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16話 なぜか談笑中
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やっとシュミット辺境伯の元へ到着し、私は屋敷へと訪れました。
遠い道のりでした、でも道中の町の様子を見ていると、以前よりは随分と生活が安定していましたから、それを確認できただけでも良かったというモノです。
シュミット辺境伯の屋敷はまるで砦の様な作りをしていますね、今は何もないとはいえ、他国と隣接しているので防衛の要なのでしょう。
さて、陛下の手紙を門番に渡し、玄関前まで案内されます。
しばらく待っていると大柄な男性と少女が出てきました。
体格のいい男性は鎧こそまとっていませんが、いつでも鎧を装備できるようにスネを帯で絞ったズボンと体に密着したシャツ、それにガウンを羽織っています。
少女は青っぽいドレスを纏っていますが、豊かな胸を強調し、ウエストをきつく絞られたスタイルの良い人専用の物です。
何より短いながらもシルバーブロンドヘアーがまぶしいです。
さて、私も馬車を降りてご挨拶をしましょう。
「初めましてシュミット辺境伯。私はシオン・H・スロープ。スロープ伯爵家の娘です」
軽く頭を下げてスカートをつまみます。
「よく来てくれたシオン嬢。ワシはライナー・ヴァン・シュミット辺境伯だ。これはワシの娘だ」
「初めましてシオン様、ナタリーと申します。遠路はるばるようこそおいで下さいました」
シュミット辺境伯のウワサは聞いていたけど、ウワサ以上に体格のいい人ですね。
全身が筋肉で出来ているみたいです。
それにナタリー嬢、ウワサにたがわぬ美しさだわ。
この人が私のライバル……いえ、ライバルなんておこがましいわね、勝負になっていないわ。
「挨拶も程々で申し訳ありませんが、ハンス……リーベルス子爵家のハンス様にお会いしたいのですが、お取次ぎをお願いできますか?」
おや? 辺境伯は少し困った顔でアゴを掻いていますね、それにナタリー嬢……どうして睨むんですか?
ひょっとしてすでに婚姻関係にあるから他の女性に会わせたくないけど、陛下の頼みだから仕方なく会わせてあげる、という事ですか?
「それだがなシオン嬢、ハンスは今ここには居ないんだ」
「いない? 国境警備という事は国境沿いの監視塔に行っているのでしょうか?」
「そうだ。だから――」
「では監視塔の場所を教えてくだされば、馬車で向かいます」
「え? いやその~」
「シオン様! 私、シオン様とお話がしたいです!」
ナタリー様が私の両手を握り、とても息巻いて見つめて……睨んで? います。
いえ違うのですナタリー様、私はあなたの邪魔をするのではなく、諦めるためにここに来たのですから。
「ナタリー様、私はいち早くハンスに――」
「おお! そういえば新しいお菓子が手に入ってな、シオン嬢も是非どうだ? 長旅で疲れただろうからゆっくり休むといい」
「え? いえ私は」
「さあシオン様! こちらでございますわ」
なぜか強引に屋敷内に案内されました。
シュミット辺境伯に肩を掴まれては、私の抵抗など無意味です。
理由は分かりませんが、お世話になるのですから言う事を聞いておきましょう。
客室に案内され、メイドが荷物を置いて行きます。
ウチのメイドが整理を始めましたが、おや? この部屋は随分と色々な物が揃っていますね、まるで長期滞在をするような広いクローゼットや本棚、替えのドレスまで用意されています。
? 私は一泊で帰るつもりなのですが、ひょっとして何泊かするのでしょうか。
ドアがノックされたので、どうぞ、と言って招き入れます。
「シオン様、お茶の用意が出来ましたので、リビングルームにて旦那様がお待ちです」
「はっはっは! その時のナタリーは勝ったつもりでいた様だが、実は木剣がとうの昔に腹に当てられていてな」
「お、お父様、その様な昔の事は言わないでください」
「ナタリー様は剣がお得意なのですね」
……なぜ私は談笑しているのでしょうか。
しかもナタリー様の武勇伝(?)を。
「シオン様は剣術はされるのですか?」
「いえ、私は体を動かすのが苦手なので、もっぱら守ってもらう側です」
「そうなのですか? その……ハンス様は、昔からお強かったのでしょうか」
「最初の頃はそうでもありませんでした」
「え?」
「偶然、本当に偶然ですが、私の木剣がハンスの頭に当たったのです。それが悔しかったのか、剣術の訓練を真面目に始めたのです」
――シオンは僕が守るんだ!
ああ、そういえばあの時でしたね、懐かしい思い出です。
「ほほぅ、ハンスはその時の悔しさをバネに努力をしたのだな」
「ええ、運動の苦手な私に負けたのが余程悔しかったのでしょう」
その後もハンスの話がちょくちょく出てくるのですが、その都度ナタリー様に睨まれます。
ご、ご心配なく、決して邪魔をしようという訳ではありませんから!
