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幕間章 勇者の弟子、アイレウスの葛藤

勇者の弟子、アイレウスの葛藤⑤

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覚悟を決めた瞬間に、衝撃と共にミドガルズオムズの顔が横に大きくぶれた。
自分の体は空中を投げ出されたはずだが、ゆっくりと地面に降ろされる。
体の近くに剣が落ちてきた。
あれは・・・あの攻撃は・・・。
自分の視線の先には、思いもよらない。
そして想像通りの姿があった。
忘れもしない、動かないと思っていた例のゴーレム『国崩し』だ。
まずい!ミドガルズオムズに加えて国崩し!
主の仇を討ちにきたか。
先生、もうすぐそちらに行くことになりそうです。
国崩しが、ミドガルズオムズと交戦を始めた。
なんと国崩しが巨大化した!
そこからは一方的だった。
あっさりとミドガルズオムズを無力さすると、そのまま握りつぶしてしまった。
先生のように。
自分達もそうなるのだろうか。
せめてみんなだけでも逃がせれば・・・無理か。

ところが、国崩しは攻撃を行うどころかこの場から去ろうとした。
自分たちは眼中にないのか。ふざけやがって!
な、メル!危険だ!近寄るな。
ありがとう?何を言っている・・・そいつは国崩しなんだぞ?
ああ、そうか。
メルは過去に国崩しに命を救われていたんだった。
奴隷商人により他国に売り飛ばされそうになっていたところで、あの国崩しの事件。
その後にゴートさんが保護した子供だった。
だが、メルに危害を加えさせるわけにはいかない。
自分が犠牲になってでもメルを救う!
横目でゴートさんを見た。
ゴートさんも頷いている。
しかし、当の国崩しが膝を折った。
これには驚いた。
こいつは一体何なんだ。
しかし、今がチャンスかもしれない。

自分は今この場でこのゴーレムを破壊しようと思った。

「こいつは壊せん、オレでダメなんだ。お前たちに出来るか?」

ゴートさんのこの言葉にオレはハッとした。
ゴートさんは自分の先生の先生でもある。
瞬間的な攻撃力だけでいえば、先生よりも上だ。
先生も認めていた。
ゴートさんの持つ『崩落の斧』はその名の通り、一振りで大地を破壊するほどの異常なまでの威力を持つ。
しかも恐ろしいことに、ゴートさんはこの斧でなくとも同等に近い威力を捻りだせるところだ。
『崩落の斧』はあくまでもゴートさん自身の魔力を補助する機能のみを持った頑丈なだけの斧だ。
つまり、攻撃力の大半がゴートさんの自力によるものということ。
今振り下ろした一撃は、過去に何度か見てきた桁外れな威力を一点に凝縮させたゴートさんの秘技『龍破』
鋼鉄をも優に超える強度を誇るマウンテンドラゴンの鱗を切り裂くことのできるゴートさんの一撃。
これを受けてなお国崩しの体は切れ込みが少し出来る程度のダメージしか受けていない。
確かに無理だ。
監視をするしかない、その通りだ。

「国崩し、お前は自分を覚えているのか」

八つ当たりだ。

「ならば、お前は先生を殺したのも覚えているんだな?」

ただの八つ当たりでしかない、自分にはこんな事しかできないのか。

「とても、とてもとても悲しい気持ちが伝わってくるにゃ。にゃんだかにゃけてくるにゃあ」

悲しいってなんだ?!国崩しが、ゴーレムが人の心を持っているとでもいうのか!

「・・・お前はこれからどうするつもりなんだ」

苦し紛れのセリフに、国崩しは『死を降らす山』を指さした。
こいつ、また王国に行くつもりか!
やはり放置することは出来ない!
国崩しは『赤い砂漠』を抜けていくつもりらしい。そちらに歩を進めだす。
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