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<9>dreaming girl〜さようなら〜
<9>dreaming girl〜さようなら①〜
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***
車からおりると見上げるほどに高いマンションがあった。
青かった空も日が傾き、橙色とのグラデーションとなる。
美弥を追いかけたどり着いた部屋の前で深呼吸をする。
「私が付き合ってあげられるのはここまで。あとは自分でがんばって」
「ここまでありがと。あたし、がんばるよ」
クスッと美弥がやわらかい笑みを見せる。
去り際にあたしの肩を二度ポンポンと叩いて、あとくされなく去っていった。
扉を前にインターホンを鳴らそうと手を前に出す。
震える指先ではなかなか押すことが出来ず、ずいぶんと目を大きく開いてにらんでいた。
ついに押せる。そう意気込んだ時に、玄関扉が開いてついインターホンを連打してしまった。
気まずい気持ちのままに顔をあげると、目を見開いて肩を上下させる蓮がいた。
蓮の顔をみてついヘラヘラと笑ってしまう。
蓮は眉根をよせて、突き放す態度であたしを見下ろした。
「……何故、ここにきた」
ズキッと胸に痛みが走る。
今までで一番冷たく、鳥肌がたった。
蓮の拒絶を頭ではわかっていたくせに、直面すると怖気づく。
それでも今は、不格好でも意地を張りたかった。
強気はいつか本物の強さになる。それだけがあたしを鼓舞した。
「蓮に会いに来た。ちゃんと話したい」
「話すことはない。すぐに出てけ」
「絶対やだ。ちゃんと話が出来るまで出て行かない。……あたしから逃げないでよ」
強気も弱気も声に出る。
最初は勢いがあれど、最後は呟く程度だ。
すがるような目で蓮を見つめると、根負けした蓮がため息をつき、あたしを中に入れた。
リビングのソファーに腰かけ、蓮と向き合う。
いざ向き合うと話の切り口がわからない。
そんなにコミュニケーションは得意でないと、オロオロしそうだ。
何から話そうと頭の中で整理するも、なかなかまとまらずに手に汗を握る。
結局、大人の顔をして蓮があたしに声をかけた。
「なんで戻ってきた。ここに戻ってくることが、何を意味するのかわかってるのか?」
口を開くも声が出ない。
喉元に触れて、絞り出すように言葉を紡いだ。
「わかってる。ちゃんと、わかってるよ」
「だったら何故戻ってきた。俺はもう二度と、お前と関わる気はない」
はっきりと告げることで拒絶の意を強くした。
それは張り裂けるようにあたしを痛めつけたが、見たままを受け取ることもない。
蓮のやさしさはイジワルの向こう側にある。
近くでずっと見てきた。触れるたびに微笑みに恋をした。
呪うような目は苦しい気持ちのあらわれ。
それを含めて抱きしめたいのだから、この気持ちはどうしようもない。
これ以上あたしを傷つけないために解放したと、ちゃんとわかっている。
過去からの因縁を強制的に終えようとした。
終止符を打ったのに、あきらめの悪いあたしが狂いを生じさせる。
この行為は蓮に苦痛を与えるだけかもしれない。
……それでも会いたかった。
唾を飲み込み、蓮をまっすぐに見つめる。
「あたし、蓮が好き。それだけどうしても伝えたかった。ちゃんと、考えて、覚悟をもってここに来た」
息が詰まる。好意を告げるのはこうも重たいのかと心臓に負荷がかかる。
思えばまわりを嫌っていたのは自分からだ。
誰かのいいところに目を向けたことなんてない。
嫌悪は伝染して、あたしが嫌われるだけだった。
絶対にそらさないと口を結んで蓮を見つめる。
蓮がぽかんと口を開いてあたしを凝視していると気づき、だんだんと頬が熱くなった。
(は……はずかしい。でも、ちょっと意外な反応)
チラリチラリと蓮を見ていると、蓮が口元を右手隠して目をそらす。
うつむいて、反対の手のひらをじっと見つめた。
ふたたび視線がこちらに向けられたとき、左手があたしの頬に伸び、親指でそっと撫でた。
蓮はよく頬に触れ、輪郭をなぞって存在の確認をする。
