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<6>slight sleep〜崩壊する祈り〜
<6>slight sleep〜崩壊する祈り①〜
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蓮と慎が和解し、あたしが蓮を好きだと自覚してから一週間。
以前のように部屋に閉じ込められることはなくなったが、結局居心地が良いので外に出ない。
日光が恋しくなればベランダに出てボーッとした。
イジワルだった態度も今はずいぶんとやわらかくなった。
手が伸びてくるとつい後ずさり、身構えてしまう。
おそるおそる目を向けたとき、ふわっとした笑みがあるとそれだけで頬が熱くなった。
こんなのは好きになったら負け。
そう思っていたのに好きになった自分を肯定できた。
蓮の近くにいられることに幸福感を感じていた。
自分の幸せに夢中になって、蓮の顔色が見えていなかった。
「優里」
ソファーの上でクッションを抱き、のんびりとしていると蓮が隣に座る。
切れ長の目元は見るたびに心臓が跳ねる。
それくらい妖艶で、見透かされている気分になった。
蓮の手が伸び、頬に触れる。
恥ずかしくても拒みたくない。
唇をきゅっと結んで目を閉じる。
ずいぶんと触れ方がやさしくなったと甘ったるい気持ちになった。
「……美弥に会ってくる」
その言葉にあたしの身体は固くなった。
容赦なく身体を痛みつける鼓動に顔をあげられない。
いまだに蓮と美弥の関係性が見えてこない。
近づくだけ近づいて、あんな裏切り方をした美弥を割り切ることができなかった。
そもそも身寄せ橋にいる時点で裏切るという発想もおかしな話だと自嘲した。
「会って、どうするの?」
「……初心にもどりたい」
どうして蓮がこんな無理強い行動をしたのか。
何事にも段取りを組んで行う蓮にしては無謀な行動だ。
いつ表に出るかもわからない。
ばくち打ちのような不安定さがある。
ただあたしに近づくだけなら違う方法があった。
あたしに好意を抱いてというわけでもない。
なんのために穴だらけの計画を実行したのか、考えるとめまいがした。
あたしのアッシュブラウンの髪がすくわれる。
親指と人差し指に挟んで慈しむように撫でる。
蓮にとっては手癖のようなもの。
なぜ、こんなことをしたの?
美弥とはどんな関係?
聞きたくても聞けない。言葉が出ない。
美弥を思い浮かべると苦い気持ちになる。
タバコの香りに、大気に溶け込む煙。
大人びた見た目の割に、にやっと無邪気に笑う。
ミステリアスと完結出来ればよかったが、今はそうもいかない。
あらためてあたしは美弥のことを知らなかったと思い知る。
不安と邪念が付きまとい、欲があふれ出る。
こんな感情は蓮に出会わなければ抱かなかった。
蓮の背後に美弥がちらつかなければ気づきもしなかった。
蓮の傍にいれるならそれでよかったのに。
(それだけで良かった? だって、わがまま……。言い訳、うそ……?)
全部本当だ。
乙女のように花開かせるあたしも、泥のように妬ましく思うのも全部あたしだ。
欲深い自分を認めることが出来なくて、あたしは口角を引きつらせた。
「わかった。それは蓮が決めることだから。……美弥ねぇによろしくね」
物わかりのいい顔をして、本音は隠す。
それを見て何も言わない蓮をずるいと思った。
「……ちょっとベランダに出るね。風、あびたい」
蓮の肩をそっと押して、距離を取る。
後ろ髪がひかれる。
ベランダへ逃げる足を止めてよ。
がりがり引っ掻き癖の治らない手首をつかんでよ。
(名前、呼んでよ……)
こうして落ち込む自分が嫌いだ。
いつまでたっても好きになれない。
好きになろうと気持ちを奮い立たせても、根っこは深かった。
「あたしは恋に向いていないのかもしれない」
強くなりたい。蓮の傍にいればきっと強くなれる。
そう思ったのに実際は弱くなるばかりだ。
本気と胸を張れる恋をしたことがない。
いざ恋をしてみると幸せな気持ちと辛い気持ちが入り混じる。
一緒にいれて幸せだと感じたあとにくるダメージはあたしを潰しにかかる。
恋とはえげつない。
冷静な思考を奪う催眠術のようだ。
結局、本音は押し殺したまま蓮は外に出た。
扉が閉まるとその場にしゃがんで、腕をさすってうずくまる。
ライトな付き合い方を望み、生きてきた。
そうやって身寄せ橋で集団の中にいることに安心した。
仮面がはぎとられると、その下にはドロドロの執着まみれなあたしがいた。
