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7話 命令を出した人物
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お父様がおっしゃった不自然さを確認すべく、また書類の確認をしています。
指示書類を探していると……ありました、ハンスへの命令書です。
命令は間違いなくハンス当てに出されており、期限は三ヶ月。
一体誰がこんな命令を出したのでしょう、命令の発出者は……王都の土地開発をしている公爵ですね。
命令の出し方としては問題はありませんが、一番問題なのは、発出者の名前が黒塗りで消され、その上段に公爵の名前が書かれている事です。
本来ならばこの書類は不許可となるはずですが、恐らくそんな事は関係なしに命令を出せる人物の名前が書かれていたのでしょう。
書類を太陽にかざしてみますが、黒塗りの場所には何も見えませんでした。
そんな事が出来る人物なんて、そうそう居るはずがありません。
幸いこの公爵とは面識があるので、書類整理時に見つけた書類の確認と称して聞いてみましょう。
「お忙しい所、時間を割いていただき感謝いたします公爵」
「い、いや構わんよ。それで、わざわざ何の用かね?」
午後からは自室にいるという事で、早速連絡を入れて公爵邸へとお邪魔しました。
いつもは自信いっぱいの公爵ですが、今日はその丸い顔からは不安がにじみ出ています。
「本日書類整理をしていましたら、このような書類が見つかりました。本来なら発出者の名前を訂正する場合は本人の訂正サインが必要となりますので、再提出をされるか、訂正のサインをお願いしたいのです」
発出者の名前が黒塗りにされている書類を机の上に置き、名前の欄を指差します。
すると公爵は
「そんな物は必要ない。君は黙って処理しておけばいいんだよ」
と言って書類を突っぱねました。
「今は旅行中ですが、配達して訂正サインをしてもらい、送り返してもらう、という手も使えますよ?」
「はん、フランツ王太子が適当に書いた書類に付いて、何かをする事など無いさ。せいぜいちり紙として使っておしまいさ」
「へぇ、この書類はフランツ王太子が書かれたのですか?」
「ああそう……あ!!」
上手く引っ掛かってくれましたね。
そうですか、やはりフランツ王太子が書いていたのですね。
書類を適当に書いても通さざるを得ない人物なんて、最低限でも公爵からでしょう。
その公爵が名前を隠そうとする人物なんて王族、しかも最近まで王都にいた王族と言えばフランツ王太子しかいません。
はぁ、あの王太子は何を考えているんでしょうか。
まさか国王陛下がフランツ王太子に留守を任せた理由、理解できていませんか?
「それではもう一つだけ教えてください。なぜハンスにばかり、こんな仕事を任せるのでしょうか」
「し、しらん! 俺は何も知らない!」
「そうですか、残念です。それではもう一枚の書類なのですが、こちらの金額と実際の品物の数が大幅に合わないのですが、そちらは会計長に 付箋を付けて提出しておきますね」
「そ、その書類は! ま、まて、待ってくれ! フランツ王太子の指示だ! 王太子が君とハンスを合わせないように、面倒な仕事を全てハンスに回したんだ!」
ああ、やはりそうでしたか。
薄々感じてはいましたが、信じたくはありませんでした。
仮にも元婚約者が、私の幸せを踏みにじる事をするなんて、一国の王太子が、意味のない命令を出すなんて。
「でも、なぜハンスの事がバレたのでしょうか」
「え? だって君、あちこちで言っていたそうじゃないか。幼なじみのハンスに片思いをしていて、婚約破棄されたからハンスに告白するって」
……あ。
そういえば私、秘密ですよ? とか言いながら、結構な人数に話ていました。
まさかそれがこんな事になるなんて思いもしませんでした。
「私がハンスに告白したところで、フラれるのは目に見えているんですが……。なぜそこまで妨害をするのでしょう」
「妨害はするだろう、ハンスを諦めさせるために。それに君が居なくなってから王宮での仕事は滞っているし、旅行に行ったら君が仕事を終わらせてくれるとか言っていた。ハンスの元にやるわけにはいかないからな」
「なぜ私が仕事を終わらせるのですか?」
「いや、そうおっしゃっていたが?」
「……」
「……」
どういう事でしょうか、全く意味が分かりません。
公爵の反応も同じで、私が聞いていない事だと知って困惑しています。
「頼まれたのでは……ないのかね?」
「初耳です」
公爵がよろけてイスに座りました。
ああ、この方も王太子達の犠牲者でしたか。
「す、済まないが、命令が出ている以上私にはどうする事も出来ない……」
「いえ、心中お察しします。一つ確認ですが、私を王都から出すなと、命令は出ていますか?」
「いや、それは出ていないはずだ。ああ、行くのかね?」
「はい。これ以上は付き合いきれませんので」
「そうか。すまなかったな、これからは少なくとも私からは何もしない、命令されてもはぐらかそう」
「ありがとうございます。では書類は見なかった事にします……が、ほどほどに願います」
「う、うむ」
公爵邸をでて、私は急いで旅支度を始めます。
ハンス、いま会いに行きます!
