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初恋の予感編
episode242
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昼食をとるためにメルヴィンが部屋を出て行くと、キュッリッキはホウッと切なげに息を吐き出した。
長椅子に置かれた、青い天鵞絨張りクッションの上に寝そべっていたフェンリルは、身を起こしてクッションから飛び降りた。そしてゆっくりとベッドに歩み寄ると、ヒョィッとベッドに飛び乗る。
「フェンリル…」
仰向けに横たわるキュッリッキの胸に飛び乗ったフェンリルは、頭でキュッリッキの顎を小突く。「なに悩んでるんだ」と言いたげな仕草に、キュッリッキはムゥっと口をへの字に曲げた。
「なんかアタシ、ヘンになっちゃった」
左手の人差し指で、フェンリルの小さな頭をクリクリと弄る。それを嫌がるように、フェンリルは全身を大きく振った。
「メルヴィンのこと考えると、胸がドキドキしたり、恥ずかしくなったりするんだよ。近くにいるとソワソワするし、いなくなるとガッカリしたり…。前はそんなことなかったのに、最近そうなっちゃうの。何でかなあ?」
フェンリルはフンッと鼻を鳴らす。そんなの知るか、と言いたげだ。キュッリッキは「あーあ」と呟く。
「こんなの初めてだから、ワケワカンナイ。しんどいし、疲れちゃった…」
拗ねたように唇を尖らせ、左手の甲を額にあてた。考えれば考えるほど、気が重くなっていった。
「色んなことありすぎて、きっと壊れちゃったんだね、アタシ」
キュッリッキがワケワカンナイ悩みにモヤモヤしている頃、ベルトルドは激しい睡魔と戦っていた。
かれこれ12日以上も、睡眠不足が続いている。人間無理が利くもんだ、などと胸中でぼやく。
(せめて、昼寝できればまだいいんだが…)
減る気配のない書類の山にイラッとするものを感じ、デスク前に立つ下級士官を、険悪な目つきでギロリと睨みつけた。睨まれた下級士官は訳が判らず、背中で大量の冷や汗を流しまくる。
今日は総帥本部の執務室で、軍関係の仕事に従事していた。ここでの仕事が終われば、次は宰相府である。
現在水面下で進んでいるとある計画に関連して、軍関係の仕事の量がどんどん増えていくのだ。そのせいで、昼食をとる休憩時間も返上だった。
(ああ、眠い…)
分刻みの仕事が夜更けまで続くこともあり、真夜中はキュッリッキのことでちょくちょく目を覚まし、身体を休める暇もない。休日も返上で働いていて、顔色も悪く、目の下には隈が住み着いていた。
「ベル」
「ん?」
「ちょっと休む? さすがに顔色悪くて心配だわ」
傍らで書類整理を手伝っていたリュリュが、心配そうに眉を寄せる。
「…いや、大丈夫だ」
本当は今すぐにでも寝たいところだったが、寝ると朝まで起きない気がしていた。なので、気が抜けない。
「そお? 心臓発作起こさない程度になさいね」
「ンなもんならんわっ!」
フンッと気合の鼻息を噴き出し、ベルトルドは書類にペンを走らせた。
長椅子に置かれた、青い天鵞絨張りクッションの上に寝そべっていたフェンリルは、身を起こしてクッションから飛び降りた。そしてゆっくりとベッドに歩み寄ると、ヒョィッとベッドに飛び乗る。
「フェンリル…」
仰向けに横たわるキュッリッキの胸に飛び乗ったフェンリルは、頭でキュッリッキの顎を小突く。「なに悩んでるんだ」と言いたげな仕草に、キュッリッキはムゥっと口をへの字に曲げた。
「なんかアタシ、ヘンになっちゃった」
左手の人差し指で、フェンリルの小さな頭をクリクリと弄る。それを嫌がるように、フェンリルは全身を大きく振った。
「メルヴィンのこと考えると、胸がドキドキしたり、恥ずかしくなったりするんだよ。近くにいるとソワソワするし、いなくなるとガッカリしたり…。前はそんなことなかったのに、最近そうなっちゃうの。何でかなあ?」
フェンリルはフンッと鼻を鳴らす。そんなの知るか、と言いたげだ。キュッリッキは「あーあ」と呟く。
「こんなの初めてだから、ワケワカンナイ。しんどいし、疲れちゃった…」
拗ねたように唇を尖らせ、左手の甲を額にあてた。考えれば考えるほど、気が重くなっていった。
「色んなことありすぎて、きっと壊れちゃったんだね、アタシ」
キュッリッキがワケワカンナイ悩みにモヤモヤしている頃、ベルトルドは激しい睡魔と戦っていた。
かれこれ12日以上も、睡眠不足が続いている。人間無理が利くもんだ、などと胸中でぼやく。
(せめて、昼寝できればまだいいんだが…)
減る気配のない書類の山にイラッとするものを感じ、デスク前に立つ下級士官を、険悪な目つきでギロリと睨みつけた。睨まれた下級士官は訳が判らず、背中で大量の冷や汗を流しまくる。
今日は総帥本部の執務室で、軍関係の仕事に従事していた。ここでの仕事が終われば、次は宰相府である。
現在水面下で進んでいるとある計画に関連して、軍関係の仕事の量がどんどん増えていくのだ。そのせいで、昼食をとる休憩時間も返上だった。
(ああ、眠い…)
分刻みの仕事が夜更けまで続くこともあり、真夜中はキュッリッキのことでちょくちょく目を覚まし、身体を休める暇もない。休日も返上で働いていて、顔色も悪く、目の下には隈が住み着いていた。
「ベル」
「ん?」
「ちょっと休む? さすがに顔色悪くて心配だわ」
傍らで書類整理を手伝っていたリュリュが、心配そうに眉を寄せる。
「…いや、大丈夫だ」
本当は今すぐにでも寝たいところだったが、寝ると朝まで起きない気がしていた。なので、気が抜けない。
「そお? 心臓発作起こさない程度になさいね」
「ンなもんならんわっ!」
フンッと気合の鼻息を噴き出し、ベルトルドは書類にペンを走らせた。
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