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3話

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「すまないアシュリー、君との婚約は破棄させて欲しい」

 学園に行くと、私の婚約者エリックからそんな言葉を聞かされた。
 昨日妹のジャネットとバラ園で会っていたけれど、まさか嫌な予感が本当になるとは思っていなかった。
 それも最悪な形で。

「エリック、私、あなたに嫌われるような事をしたかしら……?」

「いいや、君は悪くない! 悪いのは僕なんだ! あろうことか僕は、君の妹であるジャネットに恋をしてしまったんだ!」

 ああ、また妹か……。
 いつもこうだ、私が手にした物は、全て妹が奪っていく。
 子供の頃もそうだった、お気に入りの服を、当たり前のように妹が奪っていった。

「お姉ちゃんのお洋服かわいいね、私の方が似合うと思うの」

 そう言って両親も味方に付け、私が大事にしていた物を奪っていく。
 エリックは公爵令息で、私には勿体ない程の人だった。
 さわやかな笑顔、私の話を静かにうなずいて聞いてくれて、決して相手を否定しなかった。

 時々話が理解できてない時もあったけど、そんな物は些細な事だ。

「エリック、私達の婚約は家同士で決められた事。私達だけで済む話ではないのよ?」

「分かっているさ! だから君の両親にはすでに話をしてあるし、今から君の両親とで僕の親を説得に行くところさ!」

 お父様にもお母様にも既に話が行っていたのね……私の両親ならエリックとの仲を認めても不思議はない。
 ああ、こんなにも早く私の幸せが崩れてしまうのね。
 学園内も、すでに癒しの場ではなくなっていくんだわ。

 そこまで話が進んでいたら、すでに私にできる事は無い。
 きっとエリックの親であるマイヤー公爵も、妹との結婚に賛成するだろう。

「そうなのね……でもこれだけは言わせて? 私は家同士が決めた婚約でも、エリック、あなたの事を愛していたわ」

「ああ分かっていたよ。だからこれからは僕の事は、義理の弟として愛してくれ! そして僕は義理の姉として君を愛せばこれまで通りだ!」

 ……ん? なんだろう、この微妙に話がズレている感覚は。
 確かに義理の姉弟として愛するのは分かるけど、何かが違うわ。

 この日の私は珍しく、いいえ、初めて授業がうわの空になった。
 もちろん学園で婚約破棄されたんだから、学園中のウワサになっているし、それを知ってか友人や先生たちもあまり触れないでくれている。

 ああ私、思った以上に落ち込んでいるんだわ。

「よ、よぅ。その~なんだ。振られたんだって?」

 ……この人は相変わらずね。
 バート様はいつも通りに私をからかいに来た。
 でも流石に少しだけ、気を使ってるのかしら。

「ええ、見事にフラれてしまいました。親同士の決め事とはいえ、悲しいものですね」

「チッ! あの野郎、こんないい女を振りやがってバカか」

「え? なんですか? 小さくて聞えませんでしたが」

「何でもない! ちょっとこっちこい! 今日は暇だからな、お前も暇だろう? ちょっと付き合えよ」
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