指示書類を探していると……ありました、ハンスへの命令書です。
命令は間違いなくハンス当てに出されており、期限は三ヶ月。
一体誰がこんな命令を出したのでしょう、命令の発出者は……王都の土地開発をしている公爵ですね。
命令の出し方としては問題はありませんが、一番問題なのは、発出者の名前が黒塗りで消され、その上段に公爵の名前が書かれている事です。
本来ならばこの書類は不許可となるはずですが、恐らくそんな事は関係なしに命令を出せる人物の名前が書かれていたのでしょう。
書類を太陽にかざしてみますが、黒塗りの場所には何も見えませんでした。
そんな事が出来る人物なんて、そうそう居るはずがありません。
幸いこの公爵とは面識があるので、書類整理時に見つけた書類の確認と称して聞いてみましょう。
「お忙しい所、時間を割いていただき感謝いたします公爵」
「い、いや構わんよ。それで、わざわざ何の用かね?」
午後からは自室にいるという事で、早速連絡を入れて公爵邸へとお邪魔しました。
いつもは自信いっぱいの公爵ですが、今日はその丸い顔からは不安がにじみ出ています。
「本日書類整理をしていましたら、このような書類が見つかりました。本来なら発出者の名前を訂正する場合は本人の訂正サインが必要となりますので、再提出をされるか、訂正のサインをお願いしたいのです」
発出者の名前が黒塗りにされている書類を机の上に置き、名前の欄を指差します。
すると公爵は
「そんな物は必要ない。君は黙って処理しておけばいいんだよ」
と言って書類を突っぱねました。
「今は旅行中ですが、配達して訂正サインをしてもらい、送り返してもらう、という手も使えますよ?」
「はん、フランツ王太子が適当に書いた書類に付いて、何かをする事など無いさ。せいぜいちり紙として使っておしまいさ」
「へぇ、この書類はフランツ王太子が書かれたのですか?」
「ああそう……あ!!」
上手く引っ掛かってくれましたね。
そうですか、やはりフランツ王太子が書いていたのですね。
書類を適当に書いても通さざるを得ない人物なんて、最低限でも公爵からでしょう。
その公爵が名前を隠そうとする人物なんて王族、しかも最近まで王都にいた王族と言えばフランツ王太子しかいません。
はぁ、あの王太子は何を考えているんでしょうか。
まさか国王陛下がフランツ王太子に留守を任せた理由、理解できていませんか?
「それではもう一つだけ教えてください。なぜハンスにばかり、こんな仕事を任せるのでしょうか」
「し、しらん! 俺は何も知らない!」
「そうですか、残念です。それではもう一枚の書類なのですが、こちらの金額と実際の品物の数が大幅に合わないのですが、そちらは会計長に 付箋を付けて提出しておきますね」
「そ、その書類は! ま、まて、待ってくれ! フランツ王太子の指示だ! 王太子が君とハンスを合わせないように、面倒な仕事を全てハンスに回したんだ!」
ああ、やはりそうでしたか。
薄々感じてはいましたが、信じたくはありませんでした。
仮にも元婚約者が、私の幸せを踏みにじる事をするなんて、一国の王太子が、意味のない命令を出すなんて。
「でも、なぜハンスの事がバレたのでしょうか」
「え? だって君、あちこちで言っていたそうじゃないか。幼なじみのハンスに片思いをしていて、婚約破棄されたからハンスに告白するって」
……あ。
そういえば私、秘密ですよ? とか言いながら、結構な人数に話ていました。
まさかそれがこんな事になるなんて思いもしませんでした。
「私がハンスに告白したところで、フラれるのは目に見えているんですが……。なぜそこまで妨害をするのでしょう」
「妨害はするだろう、ハンスを諦めさせるために。それに君が居なくなってから王宮での仕事は滞っているし、旅行に行ったら君が仕事を終わらせてくれるとか言っていた。ハンスの元にやるわけにはいかないからな」
「なぜ私が仕事を終わらせるのですか?」
「いや、そうおっしゃっていたが?」
「……」
「……」
どういう事でしょうか、全く意味が分かりません。
公爵の反応も同じで、私が聞いていない事だと知って困惑しています。
「頼まれたのでは……ないのかね?」
「初耳です」
公爵がよろけてイスに座りました。
ああ、この方も王太子達の犠牲者でしたか。
「す、済まないが、命令が出ている以上私にはどうする事も出来ない……」
「いえ、心中お察しします。一つ確認ですが、私を王都から出すなと、命令は出ていますか?」
「いや、それは出ていないはずだ。ああ、行くのかね?」
「はい。これ以上は付き合いきれませんので」
「そうか。すまなかったな、これからは少なくとも私からは何もしない、命令されてもはぐらかそう」
「ありがとうございます。では書類は見なかった事にします……が、ほどほどに願います」
「う、うむ」
公爵邸をでて、私は急いで旅支度を始めます。
ハンス、いま会いに行きます!
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