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<9>dreaming girl〜さようなら〜

<9>dreaming girl〜さようなら①〜

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車からおりると見上げるほどに高いマンションがあった。

青かった空も日が傾き、橙色とのグラデーションとなる。

美弥を追いかけたどり着いた部屋の前で深呼吸をする。

「私が付き合ってあげられるのはここまで。あとは自分でがんばって」

「ここまでありがと。あたし、がんばるよ」

クスッと美弥がやわらかい笑みを見せる。

去り際にあたしの肩を二度ポンポンと叩いて、あとくされなく去っていった。

扉を前にインターホンを鳴らそうと手を前に出す。

震える指先ではなかなか押すことが出来ず、ずいぶんと目を大きく開いてにらんでいた。

ついに押せる。そう意気込んだ時に、玄関扉が開いてついインターホンを連打してしまった。

気まずい気持ちのままに顔をあげると、目を見開いて肩を上下させる蓮がいた。

蓮の顔をみてついヘラヘラと笑ってしまう。

蓮は眉根をよせて、突き放す態度であたしを見下ろした。

「……何故、ここにきた」


ズキッと胸に痛みが走る。

今までで一番冷たく、鳥肌がたった。

蓮の拒絶を頭ではわかっていたくせに、直面すると怖気づく。

それでも今は、不格好でも意地を張りたかった。

強気はいつか本物の強さになる。それだけがあたしを鼓舞した。

「蓮に会いに来た。ちゃんと話したい」

「話すことはない。すぐに出てけ」

「絶対やだ。ちゃんと話が出来るまで出て行かない。……あたしから逃げないでよ」

強気も弱気も声に出る。

最初は勢いがあれど、最後は呟く程度だ。

すがるような目で蓮を見つめると、根負けした蓮がため息をつき、あたしを中に入れた。


リビングのソファーに腰かけ、蓮と向き合う。

いざ向き合うと話の切り口がわからない。

そんなにコミュニケーションは得意でないと、オロオロしそうだ。

何から話そうと頭の中で整理するも、なかなかまとまらずに手に汗を握る。

結局、大人の顔をして蓮があたしに声をかけた。

「なんで戻ってきた。ここに戻ってくることが、何を意味するのかわかってるのか?」

口を開くも声が出ない。

喉元に触れて、絞り出すように言葉を紡いだ。

「わかってる。ちゃんと、わかってるよ」

「だったら何故戻ってきた。俺はもう二度と、お前と関わる気はない」

はっきりと告げることで拒絶の意を強くした。

それは張り裂けるようにあたしを痛めつけたが、見たままを受け取ることもない。

蓮のやさしさはイジワルの向こう側にある。

近くでずっと見てきた。触れるたびに微笑みに恋をした。

呪うような目は苦しい気持ちのあらわれ。

それを含めて抱きしめたいのだから、この気持ちはどうしようもない。

これ以上あたしを傷つけないために解放したと、ちゃんとわかっている。

過去からの因縁を強制的に終えようとした。

終止符を打ったのに、あきらめの悪いあたしが狂いを生じさせる。

この行為は蓮に苦痛を与えるだけかもしれない。

……それでも会いたかった。

唾を飲み込み、蓮をまっすぐに見つめる。

「あたし、蓮が好き。それだけどうしても伝えたかった。ちゃんと、考えて、覚悟をもってここに来た」

息が詰まる。好意を告げるのはこうも重たいのかと心臓に負荷がかかる。

思えばまわりを嫌っていたのは自分からだ。

誰かのいいところに目を向けたことなんてない。

嫌悪は伝染して、あたしが嫌われるだけだった。

絶対にそらさないと口を結んで蓮を見つめる。

蓮がぽかんと口を開いてあたしを凝視していると気づき、だんだんと頬が熱くなった。

(は……はずかしい。でも、ちょっと意外な反応)

チラリチラリと蓮を見ていると、蓮が口元を右手隠して目をそらす。

うつむいて、反対の手のひらをじっと見つめた。

ふたたび視線がこちらに向けられたとき、左手があたしの頬に伸び、親指でそっと撫でた。

蓮はよく頬に触れ、輪郭をなぞって存在の確認をする。

無自覚に触れてくる蓮にドキドキする。

錯覚しそうなやさしい指の流れはずるいとより一層唇を固くした。
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