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5年ぶりの約束を
蘇る記憶
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教室で倒れていた日からちょうど5年。
俺は地元の大学に通っていた。仲の良かった遼とは違う大学になってしまったが、今の大学が好きだし、遼ともよく会って一緒に酒を飲んでいる。寂しくはない。だが、あの日からよく妙な音がきこえるようになった。
ネックレスをみたり、倒れた日のことを思い出そうとしたりすると、カチャリと響く音。
不思議でなぜか悲しい音。誕生日によくきこえていた。きっと今年も。
カチャリ。
ほら、またなった。途端にあの日の喪失感が戻ってくる。いつも俺は翡翠色のネックレスを握りしめてやりすごす。
「おーい。遥斗君ー。」
サークルの先輩の声が聞こえる。そうだ。今日はサークルの買い出しに駆り出されているんだった。
「俺一応誕生日なのに…」
そう呟いて先輩の元に戻る。レジ袋をたくさんもっているのは立花 香織(たちばな かおり)先輩。サークルでよくお世話になっている。
「遅いぞ。遥斗君。」
「すいません。先輩。」
先輩はとても綺麗だ。前に告白もされた。でもなぜか付き合う気にはなれなかった。5年前のあの日から、時計がとまったように俺の心が動くことはなかった。いたかもわからない彼女がこれまで付き合った唯一の人ってことになる。
「さ、これ持って。全部ね。」
「全部ですか…。」
先輩の声で現実に引き戻された。先輩の近くにあるレジ袋をみると、相当な量だった。
「人を呼びましょうよ。」
「だめよ。すぐ戻らないと。」
そう言って自分は小さなレジ袋をふたつ持つと、すたすたと歩き始めた。
仕方が無いので、残りのレジ袋をもって先輩のあとを追う。すぐに追いつくと、先輩の隣をゆっくりと歩く。
…それにしてもこれ、重すぎる。
腕がビリビリ痺れた。後でお菓子を請求しなければやってられない。
カチャリ。
音がした。
いつもより大きな音だった。
「いたっ…!?」
不意に右手が熱くなった。
思わず立ち止まり、右手を確認するがなんともない。
「ちょっと大丈夫?」
先輩が気遣ったように俺の右手を触る。
だが、さっきの痛みが嘘のようになんともなかった。
「大丈夫です。急ぎましょう。」
先輩の手を押しのけて、レジ袋をもう一度掴む。その時、前方から人が来るのがみえた。
カチャリ。
その人は夏なのに黒い長袖シャツをきていた。白いネクタイ。黒い長ズボン。随分と仕立てが良さそうだった。
カチャリ。カチャリ。
俺たちの隣を通り過ぎる直前。
その人の持っていたカバンからラッピングされた箱が落ちた。だが、その人は気付かずに歩いて行く。
俺は箱を拾うと、その人に声をかけた。
「すいません。これ、落としましたよ。」
下を向いて歩いていたその人が、顔を上げて俺を見た。
ガチャッ。
「…っ」
すごく綺麗な人だった。止まったままだった心が幼い子供のように高鳴った。
「…いや、それはいいんだ。」
思ったよりも少し低い声だった。不思議と懐かしいと感じた。
「お誕生日おめでとう。」
一瞬なにをいわれたかわからなかった。
呆然としたままその人をみつめる。
その人は俺の後ろにいる立花先輩をチラリと見つめて、困ったような優しい顔で笑った。
「幸せになってね。はる。」
俺の頭を優しく撫でると、その人はすぐ近くに止めてあった黒い車に乗り込んだ。
カチャリ。カチャリ。
嫌な音がする。右手が熱い。
今のは、いまのは…。いまは。いま。いや、今日は…。今日は約束の…。
「なんだったのあの人?おーい?大丈夫?」
渡しそびれた箱のリボンをほどき、なかをみる。
それはオルゴールだった。優しい音が響く。
『オルゴールは次の誕生日にプレゼントするよ。』
誰かの声が響く。違う。誰かじゃない。これは。いまのは。あの人はっ…
「かなっ!!」
俺は走った。車に追いつけるはずがない。わかってる。でも走らずにはいられなかった。
「ちょっ、遥斗君!?」
