10 / 34
10:人形探し
しおりを挟む「夜の学校ってさあ、やっぱ雰囲気あるよな。病院とか墓地も怖いけど、通ったことがある分より身近っていうかさ。俺の場合、普段行かない場所って現実味感じられなくて怖いとか思わないんだよな」
明るい時間帯の学校なら嫌というほど通ったが、夜の学校を訪れる機会なんてそうそう無い。
子供の頃は、夜の学校で七不思議を試してみたいと思ったこともあった。トイレの花子さんや校庭に置かれた二宮金次郎、魔の十三階段などなど。
けれど、それを試すことができるのはあくまで創作の世界の中での話だ。
現実の学校には、大抵鍵がかけられているし、見回りや防犯システムだって作動している。
だからこそ、こうして実際に夜の学校で何かをする動画や映画に、興味を惹かれる人間も少なくないのかもしれない。
「……と、西階段を通り過ぎて二階の一番端が校長室でーす。俺の中学の時の校長は朝礼の話が長すぎてヤバかったの思い出すわ。それじゃあ、失礼しまーす」
廊下の突き当りに到着すると、室名札に『校長室』と書かれた部屋を見つけた。
他の教室に比べて、少しだけ重厚感のある扉をゆっくりと開ける。
校長室に呼び出されるような悪さをしたことはなかったので、こうして足を踏み入れるのは、思えば初めてのことだ。
中は想像していたより広いわけでもなく、応接用の長机を挟んで黒い革張りのソファーが左右に配置されている。
その奥には、校長が普段使用していたのであろうデスクと椅子が置かれていた。
「思ってたより、ここの探索はすぐに終わりそうだな。ほら、この辺は隠す場所無さそうだし」
ライトで照らした限り、長机の下やソファーの上には何かがあるようには見えない。
デスクの引き出しの中と本棚の中をざっと漁ってはみたが、人形を見つけることはできなかった。
「やっぱ無いかあ。……これって、歴代の校長の写真なのかな」
テンポは良いに越したことはない。早々に諦めて部屋を出ようとしたところで、壁に飾られた写真に目を向ける。
男性の方が多いようだが、女性の姿もちらほらと見えるそれは、皆にこやかな表情を見せていた。
「肖像権とかあるし後でモザイクかけるかもしんないけど、一応撮っとくか。……え?」
俺は自撮りをするような格好で、その写真が背景として映るようにカメラを向ける。
そこで、俺は自分の目を疑った。
画面に映った写真の人物たちが、鬼のような形相で俺の方を睨みつけていたのだ。
慌てて振り返るものの、そこに飾られている写真は先ほどと同じく微笑んだままになっている。
「見間違い……か? なんか、睨まれてるような気がしたんだけど」
もう一度画面を確認してみるが、そこに映っている写真もやはり同じように微笑んでいた。
薄暗いので、目の錯覚か何かだったのだろう。
校庭で見かけた人影といい、廊下での見間違いといい、自分で思っているよりも俺はビビっているのだろうか?
「いや~、こういうトコから怪談って生まれてくのかもな。目の錯覚って怖い怖い。それじゃあ次……」
『人形見つけた!』
「えっ!?」
気を取り直して次の場所へ移動しようと思った矢先、タブレットのスピーカーから聞こえてきた声に俺は驚く。
俺だけではない。それまで人形探しをしていた他のメンバーの視線も、一斉に画面に向けられていた。
『あっ、これダミーのじゃないジャン。間違い間違い』
『何だよ、早とちりしてんじゃねーよ!』
どうやらダミーちゃんが最初に人形を発見したようだが、隠されていたのは彼女の人形ではなかったらしい。
誰もが安堵しただろうが、そのまま探索再開とはいかない。
「ダミーちゃん、画面隠して! 自分のじゃなくても、映ってる場所から特定されちゃうから!」
『え? あ、そっか。ちょい待ち』
俺の言葉の意味に気がついたらしいダミーちゃんの画面は、すぐに真っ暗になる。
恐らくスマホを抱き締めるようにして、映像が映らないようにしたのだろう。
幸い、ダミーちゃんの画面に映っていたのは彼女の顔が大半で、誰の人形を見つけたのかまではわからなかった。
だが、背景に映った場所を見れば、少なくともそこに人形がひとつあるということがバレてしまう。
全員がそこに向かってしまえば、誰かしらが自分の人形を見つけてしまうということになるのだ。
『わー、ダミーちゃんの画面ちゃんと見とけば良かった!』
『けど、ズルして勝っても嬉しくないし。アタシは自力で見つけてみせるよ!』
後悔の声を上げる牛タルに対して、ねりちゃんは意図しないことだとしても、不正を働かずにやり遂げる決意表明をする。
『確かに、自分の人形以外を見つけることだってありますよね。見つけたとしても、映す前にしっかり確認しておかないと』
カルアちゃんの言う通り、ビデオ通話を繋いだ状態の人形探しは細心の注意を払わなければならない。
人形を見つけられたことでテンションが上がってしまうかもしれないが、それが自分のものとは限らないのだ。
