御曹司は不遇な彼女に本物の愛を注ぐ

星空永遠

文字の大きさ
2 / 9

二話

しおりを挟む
 私は橋の上で立ち止まった。ここから飛び降りれば死ねる? ううん。死ぬならもっと高い所じゃなきゃ……。例えばそう、ビルとかね。あのビルとか良さそう。

『もう二度と家には戻りません。さようなら』

 公孝にメッセージを送り、私はスマホの電源を切った。そして、ビルの屋上。私は靴を脱ぎ、飛び降りる準備をしていた。

 これでやっと自由になれる。
 自由……? 自ら命を絶つことが自由だというのなら私の行く先は地獄ね。良い行いをすれば天国に行くのなら、私は今まで誰かを助けたことはないから天国には行けそうにない。

 彼に給料を渡していたのは彼を助けたことになるのかな? なんて、ね。
 私も誰かに助けられたいな。無理だよね。私みたいな何も無い人間は。取り柄なんかない。顔だって普通。仕事だって要領がいいほうではない。

 ほら。やっぱり私は悪い子。次、生まれ変わったら普通の人生が送りたい。愛されなくてもいいから、普通の家庭に生まれて、普通に学校に通って、普通に社会人をして。

 あぁ、一度でいいから、そんな妄想を現実にしてみたいな……。

「早まるな!」
「!?」

 飛び降りる直前、グイッと腕を引っ張られた。そのまま私は知らない人の胸の中にすっぽりと入った。

「馬鹿な真似はやめるんだ」
「っ……」

 なんて綺麗な人なんだろう。サラサラな黒髪にアーモンド色の瞳。誰が見てもイケメンと言ってしまうほど顔面偏差値が高く、背は百八十センチはある。

 スーツ越しからでもわかる筋肉質な身体。スーツはシワひとつない。腕には高級そうな時計がつけられていた。生活に困っていなさそう。私とは真逆の世界で生きている人だと察した。

「どうして飛び降りようとしたんだ? それと怪我はないか」
「大丈夫、です。すみません。迷惑でしたよね」

 バクバクと口から心臓が出そうなほど鼓動のスピードが早い。どんな状況でも死ぬのはやっぱり怖いんだ。

 それにしても名前もわからない私を助けるなんて、お人好しな人だな。こういう男性はきっと誰にでも優しいんだろう。私だけじゃなくてもいい。ただ優しくされたことに涙が止まらなかった。

「!? お、おい」
「なんでもないんです。気にしないでください」

 彼氏も昔は優しかった。私が泣いたら頭を撫でて慰めてくれた。そんな彼も今では変わってしまった。けれど、好きと言ってくれたことは一度たりともなかった。

「飛び降りようとしてたってことは、よっぽど辛いことがあったんだな」
「……っ」

 そういって頭を撫でてくれた男性。

「俺で良ければ話を聞かせてくれないか? っと、名前を言ってなかったな。俺は神宮寺隼人(じんぐうじ はやと)、よろしくな」
「私は露川紫音(つゆかわ しおん)です。よろしくお願い、します」

 手を差し出されて緊張からたどたどしい挨拶になってしまった。相手からの好意を拒絶するのは態度悪いよね?
 私は神宮寺さんを受け入れるように手を握った。それよりも神宮寺隼人……どこかで聞いた名前だ。

 それから私は自殺しそうになるまでの経緯を神宮寺さんに話した。
 両親から虐待を受けていたこと。学校でイジメられていたこと。社会人になってからは変なウワサを流され、会社でも居場所がないこと。彼氏がヒモになり私を暴力で支配してること。

 そして身体には過去の古傷がいくつも残っているということ。私は包み隠さず、全てを話した。神宮寺さんとは会ったばかりなはずなのに、どうしてだろう? こんなにも嘘偽りなく話せてしまうのは。

 今まで誰かに過去の話をすれば引かれてしまうんじゃないかという不安から誰にも言わず、自分の秘密にしてきたのに。それもこれも相談相手がいなかったから話す機会がなかったというのもあるのだが。

「そりゃあ屋上から飛び降りたくもなるわな」
「ちょっ……」

 ワシャワシャと髪を撫でられ、さっきとは打って変わって乱雑な手つき。お互い年齢は知らないはずなのに神宮寺さんは私にタメ口だし。よく言えばフレンドリー。悪く言えば雑な人だ。

「露川。これもなにかの縁だし、俺のとこに住まないか?」
「……え?」

 聞き間違いだろうか。神宮寺さんの家に住む?
出会ったばかりの男性宅に? いくら神宮寺さんが二度見するほどイケメンだからって、そんなの急すぎる。

「部屋は余ってるから俺と寝なくていい。ただ食事だけは一緒にしようぜ。恥ずかしい話、三十三にもなって独身なんだよ」
「は、はぁ……」

 えらくフラットに誘ってくるんだなぁ。神宮寺さんほどのイケメンなら合コンや婚活パーティーに行けばすぐにでも結婚出来そうな見た目をしてるのに。

 三十三歳、か。私よりも三歳も年上だ。社会人になってから三歳差なんてもはや誤差のようなものだけど。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染に10年片想いしてたら、冷酷御曹司にプロポーズされました

