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<7>abandoned child〜居場所探し〜

<7>abandoned child〜居場所探し③〜

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自分がいなくなればいいと戒めた。

どこにでもいる十七歳の少女が抱いたちっぽけな願いさえ、叶う兆しはない。

希望ひとつない世界に白い息を吐く。


【夢見る少女じゃいられない】

いつまでも少女でありたかった。

お父さん、お母さんと照れ隠しをしながら目を合わせたかった。

好きな人に後ろめたさのない自分でありたかった。

「まだ間に合う?」

声は情けなく震えていた。

それを受けて美弥が二ッと歯をみせて笑った。

「それは優里が行動するかだよ」

美弥の言葉をうけて、繊細な箇所にふれてわんわん声をあげて泣いた。

幼い頃に恋に落ち、そしてまた同じ人に恋をした。

この想いを肯定できなくても否定はしたくない。


あたしはどうしたい?

このままうずくまる?

――いや、前に進みたい。

復讐心を受けとめる。

好きな人へ抱く感情にうなずきたい。

この恋心、せめて気づいてもらいたい。

言葉にしなくては届かない。

そこからどうするかは蓮が決めることだと胸にそっと手をあてた。


「蓮はねぇ、優里と会って変わったよ」

「あたし?」

「優里の前だと子どもみたい」

ニヤニヤと笑う美弥に首をかしげる。

「子ども? 子供なのはあたしだよ。あたしが子どもだから何も出来なかったの」

「そうだねぇ。でもちゃんと成長しようとしてる」

蓮は子どものままだと美弥は言い切った。

「復讐という言葉で優里に甘えてるんだよ」

重くのしかかる一言だ。

それは蓮を突き刺すだけでなく、受け入れようとしていたあたしにまで氷雨となって降りかかる。

ようやくあたしなりの答えに行きついた気がして両手で何度も涙をぬぐった。

美弥の言葉はあたしの固定概念を打ち砕いた。

「うぇ……えっ……うぅ、うっ……!」

あたしの心はズキズキしている。

同じように蓮も痛かった。

独りよがりの痛みに傷のなめ合いをしようとしていた。

過去に縛られるのではなく、今を向き合って、未来に進みたい。

そう願っているのに、過去に執着していた。


蓮の心は幼いころに置き去りにされたままだ。

復讐が蓮の甘えだと考えもしなかった。

それに悲劇のヒロイン面をしたあたしはもっと甘えてる。

関わった人すべてを悪人に帰る自己都合の発想だった。

「苦しいのはあたしだけじゃないよね。だって蓮はやさしいもん。復讐に手を染めるのは苦しいばかりだよ」

誰よりも優しい蓮に復讐は出来ない。

そばにいたから言い切ろう。

意地悪に見えておせっかいで、包容力がある。

あたしの背伸びに言葉をくれた。

がんばったと頭を撫でてくれた。

おだやかに微笑む姿が本来の蓮だと信じたかった。


どれだけ復讐をしてもお互い一生満たされない。

終わることのない愛憎にもがき苦しむ。

続けても蓮はよけいに苦しむ。

がんじがらめになって、どんどん視野が狭くなる。

そんなことは望まない。あたしの願いは最初から一つなのだから。

「美弥ねぇ」

「ん?」

美弥の肩を押し、顔をあげる。

顎を突き出して、喉を鳴らして唾を飲み込んだ。

「あたしを、蓮のところへ連れていってください」

もう囚われたままは嫌だ。あたしは自らを縛る鎖を解き放つ。

「……いいよ。蓮のもとへ帰してあげる」

いままでで一番楽しそうにカッカと笑う。

思いきりあたしを抱きしめて、頬擦りをする。

ささいなじゃれあいが嬉しくなって抱きしめ返した。

幸せって楽じゃない。

だからこそ一等に輝いて見えると知った。

(今から会いに行くね)
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