34 / 34
34:リスナーへ
しおりを挟む「……な? 言った通り、凄い動画だっただろ。編集してるって思った人は、もう一度ちゃんと観てくれたらそうじゃないってわかると思うよ」
撮影していた動画をすべて流し終えると、画面を切り替えて再び俺の顔が映るようにする。
最後まで動画を観てくれたリスナーに向けて、その内容は紛れもない本物であったことを改めて主張する。
満足げな俺の様子とは正反対に、コメント欄の流れは異様なまでに早く、みんなが動揺していることが見て取れた。
『いやいや、冗談でしょ?』
『マジだったら通報モンじゃん、ヤラセだよ』
『でも参加メンバー誰もTmitter呟いてない』
『演出に合わせてるんでしょ』
『気持ち悪くなってきた』
『え、生きてるよね……?』
こうなることは予想済みだ。
オフコラボで撮影してきたという動画だったのに、最終的には死体だらけの映像になっていたのだから。
まだ作り物だと信じているリスナーも多いようだが、これが偽物でないことは俺自身が一番よくわかっている。
「きっと信じてくれない人もいるよね。通報した人もいるだろうし、すぐにあの廃校に死体があるってニュースになるとは思うけど」
俺が何もしなくたって、時間が経てば嫌でもこの動画が本物だという証明はされる。
テレビでもネットニュースでも、大々的に取り上げられることだろう。
だがそれよりも、トゴウ様の呪いが本物だという証拠を見せるのが、一番手っ取り早い。
「これを見せたら、もっと信じてくれる人も増えるかな」
そう言って、俺は顔の下半分を覆っていた黒いマスクを外していく。
これまで一度もマスクを外しての動画撮影をしたことはなかったので、リスナーたちはすぐに食いついてきた。
『えっ!? ユージまさかの顔出し!?』
『マジでマスク外すの?』
『あーわかった。今回の企画って顔出しの盛大な前フリだ』
『ユージも遂に顔出しMyTuberの仲間入りか』
ここまできてもまだ、俺の話が嘘だと考えている人間も少なくない。
だが、一度盛り上がったその空気は、俺の顔からマスクが外されたことによって一変する。
『え?』
『えっ?』
『何それ』
『え、怖い怖い』
『特殊メイク?』
『笑えないって』
外したマスクをゴミ箱に投げ捨てると、俺は解放された口元を片手で撫でつける。
そこに”唇が無い”という、違和感を拭いきることはできないのだが。
「ハハ、びっくりした? 残念ながら特殊メイクじゃないんだよね。ほら、擦っても変わらないし。被り物じゃないのもわかるでしょ」
俺は試しに手の甲で口元を思い切り擦って見せるが、当然剥がれ落ちるような特殊メイクは張り付いてない。
ただ本来唇があるはずの箇所は、強く擦りすぎたせいで赤くなっているらしい。コメント欄からの複数の指摘を見れば、鏡で確認するまでもない。
被り物ではない証拠に、シャツの襟元を大きく広げて見せたり、目元や頬など顔中を弄り回す。
『何でそんなことになってるの?』
『特殊メイクの技術も進んだんだな』
『CGとかうまいこと合成してるんじゃない?』
『それが代償なの?』
コメント数はどんどん増えていき、視聴者数も激増しているのがわかる。
それが面白くて笑うのだが、口角も無い俺の顔では伝わらないだろう。
「気づいた人もいるだろうね。そう、これが俺の受けた代償。配信者にとって、口は必須だからダメージはでかかったよ。だけど、お陰でこの動画はスゲー勢いでバズってるはずだから」
そう。俺が願ったのは、最初の希望通りこの動画がバズることだ。
最後まで、どちらを選択すべきか迷いはしていたのだが。
「ユージくんは最後まで、マロのことを殺そうとしてたんだよね!」
『えっ、カルアちゃん!?』
『うそ、本物?』
『ゆきまろって人なんじゃないの?』
『オフパコ失望しました』
画面の横から割り込んできたのは、ゆきまろだった。
カメラに映り込まない位置にいただけで、彼女は最初からここにいたので俺が驚くことはない。
本当なら、彼女を殺してしまいたかった。
メンバーの本性がどうであれ、身勝手な理由で多くの命を奪った上に、俺と共に人生を歩んでいこうとしていたのだから。
けれど、最後の最後で思い直した。なぜなら、最初から最後まで彼女は俺のことだけを見てくれていたからだ。
「俺がゆきまろを殺さなかったのは、彼女だけはずっと、俺の味方でいてくれたことに気がつけたからだ。彼女がしてくれたことは全部、俺のためだった。もう配信者としてはやってけないけど、配信はしなくても生きてはいけるからね」
あれほど望んでいた配信者としての未来も、自分の命には代えられない。
これからは馬鹿げたことに手を出さず、平穏に生きていければそれでいいだろう。
それに俺は、本当にかけがえのない大切な人を見つけることができたのだから。
「あ、ちなみにコレ録音なんだけど、今はまだ喋れてるのが不思議だよ。もう口は無いのにさ。けど、少しずつ舌が回らなくなってきてるから、みんながコレを観る頃には喋れなくなってるんだろうね」
「そう、ユージくんはもう喋れなくなっちゃったんだ。マロも残念だけど……これからは、マロがずーっと傍でユージくんを支えていくからね!」
ゆきまろの頼もしい言葉に、俺は視線だけで感謝を伝える。それだけでも彼女には通じたらしく、俺の手を握ってくれた。
ざわついたままのコメント欄を目で追いながら、俺は続く言葉に合わせて人差し指を立てて見せる。
「それから、喋れるうちにもう一つ。……トゴウ様は、次の”獲物”を探してる。願いを叶えてもらった人間は、その橋渡し役をしなければならないんだ。そうしないと、トゴウ様の怒りを買って呪い殺されてしまうことになる」