仮に自分の人形だったとしても、ロウソクのある部屋に辿り着くまで油断はできない。
同じタイミングで自分の人形を見つけたメンバーがいたとしたら、ロウソク部屋に近い人間の方が圧倒的に有利なのだから。
(……けど、今ので少し絞れたな)
口には出さないが、先ほどダミーちゃんが映していた部屋の背景には特徴があった。
壁が水色のタイルだったのだ。あれは間違いなくトイレの中だろう。
この学校のトイレは各階に二つ、男女で分かれていることを踏まえて十二個のトイレがある。
その上で、見つかった人形はダミーちゃんのものではなかった。
さらに、自分で隠した人形を見つける人間はいないだろう。つまり、ダミーちゃんが隠したカルアちゃんの人形でもなかったということだ。
(俺か財王さん、もしくは食物連鎖のどちらかの人形がトイレにあるってことか……)
さらに言えば、ダミーちゃんの声は大きい。
各階のトイレの半分は西階段の目の前にあって、俺は今その西階段の隣の部屋にいる。
タブレットのスピーカー以外から声は聞こえなかったので、恐らくはその上下階にもダミーちゃんはいなかったと推測される。
(となると、ダミーちゃんが見つけたのは東階段側のトイレだな)
他のメンバーがそれに気づいたかどうかはわからないが、トイレには気を付けておいても良さそうだ。
本来ならばすぐにトイレに向かっても良いのかもしれない。けれど、俺の行動で同じく場所に気づくメンバーがいないとも限らない。
そこにあるのが俺の人形だという確証がない以上、その判断は賢明とは言えないだろう。
「ダミーちゃんのあっさり一人勝ちかと思って焦ったなあ。それじゃあ次は、向かいの職員室に……」
「ユージさん?」
校長室を出て真向かいの職員室を目指そうとした時、スピーカーではなく俺を呼ぶ声が直に聞こえてくる。
見ると、そこにはカルアちゃんの姿があった。丁度西階段を上ってきたところのようだ。
「カルアちゃん……!」
「もしかして、これから職員室ですか? ……良かったら、私もご一緒していいでしょうか?」
「も、もちろん!」
「良かった。なんだかんだ言っても、やっぱりずっと一人って心細くて。誰かに会えないかなって思ってたところだったんです」
そう言って嬉しそうに微笑むカルアちゃんは、薄暗い中でもやはり可愛い。
各自で人形探しをするとはいえ、校舎の中はダンジョンのように広いわけではない。こういった可能性もあるのではないかと考えていたのだが。
(まさかこんなに早く、二人っきりのチャンスが巡ってくるなんて。やっぱり今日はツイてるのかもしれない)
優先すべきは人形探しだが、この機会に少しでも距離を縮めておきたいという下心を飲み込む必要もないだろう。
俺は努めて平静を装いながら、職員室の扉を開けたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
霊和怪異譚 野花と野薔薇[改稿前]
野花マリオ
ホラー
その“語り”が始まったとき、世界に異変が芽吹く。
静かな町、ふとした日常、どこにでもあるはずの風景に咲きはじめる、奇妙な花々――。
『霊和怪異譚 野花と野薔薇』は、不思議な力を持つ語り部・八木楓と鐘技友紀以下彼女達が語る怪異を描く、短編連作形式の怪異譚シリーズ。
一話ごとに異なる舞台、異なる登場人物、異なる恐怖。それでも、語りが始まるたび、必ず“何か”が咲く――。
語られる怪談はただの物語ではない。
それを「聞いた者」に忍び寄る異変、染みわたる不安。
やがて読者自身の身にも、“あの花”が咲くかもしれない。
日常にひっそりと紛れ込む、静かで妖しいホラー。
あなたも一席、語りを聞いてみませんか?
完結いたしました。
タイトル変更しました。
旧 彼女の怪異談は不思議な野花を咲かせる
※この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体、名称などは一切関係ありません。
本作は改稿前/改稿後の複数バージョンが存在します
掲載媒体ごとに内容が異なる場合があります。
改稿後小説作品はカイタとネオページで見られます
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
皆さんは呪われました
禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか?
お勧めの呪いがありますよ。
効果は絶大です。
ぜひ、試してみてください……
その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。
最後に残るのは誰だ……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる