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<8>Resume of hope〜少年少女たち〜

<8>Resume of hope〜少年少女たち②〜

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学校に馴染めなかった。

いつもまわりから”痛い子”として見られていた。

母という支えを失って、誰にも思いを打ち明けることがなくなった。

辛い感情を溜め込んだ。

溜め込めば溜め込むほど自分をコントロールできなくなって、目つきは鋭くなった。

気を張ってケンカ腰になり、言葉は乱暴になった。

少しずつ人が離れていき、やがて噂は独り歩きする。

「あの子には近づかないほうがいい」「仲良くとかムリ」と、集団のなかであたしは真ん中にたって視線を浴びた。


あたしが悪いのだろう。

だが何が上手くいかない原因かを理解していなかった。

積み重なる感情を処理しきれない。

自分のことはまったく客観的になれない。

生きるだけで必死になり、どう見られているかなんて気にも留めなかった。

プライドだけが育っていき、やがて距離をとる同い年の人たちを見下した。

手作り弁当をうらやましいと思いながら、「ダサい」とわざと自分に言い聞かせた。

コンビニのおにぎりを頬張る毎日に退屈した。


心が折れるのは一瞬だった。

特になにか起きたわけでもなく、たださめざめと泣いた。

なんのために学校に行って、なんのために頑張ってきたかわからなくなって家を飛び出した。

そうして《身寄せ場》にたどりつき、美弥に会い、慎と出会った。

苛立ちばかりだった感情も少しずつ落ち着いていき、まわりを見下す気持ちで髪を染めた。

繁華街を歩いて羨望の目を向けられることに心地よささえ感じた。

それくらい、あたしは性格が悪かった。

ときどき後ろに振り返っては足元を見た。

何日たっても、それが月単位になっても、あたしを迎えにきてくれる人はいなかった。ど

うにでもなれ。そんなあきらめた日々を送った。

「オレはもう逃げることはやめる。優里も、いっしょに行こう」

(あぁ、まぶしいな)

断然、今の慎が一番かっこいい。

とても遠いところに行ってしまったように見えた。

だけど慎は同じ目線にたって、傷を知ったうえで手を前に出す。


強くなりたい。胸を張って前に進みたい。

一人では怖くても、慎が一緒だ。

「慎……あたしも一緒に行っていい?」

涙をぬぐって強気に笑おう。

意地をはるのはけっして悪いことではないのだから。

「当たり前だろ! 来ないって言われたとしてもオレは優里を連れて行ってやる!」

「何それ。強制ってこと?」

「次はオレの番なだけだよ」

そう言ってイタズラに笑う姿は少しだけ蓮に似ていると思った。

意外と慎はだいたんな性格をしている。

その強気も見習いたいと胸を膨らませた。


【強がっていい。それを繰り返して、気づいたら強くなるものだから】

「一緒にがんばろーぜ」

「うん。がんばろう」

 自分自身を誇れるように明るい未来がほしいから手を伸ばす。

そのためにあたしは蓮に会いに行く。

「あたし、行くね。会いたい人がいるから」

「そっか。行ってこい、優里」

「うん!」

背中をおされて走り出す。

人混みにはいって、やっぱり名残惜しくなって振り向いた。

まわりなんて目もくれず、大きく息を吸い込んで慎に叫んだ。

「今日! 慎に会えてよかった! ありがとう!」

慎の目が丸くなり、そしてはにかんだ。大きく手を振って、慎に背を向けると空に向かって大きく伸びをした。

走り出す足は軽い。

不安も恐怖もあるけれど、それがあるから負けたくない。

強くなった未来の自分を思い、晴れた空を見上げて走った。

「いい顔してんじゃん」

車に戻って美弥の第一声がそれだったので、より一層うれしくなった。
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