『は? 何それ、代償払ったら終わりじゃないの?』
『トゴウ欲張りすぎワロタ』
『じゃあ次の儀式が始まってるってこと?』
『ねえそれどうやって喋ってるの』
視聴者数もコメントも、止まることなく増え続けている。
口コミで広まっているのかもしれない。これで配信を終えるのが惜しくなるほどの数字だが、これほど多くの人間に一矢報いることができるなら本望だ。
「トゴウ様の呪いが移る条件は二つ。まずは、実際に儀式を行った人間から、トゴウ様の名前を聞くこと。それから、トゴウ様に叶えてもらいたい願い事を思い浮かべること」
「ちょー簡単だよね! みんなしっかりお願い事書き込んでくれてたし」
『え……待って』
『俺ら条件整っちゃったよな?』
『冗談だと言え』
『うちらに呪いを移したってこと?』
『ありえないんだが』
このために、俺は儀式を終えた直後に音声を録音していた。
いつまで喋り続けられるのかはわからなかったが、直感が働いたというのが正しいのかもしれない。結果的に、俺は自宅に帰りつく頃には完全に喋ることができなくなっていた。
筆談や合成した音声でも良かったのかもしれないが、やはり直接語り掛ける方が、興味を持ってくれる人間は多いのだろう。
最悪の場合には、ゆきまろに代弁してもらうことも考えたりしていたのだが。
俺の引退配信なのだから、最後まで俺の声で伝えたかったのだ。
「あ。トゴウ様の由来ってさ、実は最初に聞いたのとは違うらしいんだ。呪詛って漢字は、それぞれ”呪う”とか"詛う"って読み方もする。これって、人に災いが起こりますようにって祈る意味があるんだって。知ってた?」
『災いを祈るとか怖すぎ』
『知らなかった』
『そっちがホントの由来なの?』
『呪いを遂げるって意味もあったりして……?』
「そう。だから、トゴウ様ってお願いを叶えてくれる都市伝説じゃなくて、呪いの神様なんじゃないかって言われてるらしい」
「マロたちにとっては、本物の愛を結び付けてくれたキューピッドだけどね!」
俺の説明を聞いたリスナーたちは阿鼻叫喚だ。
これでもまだ信じない奴はいるだろうが、俺にとって信じてくれるかどうかは問題ではない。
「信じなくてもいいよ。だけど、呪いを移された人間は二週間以内に儀式をやらないと、トゴウ様に呪い殺されるから」
最後にゆきまろからこの話を聞かされた時、本当なら、俺一人で呪いを背負って死ぬ方が良いと考えていた。
少なくとも俺が命を犠牲にすれば、これ以上この場所からトゴウ様という都市伝説が広まることはないのだ。
だが、自分の死を前にして途端に怖くなった。俺も牛タルのように、苦しくて惨い死に方をするのかと。
何より、やっと見つけた大切な人を残していきたくはなかった。
それと同時に、リスナーからのコメントの数々が走馬灯のように脳内を駆け巡ったのだ。
俺が助けを求めた時、リスナーたちは俺の言葉をまともに受け取ろうとはしなかった。
今回だけじゃない。
普段の配信の時だって、少しでも彼らの気に食わないことをすれば、途端に罵声が飛び交った。
彼らにとって俺は配信者というよりも、匿名で好き勝手に攻撃できる都合のいいサンドバッグだったのだ。
中にはそうではない人もいたのかもしれないが、今の俺にとってはどれも皆等しく”文字”にしか見えない。
安全な場所から、心無い言葉を浴びせてくるリスナーたち。
そんな奴らが慌てふためく様を思うと、俺はどうしても自分だけが犠牲になるという選択肢を選ぶことができなかった。
彼らがこの後どうなろうと、俺には関係無い。
だって俺はもう、”ユージ”ではなく”干村侑二”に戻るのだから。
「それじゃあ、配信終了。頑張れよ、リスナー諸君」
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
霊和怪異譚 野花と野薔薇[改稿前]
野花マリオ
ホラー
その“語り”が始まったとき、世界に異変が芽吹く。
静かな町、ふとした日常、どこにでもあるはずの風景に咲きはじめる、奇妙な花々――。
『霊和怪異譚 野花と野薔薇』は、不思議な力を持つ語り部・八木楓と鐘技友紀以下彼女達が語る怪異を描く、短編連作形式の怪異譚シリーズ。
一話ごとに異なる舞台、異なる登場人物、異なる恐怖。それでも、語りが始まるたび、必ず“何か”が咲く――。
語られる怪談はただの物語ではない。
それを「聞いた者」に忍び寄る異変、染みわたる不安。
やがて読者自身の身にも、“あの花”が咲くかもしれない。
日常にひっそりと紛れ込む、静かで妖しいホラー。
あなたも一席、語りを聞いてみませんか?
完結いたしました。
タイトル変更しました。
旧 彼女の怪異談は不思議な野花を咲かせる
※この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体、名称などは一切関係ありません。
本作は改稿前/改稿後の複数バージョンが存在します
掲載媒体ごとに内容が異なる場合があります。
改稿後小説作品はカイタとネオページで見られます
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
皆さんは呪われました
禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか?
お勧めの呪いがありますよ。
効果は絶大です。
ぜひ、試してみてください……
その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。
最後に残るのは誰だ……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる