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<6>slight sleep〜崩壊する祈り〜
<6>slight sleep〜崩壊する祈り⑥〜
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「あたしは、強い。そこらへんにいるお前らとは違うんだ」
同じように早朝、家を飛び出した。
背中を見送る人はいない。
走って走って走って、歓楽街でうずくまっていたらお金が見えた。
それしかすがれるものがなかった。
繰り返していくと、歓楽街を歩いていた美弥が気づき相手を蹴り飛ばした。
そうして手をひかれてやってきたのは《身寄せ橋》。
似たような境遇の人たちが集まり、笑っていた。
さみしさはそれで埋まった気がした。
髪を染め、化粧で顔に仮面をつけ、夜の街に溶け込んだ。
自分なんてどうでもよかったから、身体をお金に換えても平気だった。
たぶん、平気だった。なにも考えないように天井を眺めていた。
それを美弥は「あんたがそうしたいならそうすればいい。それが生きるために出せる対価なら出しな。身体をはって生きること全てが悪いわけじゃないから」と言って背中を向けた。
言葉の意味もわからずにあたしが世の中に出したのは【若い身体】だっただけのこと……。
***
食事を受け付けなくなり、食べても吐いてしまうような状況が続いていた。
鏡を見るたびに骨が浮き出てきたと指でなぞる。
これが女の子の夢見る細さかと思うと皮肉さに嗤った。
蓮はあたしを直視しようとしなかった。
母の後ろ姿によく似ていると目で追いかける。
振り向いてくれない現状は愛がないことを思い知らされる。
痛みに耐えられず、浴室へと駆けた。
シャワーを浴びながら鏡にうつる顔を凝視した。
母に似た顔立ち。父に似たのは目元くらいだろう。
黒目が人より明るいことでカラコンを入れているかとよく聞かれた。
慎にそれを話したとき、いっしょだと笑いあったことを思い出す。
自分の顔を見るたびに吐き気がしそうな嫌悪感を抱く。
この苦しみを蓮と慎はずっと抱えてきた。
鏡の中の自分が憎くてたまらない。
睨みつけると、鏡のあたしもにらみ返す。
かわいげのない顔を見て、あたしは苛立ちが募ってシャワーヘッドを振り上げた。
「消えろ! あたしなんか消えちまえ!」
血がお湯にまじって流れていく。
鏡の破片が手首を切りつける。
何度もがりがりとかいた手首が鮮やかな赤に染まる。
それを見て光のない目をして笑い出す。
「は……ははっ。めっちゃ赤いじゃん」
最初からこうすればよかったとタイルの上に座り込む。
お腹をさすって大粒の涙をこぼした。
(ムリだよ。愛されるってわかんない。愛し方なんてもっとわかんない)
視界が揺れる。
シャワーの粒が顔をたたきつける。
長い髪が肌にはりついて、目も開けていられない。
とたんに身体の重さに耐えられなくなって、くらくらして壁にもたれかかる。
手首から流れる血は思ったよりドロドロしている。
それをボーっと眺めて、腕の痛みを感じていないと気づいた。
そんなものより、胸がいたい。
でも蓮と慎の方が痛かった。
(そっか。これってあたしだけの復讐じゃない)
復讐心を抱く蓮の心はそんなに簡単じゃない。
遠のく意識のなかで足音を耳にした。
「優里?」
勢いよく開かれた扉の先には顔を青くした蓮がいる。
泣きそうな表情にあたしはあの日の蓮くんを見た。
身体を抱き起されると、ぼんやりとしながら血染めの手で蓮の頬を撫でた。
「蓮くん、は何も……わ、るく……ないから……ね」
(あー……蓮の目はきれいだなぁ。黒色なのに、好きなんだよなぁ)
「……優里? おい、優里!」
目を閉じてしまえば何もしなくて済む。
耳をふさげば余計な声は聞こえない。
その分、あたしを呼ぶ声も聞こえなくなった。
「……ごめん。本当は……」
同じように早朝、家を飛び出した。
背中を見送る人はいない。
走って走って走って、歓楽街でうずくまっていたらお金が見えた。
それしかすがれるものがなかった。
繰り返していくと、歓楽街を歩いていた美弥が気づき相手を蹴り飛ばした。
そうして手をひかれてやってきたのは《身寄せ橋》。
似たような境遇の人たちが集まり、笑っていた。
さみしさはそれで埋まった気がした。
髪を染め、化粧で顔に仮面をつけ、夜の街に溶け込んだ。
自分なんてどうでもよかったから、身体をお金に換えても平気だった。
たぶん、平気だった。なにも考えないように天井を眺めていた。
それを美弥は「あんたがそうしたいならそうすればいい。それが生きるために出せる対価なら出しな。身体をはって生きること全てが悪いわけじゃないから」と言って背中を向けた。
言葉の意味もわからずにあたしが世の中に出したのは【若い身体】だっただけのこと……。
***
食事を受け付けなくなり、食べても吐いてしまうような状況が続いていた。
鏡を見るたびに骨が浮き出てきたと指でなぞる。
これが女の子の夢見る細さかと思うと皮肉さに嗤った。
蓮はあたしを直視しようとしなかった。
母の後ろ姿によく似ていると目で追いかける。
振り向いてくれない現状は愛がないことを思い知らされる。
痛みに耐えられず、浴室へと駆けた。
シャワーを浴びながら鏡にうつる顔を凝視した。
母に似た顔立ち。父に似たのは目元くらいだろう。
黒目が人より明るいことでカラコンを入れているかとよく聞かれた。
慎にそれを話したとき、いっしょだと笑いあったことを思い出す。
自分の顔を見るたびに吐き気がしそうな嫌悪感を抱く。
この苦しみを蓮と慎はずっと抱えてきた。
鏡の中の自分が憎くてたまらない。
睨みつけると、鏡のあたしもにらみ返す。
かわいげのない顔を見て、あたしは苛立ちが募ってシャワーヘッドを振り上げた。
「消えろ! あたしなんか消えちまえ!」
血がお湯にまじって流れていく。
鏡の破片が手首を切りつける。
何度もがりがりとかいた手首が鮮やかな赤に染まる。
それを見て光のない目をして笑い出す。
「は……ははっ。めっちゃ赤いじゃん」
最初からこうすればよかったとタイルの上に座り込む。
お腹をさすって大粒の涙をこぼした。
(ムリだよ。愛されるってわかんない。愛し方なんてもっとわかんない)
視界が揺れる。
シャワーの粒が顔をたたきつける。
長い髪が肌にはりついて、目も開けていられない。
とたんに身体の重さに耐えられなくなって、くらくらして壁にもたれかかる。
手首から流れる血は思ったよりドロドロしている。
それをボーっと眺めて、腕の痛みを感じていないと気づいた。
そんなものより、胸がいたい。
でも蓮と慎の方が痛かった。
(そっか。これってあたしだけの復讐じゃない)
復讐心を抱く蓮の心はそんなに簡単じゃない。
遠のく意識のなかで足音を耳にした。
「優里?」
勢いよく開かれた扉の先には顔を青くした蓮がいる。
泣きそうな表情にあたしはあの日の蓮くんを見た。
身体を抱き起されると、ぼんやりとしながら血染めの手で蓮の頬を撫でた。
「蓮くん、は何も……わ、るく……ないから……ね」
(あー……蓮の目はきれいだなぁ。黒色なのに、好きなんだよなぁ)
「……優里? おい、優里!」
目を閉じてしまえば何もしなくて済む。
耳をふさげば余計な声は聞こえない。
その分、あたしを呼ぶ声も聞こえなくなった。
「……ごめん。本当は……」
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