無自覚に触れてくる蓮にドキドキする。
錯覚しそうなやさしい指の流れはずるいとより一層唇を固くした。
車からおりると見上げるほどに高いマンションがあった。
青かった空も日が傾き、橙色とのグラデーションとなる。
美弥を追いかけたどり着いた部屋の前で深呼吸をする。
「私が付き合ってあげられるのはここまで。あとは自分でがんばって」
「ここまでありがと。あたし、がんばるよ」
クスッと美弥がやわらかい笑みを見せる。
去り際にあたしの肩を二度ポンポンと叩いて、あとくされなく去っていった。
扉を前にインターホンを鳴らそうと手を前に出す。
震える指先ではなかなか押すことが出来ず、ずいぶんと目を大きく開いてにらんでいた。
ついに押せる。そう意気込んだ時に、玄関扉が開いてついインターホンを連打してしまった。
気まずい気持ちのままに顔をあげると、目を見開いて肩を上下させる蓮がいた。
蓮の顔をみてついヘラヘラと笑ってしまう。
蓮は眉根をよせて、突き放す態度であたしを見下ろした。
「……何故、ここにきた」
ズキッと胸に痛みが走る。
今までで一番冷たく、鳥肌がたった。
蓮の拒絶を頭ではわかっていたくせに、直面すると怖気づく。
それでも今は、不格好でも意地を張りたかった。
強気はいつか本物の強さになる。それだけがあたしを鼓舞した。
「蓮に会いに来た。ちゃんと話したい」
「話すことはない。すぐに出てけ」
「絶対やだ。ちゃんと話が出来るまで出て行かない。……あたしから逃げないでよ」
強気も弱気も声に出る。
最初は勢いがあれど、最後は呟く程度だ。
すがるような目で蓮を見つめると、根負けした蓮がため息をつき、あたしを中に入れた。
リビングのソファーに腰かけ、蓮と向き合う。
いざ向き合うと話の切り口がわからない。
そんなにコミュニケーションは得意でないと、オロオロしそうだ。
何から話そうと頭の中で整理するも、なかなかまとまらずに手に汗を握る。
結局、大人の顔をして蓮があたしに声をかけた。
「なんで戻ってきた。ここに戻ってくることが、何を意味するのかわかってるのか?」
口を開くも声が出ない。
喉元に触れて、絞り出すように言葉を紡いだ。
「わかってる。ちゃんと、わかってるよ」
「だったら何故戻ってきた。俺はもう二度と、お前と関わる気はない」
はっきりと告げることで拒絶の意を強くした。
それは張り裂けるようにあたしを痛めつけたが、見たままを受け取ることもない。
蓮のやさしさはイジワルの向こう側にある。
近くでずっと見てきた。触れるたびに微笑みに恋をした。
呪うような目は苦しい気持ちのあらわれ。
それを含めて抱きしめたいのだから、この気持ちはどうしようもない。
これ以上あたしを傷つけないために解放したと、ちゃんとわかっている。
過去からの因縁を強制的に終えようとした。
終止符を打ったのに、あきらめの悪いあたしが狂いを生じさせる。
この行為は蓮に苦痛を与えるだけかもしれない。
……それでも会いたかった。
唾を飲み込み、蓮をまっすぐに見つめる。
「あたし、蓮が好き。それだけどうしても伝えたかった。ちゃんと、考えて、覚悟をもってここに来た」
息が詰まる。好意を告げるのはこうも重たいのかと心臓に負荷がかかる。
思えばまわりを嫌っていたのは自分からだ。
誰かのいいところに目を向けたことなんてない。
嫌悪は伝染して、あたしが嫌われるだけだった。
絶対にそらさないと口を結んで蓮を見つめる。
蓮がぽかんと口を開いてあたしを凝視していると気づき、だんだんと頬が熱くなった。
(は……はずかしい。でも、ちょっと意外な反応)
チラリチラリと蓮を見ていると、蓮が口元を右手隠して目をそらす。
うつむいて、反対の手のひらをじっと見つめた。
ふたたび視線がこちらに向けられたとき、左手があたしの頬に伸び、親指でそっと撫でた。
蓮はよく頬に触れ、輪郭をなぞって存在の確認をする。
無自覚に触れてくる蓮にドキドキする。
錯覚しそうなやさしい指の流れはずるいとより一層唇を固くした。
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