妃の拳が武者震いし、目が不敵に笑んでいる。

(バークティさん怖いわ…)

 少し離れたところから彼女の様子を見て、カエは内心ゲッソリとした。
 他人の死を、あんな風に待ち望むことには、慣れそうもなかった。

「カルリトス、ソティラスたちの仕上がりはどうかしら?」
「90%といったところじゃろうの。すでに第三段階まで成長し、今は細かな微調整中じゃ」
「なら、使い物にはなるわね」
「うむ」

 部屋の隅に控えるソティラスたちの顔にも、サッと緊張が走った。

「おそらく王は、ウシャス宮殿にある闘技場クリ・カラリで、互いのソティラス同士を戦わせる武闘大会を開くでしょう」
「それって、所謂、デスマッチ…?」

 カエがおそるおそる口を挟むと、バークティ妃はにっこり笑んで肯定した。

「ゲフッ」
「貴族や一般人を招いて、盛大にするでしょうね。あなた自慢のソティラスたちの晴れ舞台よ。楽しみだわ」
「マジっすか…」

(うわあ…殺し合いなんて、嫌だあ…)

 そのために集められ、訓練をしている子供たちだ。今ではすっかり情が移ってしまい、殺し合いの道具にしたくないと、本気でカエは思っていた。

「ミラージェス王国解放の為にも、みんな、気を抜かずにね」
「御意」

 バークティ妃がしめて、その場は解散となった。
 ぞろぞろと退出していく中、カエとバークティ妃だけが大広間に残った。

「あ、あの、訊いてもイイ?」
「ええ、何かしら」

 カエは前から訊きたかったことを問いかけた。

「ラタ王女のことなんだけど、きっと? 警備とか厳重のなか、どうやって毒を盛り続けることができたの?」
「今から3年前、まずはラタ王女の元へ召使いを送り込んだの。優しいラタ王女に懐柔されない、わたくしへの忠誠と心の強い召使いをね」

 重厚な木材で作られたデスクの上に行儀悪く座ったバークティ妃は、脚を組んで妖艶な笑みを浮かべた。

「3年かけてラタ王女の信用と信頼を勝ち取らせ、心を許させて、そして本当に少しずつ毒を盛らせていったの。いきなり弱るほど盛るとバレちゃうから」
「…今死にかけてるってことは、召使いを疑いもしてなかったんだね」
「そうよ。今でも傍に置いているくらいですもの。食事に毒がまざってああなっているなんて、少しも思ってないそうよ。健気よね」

(私だったら、良心の呵責で、絶対バラしちゃいそう…)

「わたくし、ラタ王女のことは好きでもないけど、嫌ってはいないのよ。だって、素直に毒を食べてくれていたんですからね。――わたくしは自分の国を、絶対救いたいの」

 決意の揺るがない目。その目を見て、カエは胸を押さえた。

「この国に侵略されたとき、良心なんてものは捨てたわ。良心を持ち合わせていたら、ラタ王女を亡き者にするなんて出来ないから。祖国を救うなんて到底無理だもの」

 どこか遠い表情かおをするバークティ妃。

「イリスアスール王国を倒すことはどんなに足掻いても無理。王を倒せば国が滅ぶほど軟ではないのよ。悔しいけれど、国の端々まで統治が行き届いていて、中央は腐敗していない」
「うっ…」
「たとえあなたに大量のソティラスを作らせて王を襲っても、討つことなんて出来ない」
「王の持つ、エセキアス・アラリコ?」

 忌々し気にバークティ妃は頷く。

「そう。王のソティラスで構成された最強軍。王はね、ソティラスを1万人抱えているのよ」
「いっ」

(1万人ですって!?)
(いやいや多すぎでしょ! 額に指タッチ、あれ1万回もやったのか!)

 カエはあんぐりと口を開けた。

「ソティラスが1万、≪トイネン≫も1万…」
「あの化け物戦力が2万もいるの。到底敵うわけがないわ。それに、通常兵士で構成された正規軍100万もいるから、反乱なんて起こすだけ無謀の極みなのよ」

 はあ、とバークティ妃は呆れたように息をつく。

「ザッと数字言われても、想像の域を超えないわ…。規模がデカイってのだけは判るんだけど…」

 カエは困惑気味に眉間をよせた。

「正面から堂々と挑んでも仕方がないわ。反乱を起こして失敗すれば、ミラージェス王国は完全に滅ぼされてしまう」
「うん…」
「だから、内側から乗っ取るの」

 うふふふっとバークティ妃はご機嫌に笑った。そして真顔になる。

「王の血を引いていないあなたが、玉座に就くのよ。これほど愉快で胸のすくものはないわ」

(確かに…、酷い詐欺だよね)

 あはは、とカエは小さく笑った。

「ちゃんとね、ラタ王女のこと、可哀想なことをしたと思ってるのよ。――酷い女だと思う?」

 シャンティ王女と似た容姿のバークティ妃。
 母親という仮面かおは、そこにはもうない。
 あの美しい顔の裏側には、沢山の表情かおが潜み、今は無害そうな微笑みを浮かべている。

(……酷いことをしているのは、私も同じ)
(あの子たちに…ソティラスたちを、殺し合いの場に立たせようとしてる…)

 同じ穴の狢、という言葉が頭に浮かぶ。

(ラタ王女に対しては、本心から申し訳なく思う。ラタ王女だって、ただ王女に生まれちゃったから、復讐の犠牲になっている)
(……ごめんね、でも、私は私の目的のために、しらんぷりするね)

「酷いのは、お互い様だよ」

 ニカッとカエは笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ
恋愛
女性が極端に少ない異世界に転生した私は、気づけば伯爵令嬢になっていた。 前世は日本で普通に生きていたせいか、貴族令嬢らしい強気な振る舞いがどうしても苦手。 社交界デビューを迎えても、「どうして私が選ばれるの?」と戸惑うばかりだった。 けれど今年デビューする高位令嬢はわずか三人。 家同士の思惑も重なり、騎士団長家の息子、宰相子息、魔術師団長の息子、幼なじみの侯爵子息、そして英雄騎士―― 五人の若きエリートとのお見合いが次々と始まってしまう。 遠慮がちで控えめな性格は、この世界では珍しく、気づけば少しずつ距離を縮めていく彼ら。 異世界での恋愛に戸惑う日々。けれど出会いを重ねるたびに、私は少しずつ変わっていく――。 女性希少世界の社交界で、自分の幸せを選べるようになるまでの ほのぼの甘い逆ハーレム恋愛ファンタジー。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あやかし帝都の婚姻譚 〜浄癒の花嫁が祓魔の軍人に溺愛されるまで〜

鳴猫ツミキ
キャラ文芸
【完結】【第一章までで一区切り】時は大正。天羽家に生まれた桜子は、特異な体質から、家族に虐げられた生活を送っていた。すると女学院から帰ったある日、見合いをするよう命じられる。相手は冷酷だと評判の帝国陸軍あやかし対策部隊の四峰礼人だった。※和風シンデレラ風のお話です。恋愛要素が多いですが、あやかし要素が主体です。第9回キャラ文芸大賞に応募しているので、応援して頂けましたら嬉しいです。【第一章で一区切りで単体で読めますので、そこまででもご覧頂けると嬉しいです】。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜

侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」  十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。  弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。  お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。  七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!  以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。  その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。  一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

怠惰令嬢の玉の輿計画 昼寝してたら侯爵様と面倒なことになりました

糸掛 理真
恋愛
頑張りたくない 働きたくない とにかく楽して暮らしたい そうだ、玉の輿に乗ろう

処理中です...