ほーみ
恋愛
 春の匂いが、駅前の並木道をくすぐる。満開の桜の下、私はひとり歩いていた。駅までの道は、高校時代、彼とよく歩いた道だ。  制服姿の学生が笑いながらすれ違っていくのを横目に、私はスマホを見下ろした。  「今日、伝えるって決めたんじゃなかったの?」  送信したきり返信のないメッセージ。画面には「既読」の文字があるだけだった。  ――渡瀬 湊。私が10年間片想いをしている、幼馴染。

ハイスペックでヤバい同期

衣更月
恋愛
イケメン御曹司が子会社に入社してきた。

【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました

雨宮羽那
恋愛
 結婚して5年。リディアは悩んでいた。  夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。  ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。  どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。  そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。  すると、あら不思議。  いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。 「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」 (誰ですかあなた) ◇◇◇◇ ※全3話。 ※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜ ※AI不使用です。

あなたと恋に落ちるまで~御曹司は、一途に私に恋をする~

けいこ
恋愛
カフェも併設されたオシャレなパン屋で働く私は、大好きなパンに囲まれて幸せな日々を送っていた。 ただ… トラウマを抱え、恋愛が上手く出来ない私。 誰かを好きになりたいのに傷つくのが怖いって言う恋愛こじらせ女子。 いや…もう女子と言える年齢ではない。 キラキラドキドキした恋愛はしたい… 結婚もしなきゃいけないと…思ってはいる25歳。 最近、パン屋に来てくれるようになったスーツ姿のイケメン過ぎる男性。 彼が百貨店などを幅広く経営する榊グループの社長で御曹司とわかり、店のみんなが騒ぎ出して… そんな人が、 『「杏」のパンを、時々会社に配達してもらいたい』 だなんて、私を指名してくれて… そして… スーパーで買ったイチゴを落としてしまったバカな私を、必死に走って追いかけ、届けてくれた20歳の可愛い系イケメン君には、 『今度、一緒にテーマパーク行って下さい。この…メロンパンと塩パンとカフェオレのお礼したいから』 って、誘われた… いったい私に何が起こっているの? パン屋に出入りする同年齢の爽やかイケメン、パン屋の明るい美人店長、バイトの可愛い女の子… たくさんの個性溢れる人々に関わる中で、私の平凡過ぎる毎日が変わっていくのがわかる。 誰かを思いっきり好きになって… 甘えてみても…いいですか? ※after story別作品で公開中(同じタイトル)

年上女は年下上司に愛される。

國樹田 樹
恋愛
「先輩! 年上の女性を落とすにはどうしたらいいですか!?」と切羽詰った様子で迫ってきたのは後輩、沢渡 啓志。 「あーやっぱ頼りがいのある男とかに弱いんじゃない?」と軽ーく返した私に、彼は元気に返事して。――いつの間にか、先を越されていた。 あれ……あいついつの間に私の上司になった? とかそんな話。

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛

ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。 そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う これが桂木廉也との出会いである。 廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。 みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。 以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。 二人の恋の行方は……

清貧秘書はガラスの靴をぶん投げる

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「お前、頬を叩いた詫びに婚約者になれ」 上司で社長の彪夏と秘書の清子はお似合いのふたりだと社内でも評判。 御曹司でイケメンの彪夏は女子の憧れの的。 清子はどこぞのご令嬢と噂され、男女問わず視線を集めていた。 ……しかし。 清子には誰もが知らない、秘密があったのです――。 それは。 大家族のド貧乏! 上は高校生、下は生まれたばかりの五人弟妹。 おっとりして頼りにならない義母。 そして父は常に行方不明。 そんな家族を支えるべく、奮闘している清子ですが。 とうとう、彪夏に貧乏がバレたまではよかったけれど。 子持ちと間違われてついひっぱたいてしまい、償いに婚約者のフリをする羽目に。 しかも貧乏バラすと言われたら断れない。 どうなる、清子!? 河守清子 かわもりさやこ 25歳 LCCチェリーエアライン 社長付秘書 清楚なお嬢様風な見た目 会社でもそんな感じで振る舞っている 努力家で頑張り屋 自分がしっかりしないといけないと常に気を張っている 甘えベタ × 御子神彪夏 みこがみひゅうが 33歳 LCCチェリーエアライン 社長 日本二大航空会社桜花航空社長の息子 軽くパーマをかけた掻き上げビジネスショート 黒メタルツーポイント眼鏡 細身のイケメン 物腰が柔らかく好青年 実際は俺様 気に入った人間はとにかくかまい倒す 清子はいつまで、貧乏を隠し通せるのか!? ※河守家※ 父 祥平 放浪の画家。ほぼ家にいない 母 真由 のんびり屋 長男 健太(高一・16歳)服作りが趣味 次男 巧(高一・15歳)弁護士になるのが目標 三男 真(小五・10歳)サッカー少年 四男 望(保育園年中・5歳)飛行機大好き 次女 美妃(保育園児・五ヶ月)未知数

処理中です...