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<8>Resume of hope〜少年少女たち〜
<8>Resume of hope〜少年少女たち①〜
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車に揺られて流れる景色を眺める。
蓮に会いに行くことを決意したが、何を伝えるのかを頭の中で整理する。
これで蓮に会えるのは最後かもしれない。
それは嫌だと思いながらも、蓮の選択次第だ。
あたしに出来るのは正直になること。
後悔のないように前を見ること。
幸せになりたいのなら前に進め。
進まなければ何も始まらない。胸にそっと手を当てた。
「もう少しで着くから」
車を運転する美弥がバックミラー越しに視線を送る。
にこっと口角をあげて美弥とアイコンタクトした。
再び流れる景色を見ると、視界に飛び込んできたものに腰を上げた。
「美弥ねぇ、停めて」
「何?」
「慎がいたの! お願い停めて!」
ブレーキ音の直後に停車する。
車から飛び出して一心不乱に駆けていく。
美弥の声を無視して人混みをかきわけ、歩道橋の前に立つ。
「慎!」
振り返ったのは厚めのダッフルコートを羽織る慎だ。
鼻のてっぺんまで赤くしてティッシュ配りをしている。
かじかんだ指先も赤かった。
寒さのなかで慎は無邪気にはにかむ。
もっと切羽詰まった顔をしていると思っただけに、より一層うれしさがこみ上げた。
「久しぶり。……なんか、恥ずかしいとこ見られた気分」
「うん。……久しぶり。全然……元気そうでよかった」
少しだけぎこちない。
まだ弟だと実感がわかず、ただ一緒にいた身寄せ橋仲間だ。
姉弟と知った今、慎の顔を凝視してあたしの顔と比較する。
ここが似てる、ここは違うと共通点を探してマルバツをつけていった。
「優里さ、大丈夫か? なんか顔色わりぃし……痩せたし」
「うん。でももう大丈夫。ちゃんとご飯も食べるし」
「……そんな風に急に痩せたのって兄貴が原因?」
「違う! 蓮のせいなんかじゃない!」
カッとなって声を荒げる。
過敏になったと口もとを隠して目を反らす。
慎は見透かすようにじっとのぞいてくる。
いたたまれないかゆさに手首をかこうとし、やめた。
誤魔化すのもいやだった。
爪をたてて手首を傷つけるのもやめたい。
深呼吸をして、ぐっと慎を見据えた。
「蓮がね、なんであたしにこんなことをしてきたのかを知ったの」
「それって……」
「蓮はあたしの父を憎んでた。子どものあたしを恨んでて、それで……」
「オレさ」
慎の声があたしの言葉に重なる。息をのむ音がした。
「あの後兄貴に会って、話を聞いた。自分のことを知ったし、優里が言おうとしてることもわかってる。……ごめん」
首を横に振り、顔の筋肉にこわばりを感じる。
慎が謝ることは何一つないのに、あたしたちは謝罪ばかりだ。
こんな悲しい顔をしてほしくないと、ダッフルコートを握りしめた。
「優里? 何やって……」
「慎は慎だよ。あたしにとって慎は大切な人。弟でも友だちでも関係ないよ! 慎だから一緒にいた」
ほんの少し前までは生まれてきた意味もわからず、居心地悪い人生を呪っていた。
今もまだ、どうしてこの親の元に生まれたかわからない。
それでも受け入れたいと慎の強張った頬をそっと撫でた。答えなんてない。
ただ、慎は生きてていい。
歪だとしてもあたしの弟だと心に刻んだ。
同じように慎はあたしの両頬を包み込み、額をあわせて笑った。
「優里は強くなったんだな」
「へへっ。そう見えるんだったらうれしい」
「それも兄貴を好きになったからだと思うと、ちょっと妬ける」
「ひぅっ? だ、だってさ? やっぱ振り向いてほしいし。前向きたいし。……強くなろうって思うじゃん」
「ははっ!」
「そういうものでしょ? ダメ元とわかってても告白したい。……ちゃんと蓮を知りたい」
「うん」
頬から手が離れ、あたしも慎から一歩後ろにさがる。
目と目があったとき、お互いに肩の力が抜けておだやかに微笑んだ。
「あのさ……オレ、来年から高校に行こうと思うんだ」
「高校に?」
慎とあたしは同い年だ。
あたしは高校に通っていたが、家を飛び出した今は遠くなった場所だ。
一匹オオカミだったあたしに高校は何の思入れもない。
慎は中学を卒業したあと、小さなアパート暮らしをしていたが、ほとんど外に出ていた。
アルバイトの傍らに身寄せ橋に来るのが楽な生き方だったと語っていた。
居場所を求めていたあたしたちの前に選択肢が増える。
未来に希望を抱く慎の瞳はキラキラしていた。
「今のままじゃ何も守ることが出来ないってわかったから。ちゃんと世の中に入って生きる。まずは勉強しなくちゃなって」
とはいえ、一人でなんとかできることでもないと、蓮に相談して決めたらしい。
学費や家賃は蓮が援助し、アルバイトをしつつ頑張りたいそうだ。
この結論を出すのにどれだけの勇気を必要としただろう。
強くなることは難しい。
そのために勇気を出すことはもっと難しい。
いろんな経験して人は強くなっていく。
大きな一歩を踏み出した慎を近くで応援したい。
慎の頑張りはこれから戦いに向かうあたしに勇気をくれた。
「優里も来年から通えよ」
「えっ?」
「案外わるくねぇよ。優里がいっしょだとオレはもっとうれしい」
「……うまくやれるかな? あたし、性格きついって、人すぐに離れてくから……」
「優里がいっしょにいたいと思う奴と友だちになればいいんだよ」