遠い道のりでした、でも道中の町の様子を見ていると、以前よりは随分と生活が安定していましたから、それを確認できただけでも良かったというモノです。
シュミット辺境伯の屋敷はまるで砦の様な作りをしていますね、今は何もないとはいえ、他国と隣接しているので防衛の要なのでしょう。
さて、陛下の手紙を門番に渡し、玄関前まで案内されます。
しばらく待っていると大柄な男性と少女が出てきました。
体格のいい男性は鎧こそまとっていませんが、いつでも鎧を装備できるようにスネを帯で絞ったズボンと体に密着したシャツ、それにガウンを羽織っています。
少女は青っぽいドレスを纏っていますが、豊かな胸を強調し、ウエストをきつく絞られたスタイルの良い人専用の物です。
何より短いながらもシルバーブロンドヘアーがまぶしいです。
さて、私も馬車を降りてご挨拶をしましょう。
「初めましてシュミット辺境伯。私はシオン・H・スロープ。スロープ伯爵家の娘です」
軽く頭を下げてスカートをつまみます。
「よく来てくれたシオン嬢。ワシはライナー・ヴァン・シュミット辺境伯だ。これはワシの娘だ」
「初めましてシオン様、ナタリーと申します。遠路はるばるようこそおいで下さいました」
シュミット辺境伯のウワサは聞いていたけど、ウワサ以上に体格のいい人ですね。
全身が筋肉で出来ているみたいです。
それにナタリー嬢、ウワサにたがわぬ美しさだわ。
この人が私のライバル……いえ、ライバルなんておこがましいわね、勝負になっていないわ。
「挨拶も程々で申し訳ありませんが、ハンス……リーベルス子爵家のハンス様にお会いしたいのですが、お取次ぎをお願いできますか?」
おや? 辺境伯は少し困った顔でアゴを掻いていますね、それにナタリー嬢……どうして睨むんですか?
ひょっとしてすでに婚姻関係にあるから他の女性に会わせたくないけど、陛下の頼みだから仕方なく会わせてあげる、という事ですか?
「それだがなシオン嬢、ハンスは今ここには居ないんだ」
「いない? 国境警備という事は国境沿いの監視塔に行っているのでしょうか?」
「そうだ。だから――」
「では監視塔の場所を教えてくだされば、馬車で向かいます」
「え? いやその~」
「シオン様! 私、シオン様とお話がしたいです!」
ナタリー様が私の両手を握り、とても息巻いて見つめて……睨んで? います。
いえ違うのですナタリー様、私はあなたの邪魔をするのではなく、諦めるためにここに来たのですから。
「ナタリー様、私はいち早くハンスに――」
「おお! そういえば新しいお菓子が手に入ってな、シオン嬢も是非どうだ? 長旅で疲れただろうからゆっくり休むといい」
「え? いえ私は」
「さあシオン様! こちらでございますわ」
なぜか強引に屋敷内に案内されました。
シュミット辺境伯に肩を掴まれては、私の抵抗など無意味です。
理由は分かりませんが、お世話になるのですから言う事を聞いておきましょう。
客室に案内され、メイドが荷物を置いて行きます。
ウチのメイドが整理を始めましたが、おや? この部屋は随分と色々な物が揃っていますね、まるで長期滞在をするような広いクローゼットや本棚、替えのドレスまで用意されています。
? 私は一泊で帰るつもりなのですが、ひょっとして何泊かするのでしょうか。
ドアがノックされたので、どうぞ、と言って招き入れます。
「シオン様、お茶の用意が出来ましたので、リビングルームにて旦那様がお待ちです」
「はっはっは! その時のナタリーは勝ったつもりでいた様だが、実は木剣がとうの昔に腹に当てられていてな」
「お、お父様、その様な昔の事は言わないでください」
「ナタリー様は剣がお得意なのですね」
……なぜ私は談笑しているのでしょうか。
しかもナタリー様の武勇伝(?)を。
「シオン様は剣術はされるのですか?」
「いえ、私は体を動かすのが苦手なので、もっぱら守ってもらう側です」
「そうなのですか? その……ハンス様は、昔からお強かったのでしょうか」
「最初の頃はそうでもありませんでした」
「え?」
「偶然、本当に偶然ですが、私の木剣がハンスの頭に当たったのです。それが悔しかったのか、剣術の訓練を真面目に始めたのです」
――シオンは僕が守るんだ!
ああ、そういえばあの時でしたね、懐かしい思い出です。
「ほほぅ、ハンスはその時の悔しさをバネに努力をしたのだな」
「ええ、運動の苦手な私に負けたのが余程悔しかったのでしょう」
その後もハンスの話がちょくちょく出てくるのですが、その都度ナタリー様に睨まれます。
ご、ご心配なく、決して邪魔をしようという訳ではありませんから!
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