こんなにも依存心が強くなったのはいつからだろう。
目を閉じて、遠い記憶に想いをはせた。
蓮と慎が和解し、あたしが蓮を好きだと自覚してから一週間。
以前のように部屋に閉じ込められることはなくなったが、結局居心地が良いので外に出ない。
日光が恋しくなればベランダに出てボーッとした。
イジワルだった態度も今はずいぶんとやわらかくなった。
手が伸びてくるとつい後ずさり、身構えてしまう。
おそるおそる目を向けたとき、ふわっとした笑みがあるとそれだけで頬が熱くなった。
こんなのは好きになったら負け。
そう思っていたのに好きになった自分を肯定できた。
蓮の近くにいられることに幸福感を感じていた。
自分の幸せに夢中になって、蓮の顔色が見えていなかった。
「優里」
ソファーの上でクッションを抱き、のんびりとしていると蓮が隣に座る。
切れ長の目元は見るたびに心臓が跳ねる。
それくらい妖艶で、見透かされている気分になった。
蓮の手が伸び、頬に触れる。
恥ずかしくても拒みたくない。
唇をきゅっと結んで目を閉じる。
ずいぶんと触れ方がやさしくなったと甘ったるい気持ちになった。
「……美弥に会ってくる」
その言葉にあたしの身体は固くなった。
容赦なく身体を痛みつける鼓動に顔をあげられない。
いまだに蓮と美弥の関係性が見えてこない。
近づくだけ近づいて、あんな裏切り方をした美弥を割り切ることができなかった。
そもそも身寄せ橋にいる時点で裏切るという発想もおかしな話だと自嘲した。
「会って、どうするの?」
「……初心にもどりたい」
どうして蓮がこんな無理強い行動をしたのか。
何事にも段取りを組んで行う蓮にしては無謀な行動だ。
いつ表に出るかもわからない。
ばくち打ちのような不安定さがある。
ただあたしに近づくだけなら違う方法があった。
あたしに好意を抱いてというわけでもない。
なんのために穴だらけの計画を実行したのか、考えるとめまいがした。
あたしのアッシュブラウンの髪がすくわれる。
親指と人差し指に挟んで慈しむように撫でる。
蓮にとっては手癖のようなもの。
なぜ、こんなことをしたの?
美弥とはどんな関係?
聞きたくても聞けない。言葉が出ない。
美弥を思い浮かべると苦い気持ちになる。
タバコの香りに、大気に溶け込む煙。
大人びた見た目の割に、にやっと無邪気に笑う。
ミステリアスと完結出来ればよかったが、今はそうもいかない。
あらためてあたしは美弥のことを知らなかったと思い知る。
不安と邪念が付きまとい、欲があふれ出る。
こんな感情は蓮に出会わなければ抱かなかった。
蓮の背後に美弥がちらつかなければ気づきもしなかった。
蓮の傍にいれるならそれでよかったのに。
(それだけで良かった? だって、わがまま……。言い訳、うそ……?)
全部本当だ。
乙女のように花開かせるあたしも、泥のように妬ましく思うのも全部あたしだ。
欲深い自分を認めることが出来なくて、あたしは口角を引きつらせた。
「わかった。それは蓮が決めることだから。……美弥ねぇによろしくね」
物わかりのいい顔をして、本音は隠す。
それを見て何も言わない蓮をずるいと思った。
「……ちょっとベランダに出るね。風、あびたい」
蓮の肩をそっと押して、距離を取る。
後ろ髪がひかれる。
ベランダへ逃げる足を止めてよ。
がりがり引っ掻き癖の治らない手首をつかんでよ。
(名前、呼んでよ……)
こうして落ち込む自分が嫌いだ。
いつまでたっても好きになれない。
好きになろうと気持ちを奮い立たせても、根っこは深かった。
「あたしは恋に向いていないのかもしれない」
強くなりたい。蓮の傍にいればきっと強くなれる。
そう思ったのに実際は弱くなるばかりだ。
本気と胸を張れる恋をしたことがない。
いざ恋をしてみると幸せな気持ちと辛い気持ちが入り混じる。
一緒にいれて幸せだと感じたあとにくるダメージはあたしを潰しにかかる。
恋とはえげつない。
冷静な思考を奪う催眠術のようだ。
結局、本音は押し殺したまま蓮は外に出た。
扉が閉まるとその場にしゃがんで、腕をさすってうずくまる。
ライトな付き合い方を望み、生きてきた。
そうやって身寄せ橋で集団の中にいることに安心した。
仮面がはぎとられると、その下にはドロドロの執着まみれなあたしがいた。
こんなにも依存心が強くなったのはいつからだろう。
目を閉じて、遠い記憶に想いをはせた。
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