後ろで先輩の焦り声が聞こえる。だがもうどうでもいい。俺はただ黒い車の発進した方向へ走った。
愛する人にこの気持ちを伝えるために。
俺は地元の大学に通っていた。仲の良かった遼とは違う大学になってしまったが、今の大学が好きだし、遼ともよく会って一緒に酒を飲んでいる。寂しくはない。だが、あの日からよく妙な音がきこえるようになった。
ネックレスをみたり、倒れた日のことを思い出そうとしたりすると、カチャリと響く音。
不思議でなぜか悲しい音。誕生日によくきこえていた。きっと今年も。
カチャリ。
ほら、またなった。途端にあの日の喪失感が戻ってくる。いつも俺は翡翠色のネックレスを握りしめてやりすごす。
「おーい。遥斗君ー。」
サークルの先輩の声が聞こえる。そうだ。今日はサークルの買い出しに駆り出されているんだった。
「俺一応誕生日なのに…」
そう呟いて先輩の元に戻る。レジ袋をたくさんもっているのは立花 香織(たちばな かおり)先輩。サークルでよくお世話になっている。
「遅いぞ。遥斗君。」
「すいません。先輩。」
先輩はとても綺麗だ。前に告白もされた。でもなぜか付き合う気にはなれなかった。5年前のあの日から、時計がとまったように俺の心が動くことはなかった。いたかもわからない彼女がこれまで付き合った唯一の人ってことになる。
「さ、これ持って。全部ね。」
「全部ですか…。」
先輩の声で現実に引き戻された。先輩の近くにあるレジ袋をみると、相当な量だった。
「人を呼びましょうよ。」
「だめよ。すぐ戻らないと。」
そう言って自分は小さなレジ袋をふたつ持つと、すたすたと歩き始めた。
仕方が無いので、残りのレジ袋をもって先輩のあとを追う。すぐに追いつくと、先輩の隣をゆっくりと歩く。
…それにしてもこれ、重すぎる。
腕がビリビリ痺れた。後でお菓子を請求しなければやってられない。
カチャリ。
音がした。
いつもより大きな音だった。
「いたっ…!?」
不意に右手が熱くなった。
思わず立ち止まり、右手を確認するがなんともない。
「ちょっと大丈夫?」
先輩が気遣ったように俺の右手を触る。
だが、さっきの痛みが嘘のようになんともなかった。
「大丈夫です。急ぎましょう。」
先輩の手を押しのけて、レジ袋をもう一度掴む。その時、前方から人が来るのがみえた。
カチャリ。
その人は夏なのに黒い長袖シャツをきていた。白いネクタイ。黒い長ズボン。随分と仕立てが良さそうだった。
カチャリ。カチャリ。
俺たちの隣を通り過ぎる直前。
その人の持っていたカバンからラッピングされた箱が落ちた。だが、その人は気付かずに歩いて行く。
俺は箱を拾うと、その人に声をかけた。
「すいません。これ、落としましたよ。」
下を向いて歩いていたその人が、顔を上げて俺を見た。
ガチャッ。
「…っ」
すごく綺麗な人だった。止まったままだった心が幼い子供のように高鳴った。
「…いや、それはいいんだ。」
思ったよりも少し低い声だった。不思議と懐かしいと感じた。
「お誕生日おめでとう。」
一瞬なにをいわれたかわからなかった。
呆然としたままその人をみつめる。
その人は俺の後ろにいる立花先輩をチラリと見つめて、困ったような優しい顔で笑った。
「幸せになってね。はる。」
俺の頭を優しく撫でると、その人はすぐ近くに止めてあった黒い車に乗り込んだ。
カチャリ。カチャリ。
嫌な音がする。右手が熱い。
今のは、いまのは…。いまは。いま。いや、今日は…。今日は約束の…。
「なんだったのあの人?おーい?大丈夫?」
渡しそびれた箱のリボンをほどき、なかをみる。
それはオルゴールだった。優しい音が響く。
『オルゴールは次の誕生日にプレゼントするよ。』
誰かの声が響く。違う。誰かじゃない。これは。いまのは。あの人はっ…
「かなっ!!」
俺は走った。車に追いつけるはずがない。わかってる。でも走らずにはいられなかった。
「ちょっ、遥斗君!?」
後ろで先輩の焦り声が聞こえる。だがもうどうでもいい。俺はただ黒い車の発進した方向へ走った。
愛する人にこの気持ちを伝えるために。
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