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第1章

入学

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桜が満開に咲き、これからの出会いを人々にワクワクさせるようなそんな春。
俺こと、結城司は周囲の建物に気圧されただその場に立っていた。

「しかし、広いな」

あたりには整然と超大型の施設が立ち並んでおり、この土地だけで巨大テーマパークの一つや二つくらい作れてしまうのではないかというほどの広い。

そうここは地図が地図としての役割を果たさないほどに入り組んでいる、とんでも学院なのだ。
もちろんここは、普通の高校ではない。

桜陵学院
将来、最前線で戦う生徒を育成することを目的に国が作った5年制の完全なる戦闘兵養成機関。

入学費から授業料まで完全に無料。在学中は生徒たちに寮生活が義務付けられるが、それにかかる食費から何からも全て無料、武器の使用許可等々。他の養成機関に比べ、破格の待遇が用意されている。

大半は才能を持ったものが飛躍的に成長するとされる第二次成長期の15歳前後の男女で構成されているため、ほとんど高校と思ってくれて構わない。
そんないわばエリート校の入学条件はたった一つ。それは……

"戦闘やそれに準ずるものにおいて何か一つでも突出した才能や実力を持っているということ。”

ここはよく言えば天才、悪く言えば変人が集まる場所と言えるだろう。
今日からこの学院の新入生として、通うことになる。

俺が歩いていると目の前に女の子がベンチに腰掛けていた。

偶然にも出会ってしまったその女の子はある意味普通じゃなかった。

少女はベンチに座りこちらに見向きもせず、集中して本を読んでいた。校章を見ると自分と同じ赤色、つまり同学年だ。
艶やかな銀色の髪は肩まで伸びており、華奢、顔立ちは凛としている。

万人が振り向くであろうその可憐な姿は、こちらの目を釘付けにししばらく目を離すことができないほどだった。

「えっ……?」

少女は目を丸くしそのままじーっとこちらを見つめている。

「まさか……違います。そんな奇跡は起こるはずないんです。」

「……あのどうかしたの?」

「どうかしたのも何も、どれだけ心配したと————」

少女は何に気づいたのか、血相が豹変した。

「っ———!」
少女は俯きながらそのままどこかへ全力疾走で走っていく。

目の前で起きたことに圧倒された俺は、追いかけることすら出来ずそのまま呆然と立ち尽くしていた。


「おーい、司くーん!」
聞き慣れた声の方に振り向くと、そこにいたのは義妹、結城刹那(ゆうき せつな)だった。

茶色い髪がすらーっと長く伸びておりその優しい性格と綺麗な声もあり、男子ウケがいいタイプだ。

生まれた月の関係上義妹ということにはなっているが、その面倒見の良さから、よく姉に勘違いされるし、実際それは認めざるを得ないと思っている。

「ああ、おはよう。刹那」

「勝手にどっか行っちゃって。寮前で待ち合わせだったでしょ?」 

「ごめんごめん、すっかり忘れてた」

「さっき女の子と話してたみたいだけど、何かあったの?」

「うっ、な、なんでもない」

「怪しい………まあいっか、それより今は早く行こう!初日に遅刻なんて洒落にならないからね」

「もうそんな時間か」

その時、
「……えっ?」

刹那はふと足を止めた。その顔は何かに取り憑かれたかのように青ざめ
「どうしたの刹那?」
「い、いやなんでもない」
「本当?相当顔色が悪いけど、帰って休んだ方がいいんじゃない?」
「ううん、いいの気にしないで!本当に大丈夫だから、それより早く行かないと!」
もともと体調を崩しやすい刹那には入学式前からずっと無理はしないように言ってきたし、本人もそれは重々承知の上らしいから、これ以上言うのも機嫌を損ねてしまいかねない。

「そう?それならいいけど」

こうして俺たちは本校舎へと向かい、各々の教室に入っていく。

どうやら刹那も同じクラスらしく、一緒に同じクラスに入った。
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