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31話

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 花に成長の祈りを捧げたら、一瞬で花が咲いて枯れてしまった。
 このお花、キレイで好きだったのに……。

「聖女様、祈りの力は強弱の制御はできますか?」

「強弱ですか? ん~、もう一回やってみます」

 もう一度、芽が出たばかりの植木鉢を持ってきて、テーブルの上に置いて祈りを捧げた。
 今度は少しだけ成長して欲しい、的な事を考えながら祈ってみよう。
 私の体からだいだい色の光が発せられ、芽が少し大きくなった。

「わ! 今度は枯れないで止まった!」

「なるほど、強弱は可能のようですね。では治癒や祝福にも強弱はあったのでしょうか?」

「そういえば……密偵さんを送り出した時、力いっぱい祝福をしましたけど、効果があったんでしょうか?」

「力いっぱい? なるほど、それで異様に早く情報が手に入ったのでしょう。セルジュも驚いていましたが、あれほどあっさり欲しい情報が手に入る事など、滅多にありませんから」

 そ、そうだったんだ。力一杯の祝福は、かなりの効果を発揮してたんだ。

「それじゃあ、もう一回成長の祈りを試しますか?」

「いえ、成長はもういいでしょう。ツバルアンナの薬に効果があるとは思えませんので」

 そうだった、目的を間違える所だった。聖女の力でツバルアンナの薬を解毒できないか、それが目的だった。

「じゃあ次はどれにしましょうか」

「後は破壊・支配・威圧ですね。正直どれも危険そうなので加減をお願いします」

「はーい。少しだけ! ってしますね」

「お願いします。では威圧を使いましょう」

 威圧……威圧……ちょっとだけ……威圧……。
 祈りの間は欠かさず少しだけ、と思いながらその場で威圧を使ってみた。
 私自身はやる事に変わりが無いし、他の人が見たら何の祈りか分からないんだろうな。

 私の体が紫色の光を放つ。
 するとアルバート神官長が椅子から立ち上がり、何故かひざまずいた。

「? あの、アルバート神官長? 突然どうしたんで……!?」

 テーブルが邪魔で見えないから、立ち上がってアルバート神官長を見ると、神官長は顔を青くして震えていた。

「ど、どうしたんですか!? 気分が悪いんですか!?」

「い、いえ……突然……アトリア聖女様が恐ろしくなってしまって……」

 床に汗が垂れ落ちている。
 えっと、威圧? 威圧の祈りのせいなの?
 中止! 威圧の祈り中止ーーーー!!!

「だ、大丈夫です! もう祈りは止めてますから、膝をつくのをやめてください!」

 アルバート神官長の肩に手をかけて、何とか立ってもらおうと力を入れるけど……ん~ムリ! いくら神官長が細身でも、身長差でムリ!

「ご心配を、おかけ、しました。もう、大丈夫、です」

 ゆっくりと立ち上がるアルバート神官長は、それでも足が震えていた。
 これは封印! ダメダメ! 二度と使わないから!
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