慎の言葉は内側まで染み渡る。
じわっと涙に揺れて、手の甲でごしごし拭うとぶきっちょに笑った。
車に揺られて流れる景色を眺める。
蓮に会いに行くことを決意したが、何を伝えるのかを頭の中で整理する。
これで蓮に会えるのは最後かもしれない。
それは嫌だと思いながらも、蓮の選択次第だ。
あたしに出来るのは正直になること。
後悔のないように前を見ること。
幸せになりたいのなら前に進め。
進まなければ何も始まらない。胸にそっと手を当てた。
「もう少しで着くから」
車を運転する美弥がバックミラー越しに視線を送る。
にこっと口角をあげて美弥とアイコンタクトした。
再び流れる景色を見ると、視界に飛び込んできたものに腰を上げた。
「美弥ねぇ、停めて」
「何?」
「慎がいたの! お願い停めて!」
ブレーキ音の直後に停車する。
車から飛び出して一心不乱に駆けていく。
美弥の声を無視して人混みをかきわけ、歩道橋の前に立つ。
「慎!」
振り返ったのは厚めのダッフルコートを羽織る慎だ。
鼻のてっぺんまで赤くしてティッシュ配りをしている。
かじかんだ指先も赤かった。
寒さのなかで慎は無邪気にはにかむ。
もっと切羽詰まった顔をしていると思っただけに、より一層うれしさがこみ上げた。
「久しぶり。……なんか、恥ずかしいとこ見られた気分」
「うん。……久しぶり。全然……元気そうでよかった」
少しだけぎこちない。
まだ弟だと実感がわかず、ただ一緒にいた身寄せ橋仲間だ。
姉弟と知った今、慎の顔を凝視してあたしの顔と比較する。
ここが似てる、ここは違うと共通点を探してマルバツをつけていった。
「優里さ、大丈夫か? なんか顔色わりぃし……痩せたし」
「うん。でももう大丈夫。ちゃんとご飯も食べるし」
「……そんな風に急に痩せたのって兄貴が原因?」
「違う! 蓮のせいなんかじゃない!」
カッとなって声を荒げる。
過敏になったと口もとを隠して目を反らす。
慎は見透かすようにじっとのぞいてくる。
いたたまれないかゆさに手首をかこうとし、やめた。
誤魔化すのもいやだった。
爪をたてて手首を傷つけるのもやめたい。
深呼吸をして、ぐっと慎を見据えた。
「蓮がね、なんであたしにこんなことをしてきたのかを知ったの」
「それって……」
「蓮はあたしの父を憎んでた。子どものあたしを恨んでて、それで……」
「オレさ」
慎の声があたしの言葉に重なる。息をのむ音がした。
「あの後兄貴に会って、話を聞いた。自分のことを知ったし、優里が言おうとしてることもわかってる。……ごめん」
首を横に振り、顔の筋肉にこわばりを感じる。
慎が謝ることは何一つないのに、あたしたちは謝罪ばかりだ。
こんな悲しい顔をしてほしくないと、ダッフルコートを握りしめた。
「優里? 何やって……」
「慎は慎だよ。あたしにとって慎は大切な人。弟でも友だちでも関係ないよ! 慎だから一緒にいた」
ほんの少し前までは生まれてきた意味もわからず、居心地悪い人生を呪っていた。
今もまだ、どうしてこの親の元に生まれたかわからない。
それでも受け入れたいと慎の強張った頬をそっと撫でた。答えなんてない。
ただ、慎は生きてていい。
歪だとしてもあたしの弟だと心に刻んだ。
同じように慎はあたしの両頬を包み込み、額をあわせて笑った。
「優里は強くなったんだな」
「へへっ。そう見えるんだったらうれしい」
「それも兄貴を好きになったからだと思うと、ちょっと妬ける」
「ひぅっ? だ、だってさ? やっぱ振り向いてほしいし。前向きたいし。……強くなろうって思うじゃん」
「ははっ!」
「そういうものでしょ? ダメ元とわかってても告白したい。……ちゃんと蓮を知りたい」
「うん」
頬から手が離れ、あたしも慎から一歩後ろにさがる。
目と目があったとき、お互いに肩の力が抜けておだやかに微笑んだ。
「あのさ……オレ、来年から高校に行こうと思うんだ」
「高校に?」
慎とあたしは同い年だ。
あたしは高校に通っていたが、家を飛び出した今は遠くなった場所だ。
一匹オオカミだったあたしに高校は何の思入れもない。
慎は中学を卒業したあと、小さなアパート暮らしをしていたが、ほとんど外に出ていた。
アルバイトの傍らに身寄せ橋に来るのが楽な生き方だったと語っていた。
居場所を求めていたあたしたちの前に選択肢が増える。
未来に希望を抱く慎の瞳はキラキラしていた。
「今のままじゃ何も守ることが出来ないってわかったから。ちゃんと世の中に入って生きる。まずは勉強しなくちゃなって」
とはいえ、一人でなんとかできることでもないと、蓮に相談して決めたらしい。
学費や家賃は蓮が援助し、アルバイトをしつつ頑張りたいそうだ。
この結論を出すのにどれだけの勇気を必要としただろう。
強くなることは難しい。
そのために勇気を出すことはもっと難しい。
いろんな経験して人は強くなっていく。
大きな一歩を踏み出した慎を近くで応援したい。
慎の頑張りはこれから戦いに向かうあたしに勇気をくれた。
「優里も来年から通えよ」
「えっ?」
「案外わるくねぇよ。優里がいっしょだとオレはもっとうれしい」
「……うまくやれるかな? あたし、性格きついって、人すぐに離れてくから……」
「優里がいっしょにいたいと思う奴と友だちになればいいんだよ」
慎の言葉は内側まで染み渡る。
じわっと涙に揺れて、手の甲でごしごし拭うとぶきっちょに笑った。
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