あなたは前に出ないでっていってるでしょう⁉

かきくけこ

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組み込まれた『吹き溜まり』

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 ゴーダ―は青白い顔で嘆息しつつ、手をかざして3匹を再び操った。
「合体だ」
「俺が主役ったな」
 3匹が変形し、身体の大きささえ変えて組み合わさる。スッチが頭部と鋏、ウーキが身体と羽、クシーが尾と足を担当し、巨人ではなく形だけならスッチのザリガニの姿に近くなった。
「『甲殻獣帝・ライヘルキウン』‼」
 3隊と敵兵が驚きの声をあげ、隊員たちはやんややんやと喝采を挙げてサイレとタイトンが見かねて後方に避難誘導を行っていた。
 学生と兵士の練度の差か、敵兵は動揺を抑え込むと追撃を再開した。ところが、獣帝『ライヘルキウン』の傍まで接近するとそれ以上の前進ができなくなる。見えない壁、というよりも『流れ』が存在するように捌かれ、矢や『集いの輝』も周囲に『受け流され』てしまっていた。
 その中にいる3隊、20隊隊員たちに危害を加えることができなくなる。
 『ライヘルキウン』は3匹が重なった、くぐもった声で大笑した。
「我が流水幕(ルーラート)ニ、ソンナ豆鉄砲はキカナイ」
「解説しないでいい」
「オット、ついナ」
 ゴーダ―に叱られ肩のつもりか鋏を挙げ、獣帝は口ふんを開き青い輝きを発したかと思うと、水流にも似た熱線を放ち一帯を薙ぎ払った。
 敵兵たちは成すすべもなく蒸発し、熱で大地が渇きひび割れて木々が急速に枯れ出した。
 ナンイとフウは興奮しきり、隊員たちもゴーダ―を讃える。彼さえいれば、どんな敵も怖くない。
 一方当人は渋い面だった、またも『集いの輝』を使ってしまったこと、3隊に目撃されてしまったことが痛手であった。敵兵と異なり、彼らは口止めに殺害するわけにはいかなかった。

 場所を移し、獣帝を分離させてから、3隊との合議が行われることとなった。
 ゴーダ―はサイレとハールーイを呼んで、17軍3隊の情報を求めた。
 彼女らによれば、成績は全体の中の上であり隊長は人間の青年ケッケ、副官は土小人の女性アイー。隊の特色たる者はなく、特に勇名を馳せている軍学生も存在しない。有力者の子弟も属していないという。
「地味な隊です」
「わたしたちが偉そうに言える?」
 珍しく毒を吐いて見せたハールーイをサイレがたしなめる。
 ゴーダ―はそのやり取りに心癒された、自身を含め能力的にも精神的にも落伍者と蔑まれても仕方ない隊員ばかりだが、卑しくはなかった。現に3隊と合流しても彼の『集いの輝』を傘に着ることなく仲間として接している。
 むしろ、3隊の方こそ『お山の大将』が見せた絶技に委縮しているように見えた。
 
 合議はそれぞれ隊長と副官のみの出席であった。本来は隔離されて行うものであるが、この状況ではそうもいかずやや離れた場所に設けて対応するしかない。
 当然、ナンイやフウ、3隊隊員が隠れて盗み聞きしようとする。これは互いに有事の際は実力行使に出るぞと言う警告も兼ねていた。
 ケッケは角ばった顔以外には、これといって特徴のない男だった。侵略と反乱には流石に動揺しているが、隊長たる威厳と冷静さを失ってはいない。
 副官のアイーは反対にどしりと構えていた。タイトンほどでないががっしりした体つきで、種族特有の白い肌が瑞々しく張りつめている。縮れた赤毛を時折撫でつけながら、真っすぐにゴーダ―を見ていた。
 先に言葉を切ったのはゴーダ―である。
 サイレは立場上、3隊の2人は彼の戦果に気圧されていたため、必然的に自分で切欠を作らねばならなかった、
「俺たち20隊は、本国本部へ戻るつもりだ」
「……9軍とは合流しないと?」
「ああ」
「なら一緒だわ、このまま帰還するのがいい。でも、戻ってからの安全は大丈夫なの?」
 隊員と同じ危惧をアイーは抱いているらしかった。状況が状況なだけに、本部の判断が読めない。
 ゴーダ―は頷き返し、条件の受諾を要求する。
「報告の一切は俺に任せてもらう。それが受け入れられるなら保証はできる」
彼女は少しだけ悩む素振りを見せてから、頷き要求を呑んだ。聞いてはみたものの、元より選択肢は他にない。それでも言質を取れば、隊員らの不安も抑え込めると踏んだのだった。
「権限が等しいと混乱するわ、そっちに指揮もお願いしたい」
 この提案に、ケッケは少しだけ悔しそうな顔をした。合意の上だし保全の意味もあるが、『吹き溜まり』の下に付くのは抵抗があった。
 サイレは抗議をこめて咳ばらいをすると、立ち上がって手を叩きナンイら隠れている隊員に合図する。
「はい、そういうことです。皆に知らせてください」
 彼らはこそこそと、あるいは堂々と散っていった。
 ゴーダーが立ち上がり、3隊員をどう運ぶかを思案したところで再び『集いの輝』による告知が響いた。
「軍学校指導教官のザイカンである、諸君らにも状況があろうから単刀直入に告げる。本国首脳はこの度の侵略と軍学校9、10、11軍の反乱に対して断固たる処断を下すことを決定した。すでに本軍が諸君らへ向かっている、遭遇せし場合は大人しく投降しその後は本軍の指揮に従い軍事行動をとるように、従わぬ場合は反乱分子と見なす。挙げた3軍隊員であっても、抵抗せねば酌量の措置の用意はある。以上」
 ざわめきが一斉に広がった。本軍の投入はありがたいが、従っての軍行動と言うのが実戦を行えということに他ならない。つまり、彼らも戦力として組み込まれているのだ。
 ゴーダーは益々青ざめ、サイレが慌ててその逞しい脚を枕の代わりにして労った。
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