殺し屋JD、時給1,000万円 厄災ハントする

第一章

初仕事

「じゃあ、こちらの店舗の実際の時給は1,300円で、諸々は実費負担ということなんですね、あと、他店舗はサービス内容が違って時給が5,000円と仰ってましたが、どんな内容なんですか？情報サイトには簡単な接客としか書いてなかったですけど？」

「あ、あれはC職限定の募集なんで、B職、A職は面接に来てからの説明。色々事情があるのよ、わかるでしょ？」

「そうですか…じゃあ掲載内容は嘘ですよね？」

前回だと、この次オールバックがキレて「身体売らずに5,000円も貰えるか！！馬鹿かお前ぇー！！」って怒鳴られたから０.1秒で殺すシュミレーションしてから殺さないように机を叩き潰した。

《殺しは駄目》掟縛りの為に、咄嗟の出来事でも殺すシュミレーションしてから妥協案に移るのが常になっていたから、はなから殺すとなれば容易い。

骨髄、神経、頸椎、頸動脈、筋膜、筋肉、脂肪、皮…

オールバックが机に手を付いた瞬間に迫り出してくる頭蓋骨から頸までの構造を加味して、一番容易く息の根を止める方法が導き出される。

左顎先から右耳へ、直線軌道で掌底を当て、7つある頚椎の2番目の継ぎ目を軸にして、ギュルっと回転させる。

顔面が裏向きになれば、頚動脈が捻りあげられて、柔道で締め落とされる様な状況だから死因は窒息死だけれど、同時に首から下の神経は断絶されているからジタバタともしない。

前回粉微塵になった天板の上に、首から上だけ仰向けのオールバックがグニャリと突っ伏する。

高校の同級生だった石山さんは滅茶苦茶に霊感が強くって、実家でポルターガイスト出まくり過ぎて祈祷師に見てもらったら、玄関から勝手口に向かって霊が渋滞していたらしく、そんな環境先行型の霊感が石山家には備わっていて、中でもお爺ちゃんは石山さんに比しても尚強烈だったそうだ。

ちょっと宙に浮いたり、狐に憑かれたり、我身でポルターガイストを体現してらっしゃったとの事。

お爺ちゃんの日常は、霊に引き合わされたか何だか昼夜が逆転していて、石山さんが物心付いた頃には既に昼に起きてるところは見た事が無かったそう。

ある日石山さんが帰宅すると、霊じゃなくて祈祷師さんが玄関まで溢れていて、お爺ちゃんの寝室で大祈祷大会みたいなのが開かれていたそうです。

お母さんが、夕方になっても起きてこないお爺ちゃんを見に行くと、高鼾をかきながら、顔が仰向け、身体がうつ伏せで、普通死んでるのに生きていて、一昼夜の祈祷の末に、ムクっと起き上がり、首をくるりと戻し、何事もなかった様に次の朝まで寝て、その日以来昼夜逆転が終わったとの事。

このエピソードを、不測の事態としてシュミレーションに加味していたから、殺った後グニャリとなったオールバックの様子を暫く見ていたけれど、屍人は二度と立ち上がることは無く、殺しに於いて石山家ルールが早々適用されない事を身をもって体験できた事が一番の感慨で、初めての殺しに対するそれは、あまりに想定通りに事が運び過ぎ、感じる事はありませんでした。