片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
250 / 882
初恋の予感編

episode247

しおりを挟む
「この青紫色のバラ綺麗だなあ~。1本だけもらっちゃっても、平気かな?」

「リッキーさんが欲しいなら、全然構わないと思いますよ」

 ここにあるバラ全部欲しい、と言っても、あの2人なら反対することは絶対ない。そうメルヴィンは確信していた。

「えへへ、じゃあ1本だけ」

 キュッリッキは半分咲きかけた花を選び、ポキッと少し長めに茎を折った。

 キリッとした美しい輪郭は、どこか、ベルトルドやアルカネットを彷彿とさせる。あの2人には、よく似合う花だなと思った。

「部屋に戻ったら、一輪挿しの花瓶を借りてきますね」

「うん」

 暫く庭を散策して屋敷のほうへ戻ってくると、何やら使用人たちが慌ただしく走り回っている姿が、窓ガラス越しに見える。普段静まり返っている屋敷の中が、騒然となっていた。

「なんだろう、なにかあったのかな?」

「うん、みんな走り回ってるね」

 2人が不思議そうに首をかしげていると、ルーファスがテラスに出てきて、2人に向けて手を振っていた。

「どうしたんですか?」

 キュッリッキを抱いているので走るわけにもいかず、大股でルーファスのところへと寄る。

「ちょーびっくりのニュースだよ! あの傲岸不遜な御仁が、軍の訓練を視察中にぶっ倒れて、病院担ぎ込まれたって! その連絡があって、もう屋敷中大騒ぎだよ」

 心配するどころか、興味津々の満面の笑顔でルーファスはまくし立てた。

「――あの人でも、倒れることがあるんですねえ」

 複雑な表情を浮かべながら、メルヴィンがしみじみ呟く。病気すら近寄るのを拒みそうなイメージしかないからだ。人間だったんですね、とは心の中で呟く。

 キュッリッキの身体が、小刻みに震えだした。手に伝わってくる微かな震えに、メルヴィンは腕の中のキュッリッキを見た。

「ベルトルドさんが、入院って……」

 掠れるように言い、それ以上は喉が詰まったように言葉が続かない。顔をこわばらせて俯いた。

「詳しいことは判んないけど、これからセヴェリさんが病院へ行くって言うから、オレ一緒に様子見に行ってくるよ」

 着替えやら何やらを、持っていく必要があるのだろう。

「病院のほうで、アルカネットさんも合流するみたい。ベルトルド様がぶっ倒れたんじゃ、行政も軍も大騒ぎだね、これ」

「そうですねえ。皇王や宰相が倒れても、あんまり…ですし」

「国を司ってるのって、ベルトルド様だもんね~、事実上は」

 そこへ、メイドの一人がルーファスを呼びに来た。

「セヴェリさん、準備できたのね~」

「しっかり見舞ってきてください。こちらは大丈夫ですから」

「おう、じゃあちょっと行ってくるネ。――あんまり心配するんじゃないよ、キューリちゃん」

 ルーファスは明るく笑ってみせて、屋敷の中に駆け込んでいった。

「仔細は判りませんが、きっと大丈夫ですよ。そんなに心配すると、身体に触りますから」

 すっかり元気が消え失せてしまったキュッリッキに、メルヴィンは努めて笑顔を向ける。

「部屋に戻りましょうか」

「うん…」

 キュッリッキは小さく頷くと、手に握った淡い青紫色のバラの花を、ぎゅっと胸に抱き寄せた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

Millennium226 【軍神マルスの娘と呼ばれた女 6】 ― 皇帝のいない如月 ―

kei
歴史・時代
周囲の外敵をことごとく鎮定し、向かうところ敵なし! 盤石に見えた帝国の政(まつりごと)。 しかし、その政体を覆す計画が密かに進行していた。 帝国の生きた守り神「軍神マルスの娘」に厳命が下る。 帝都を襲うクーデター計画を粉砕せよ!

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

処理中です...