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勇気と決断編
episode487
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すでに陽も落ちかかり、巨大な城壁に取り囲まれたハーメンリンナの中は闇色に包まれている。しかし、街の中は電灯の柔らかな白い光があちこち灯っており、街並みの美しさも相まって、幻想的な雰囲気を醸し出していた。
皇王から差し向けられた迎えのゴンドラは、特注仕様のうえ、警護兵も乗り込んでの豪奢なものだ。そのゴンドラの中央席に、ベルトルドとアルカネットの間に挟まれて座っているキュッリッキは、やや緊張気味の面持ちで2人の話を聞いていた。
「戦勝会とはいっても建前だ。ほぼ毎日貴族どもはなんらかのパーティーを開いている。今回は皇王主催といったご大層な名義付きだがな、やることは踊って喋って食うだけだ」
ベルトルドがあっけらかんと説明するが、キュッリッキはその踊って喋って食うということが、ハーメンリンナの外の世界とは違うものと、なんとなく理解している。
踊りは陽気な音楽に合わせて即興で、喋るのは大声で笑い合いながら普通に喋ることだし、食うはマナーを気にせず好きに食べることだ。でもこれから行こうとしている場所は、そうした庶民の世界とは違う。
「羽目を外さなければ、そんなに気にしなくても大丈夫ですよ。リッキーさんは普段からお行儀のいい子ですから、社交界でも問題ありません」
にっこりとアルカネットに言われて、緊張しながら固く頷く。そんなキュッリッキの様子を見て、ベルトルドとアルカネットは顔を見合わせて苦笑した。先ほどの屋敷での威勢はすっかりどこかへ去っている。
貴族でもなく上流階級の出でもないキュッリッキには、社交界は無縁の場所だ。召喚スキル〈才能〉を持ちながら、生まれ落ちてすぐ両親に捨てられたのでなおさらだ。
本来召喚スキル〈才能〉をもって生まれてきた子供は、生国が家族ごと保護をする。保護をするというのは、王侯貴族の中に取り込み、一生裕福で安全な暮らしが保証されるということだ。衣食住と身の安全も全て国が面倒を見る。出自が例え田舎の農家であろうと漁民であろうと関係ない。レアスキル〈才能〉の中でもとくにレアな召喚スキル〈才能〉は、貴重なものとしているからだ。
キュッリッキの両親が、片翼が奇形だからと彼女を捨てたりせず、召喚スキル〈才能〉を授かって生まれてきたのだと国に申告し、国もまた見捨てるようなことをしなければ、キュッリッキはイルマタル帝国の中で大切に育てられていたはずだった。
ハワドウレ皇国の皇王自らがキュッリッキを社交界に招くということは、ハワドウレ皇国がキュッリッキの存在を保護する姿勢を表明したと同義になる。すでにベルトルドの庇護下に身を置いているが、それがより絶対なものとなった。
キュッリッキ自身はこれからも自由な傭兵であることを望むだろうが、続けるにしろ辞めるにしろ、終生この国が全てを保証してくれる。紆余曲折を経て、ようやくキュッリッキは定住地を得られたということだ。
キュッリッキ自身は、そのことに全く気づいていなかったが。
ゴンドラは音もなくゆっくり街の中を通り、やがて大きな王宮の門をくぐっていく。
「うわあ…」
皇王から差し向けられた迎えのゴンドラは、特注仕様のうえ、警護兵も乗り込んでの豪奢なものだ。そのゴンドラの中央席に、ベルトルドとアルカネットの間に挟まれて座っているキュッリッキは、やや緊張気味の面持ちで2人の話を聞いていた。
「戦勝会とはいっても建前だ。ほぼ毎日貴族どもはなんらかのパーティーを開いている。今回は皇王主催といったご大層な名義付きだがな、やることは踊って喋って食うだけだ」
ベルトルドがあっけらかんと説明するが、キュッリッキはその踊って喋って食うということが、ハーメンリンナの外の世界とは違うものと、なんとなく理解している。
踊りは陽気な音楽に合わせて即興で、喋るのは大声で笑い合いながら普通に喋ることだし、食うはマナーを気にせず好きに食べることだ。でもこれから行こうとしている場所は、そうした庶民の世界とは違う。
「羽目を外さなければ、そんなに気にしなくても大丈夫ですよ。リッキーさんは普段からお行儀のいい子ですから、社交界でも問題ありません」
にっこりとアルカネットに言われて、緊張しながら固く頷く。そんなキュッリッキの様子を見て、ベルトルドとアルカネットは顔を見合わせて苦笑した。先ほどの屋敷での威勢はすっかりどこかへ去っている。
貴族でもなく上流階級の出でもないキュッリッキには、社交界は無縁の場所だ。召喚スキル〈才能〉を持ちながら、生まれ落ちてすぐ両親に捨てられたのでなおさらだ。
本来召喚スキル〈才能〉をもって生まれてきた子供は、生国が家族ごと保護をする。保護をするというのは、王侯貴族の中に取り込み、一生裕福で安全な暮らしが保証されるということだ。衣食住と身の安全も全て国が面倒を見る。出自が例え田舎の農家であろうと漁民であろうと関係ない。レアスキル〈才能〉の中でもとくにレアな召喚スキル〈才能〉は、貴重なものとしているからだ。
キュッリッキの両親が、片翼が奇形だからと彼女を捨てたりせず、召喚スキル〈才能〉を授かって生まれてきたのだと国に申告し、国もまた見捨てるようなことをしなければ、キュッリッキはイルマタル帝国の中で大切に育てられていたはずだった。
ハワドウレ皇国の皇王自らがキュッリッキを社交界に招くということは、ハワドウレ皇国がキュッリッキの存在を保護する姿勢を表明したと同義になる。すでにベルトルドの庇護下に身を置いているが、それがより絶対なものとなった。
キュッリッキ自身はこれからも自由な傭兵であることを望むだろうが、続けるにしろ辞めるにしろ、終生この国が全てを保証してくれる。紆余曲折を経て、ようやくキュッリッキは定住地を得られたということだ。
キュッリッキ自身は、そのことに全く気づいていなかったが。
ゴンドラは音もなくゆっくり街の中を通り、やがて大きな王宮の門をくぐっていく。
「うわあ…」
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