あなたは前に出ないでっていってるでしょう⁉

かきくけこ

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不自然な反旗

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3匹に乗りながら本国を目指す『吹き溜まり』であったが、思うような行軍ができなかった。既に戦闘が各所で始まっており、ゴーダ―はそれから隠れ避けることを優先したためである。
 隊では賛成と不満が半々に分かれていて、彼へ巨人を使って強引に突破すべしと具申する者が後を絶たずそのたびにうんざりしながら説明せざるを得なかった。
「俺の『集いの輝(アミガ)』はそんなに強くない」
 ロトシーでは『超能力』をそう総称している。
 発現者が稀で、多くは絶大な力を持っている。その成り立ちからして、『集いの輝』のおかげで国家樹立と守護を成し遂げたのであるが、遺伝的素因が強く、権力者たちの大半を『天臨』が占める事態を招いてもいた。
 20隊でそれを持つのは首脳部にいる3人のみで、他軍と比べて突出して少ない。
さらにゴーダ―は、実は『集いの輝』を持っておらず、冷遇の一因はそこにあるのではと噂されることもあった。
 善き隊長であるから慕っていた隊員らは、彼がそうした恥辱に甘んじるのを良しとせずに、この機に周囲を見返して欲しいと思っていたのだ。
 情報は自身の専門と、ハールーイが彼から聞き出そうとしている。サイレは良い顔をしなかった。
「名前は? なんで隠していたんですか?」
「『蝉』がウーキ、『カブトムシ』はクシー、『ザリガニ』はスッチ。
3体合わせて『甲殻羽邪神・トリントルング』……。自由に出し入れ出来ないからだ」
「召喚したものを融合する……教本によると『融帝』サイボンに似てますね……ありがとう」
 ハールーイは記録し、答えを待ちかねている隊員らへ喋りに行った。勤勉で知識欲に溢れているが、詳細まで探る気遣いが足りていないのが彼の欠点である。
 知識を披露し称賛を得たいのであって、それを用いた行動もとれない。
サイレが心配そうな顔で、ハールーイと入れ違いに彼の傍に座る。
「大丈夫ですか?」
「慎重に行けば心配はいらない、焦りは禁物……」
「酔うのも平気?」
「……言われたら気になってきたじゃないか」
「あ、ご、ごめんなさい」
 ゴーダ―は見る見る青ざめ、やむを得ず横になり彼女の膝を借りた。
 他の隊が飛ばした巨鳥が叩き落される光景が何度か見られ、飛行を避けて地面を這っているせいで振動がより強く彼を苛んでいたのだった。
 判断力が落ちている隙を狙い、ナンイとフウが押しかけ好戦をけしかけてくる。
「やっちまおうぜ『大将』」
「学生でも兵士は兵士よ? 戦闘は忌避されるものじゃないわ」
「俺とお前たち、サイレしか『集いの輝』がないのに危険だ……
ハールーイ、敵国に能力使いが少ないわけじゃないだろ?」
 呼ばれてハールーイは喜び勇んで飛んで来、解説を始める。
「もちろんです、絶対数では我が国を上回っているという数字がでているのです」
「けどもう2回も撃退したぜ」
「そ、それは教本だと……えっと……でも数で負けてますから……」
「いけるって、なあ?」
「『大将』、このままだと敵前逃亡に問われる危険もあるのでは?」
「ハールーイ、教本には?」
 直前のうろたえが嘘のように、ハールーイは目を輝かせて教本をめくった。
「はい! 軍学生が実戦闘に遭遇した場合、可能な限り撤退を選び本国軍部への帰還とその指示を得よとあります! また、その以前に他隊他軍と合流せよとも」
「そういうことだフウ、教本に書いてあるんだから仕方ない。まして俺たちは他隊に合流する余裕もない……うえっ」
 サイレが優しくゴーダ―の背をさすってやる。
 フウは不服らしく籠手をこすり合わせ、声にやや意地の悪いものを混ぜた。
「果たして今の軍部……『大将』のご両親がそれを許すかしら?」
 ゴーダ―は顔をしかめた。
「……処罰されても、責任者で指揮官は俺だ。お前らは……」
 無事とは言い切れない。ロトシーの現状は彼にもわかるほど末期的であるし、ことに相手が『吹き溜まり』では。
 不安と酔いでゴーダ―の顔は蒼白を越えた青に染まりつつある。
 が、さらなる凶報がもたらされた。
 不意に、3匹と同じように、隊員全てに等しく語り掛ける言葉が注いできた。『集いの輝』によるものだ。
「諸君、私は第9軍統括マイルズ・リン・タイクンである」
 隊員たちにざわめきが広がり、ナンイが忌々し気に顔を歪めた。
「単刀直入に言おう。私はここに反乱を宣言する」
 ハールーイがきゃっ、と声をあげてひっくり返りそうになったのをタイトンが支えてやる。小柄な種族は不安がって、タイトンの傍に集まっていた。
「第10、第11軍も参加している。今回の奇襲を察知できず、また未だ声明を発しない本国軍部、政府の無能には耐えがたいものがある。我が軍学校の同胞よ、集いて外敵を打ち破ろう。そして無能なる者どもを追放し真のロトシーの姿を取り戻そう。賛同者は歓迎する次第である、賛同できぬ者も、まずは敵国を倒すという我らの本懐のために協力を願う次第である」
 そこで声は途絶えた。
 隊員たちは人間至上主義者の9軍に合流することを不安視する声と、とはいえ集まれば生き残れるのではという意見が半々に起こっていた。
 首脳部はゴーダ―の決定を待った、能力的にも組織的にも心情的にも、彼の決断に従うのが最善と信じている。
 ゴーダ―は青い顔を手で覆い思案しつつ、違和感を感じ取ってもいた。主席のマイルズが決定したにしては機を逸している気がする、第3勢力となるよりも敵国を廃して後に決起した方が良いのではないか。
 今のままだと敵兵と本国で挟撃の危険がある、何より人間至上主義者が反乱を起こしては、軍学校の半数を占める他種族の指示を得られまい。
10軍、11軍共に9軍に近しいとされている。民族主義が高まっている時勢でも、人間種が結束するかどうか。
 否に思考が傾きつつあったゴーダ―だが、ウーキが蝉特有の騒音をまき散らし始めて中断を余儀なくされた。
「前方から接近してくる奴がいるぜ」
「て、敵兵か……?」
「いやあ、汝と同じ服装でっす」
「じゃあ仲間ったな」
 スッチの推測通りに、現れたのは友軍であった。
 ハーレーイが目をこらす。
「第17軍3隊ですね」
「合流しに来たのか?」
 ナンイの予想は外れていた。
 第17軍3隊は統率を失って四方八方に広がって逃走の最中にあったのだ、当然その要因は敵国の攻撃にあり、彼ら共々20隊に雪崩れ込んできていた。
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