54 / 60
54話
しおりを挟む
視点変更:メジェンヌ国の神殿前
「陛下、短い間でしたがお世話になりました。メジェンヌでの務めは終わりましたので、ヴァルプールへと戻り、本来の職務を遂行しようと思います。それでは」
そう言ってアトリアは馬車に乗り込み、振り返る事無く去っていく。
それを呆然と見送るしかないメジェンヌ国王とセルジャック王太子、アルバート神官長、ロナウド副団長。
聖女はどの国にも所属しない。
アトリアは聖女として開花したのはメジェンヌだが、どの国に滞在することも可能で、その制限はない。
本来のアトリアは、メジェンヌが好きだから滞在していただけだ。
それが薬を使われたとはいえ、自分で去って行ったのだ、止める事は出来ない。
「騒がしいな、何があった」
「おおレオン化学技術庁長官か。それが、アトリアがヴァルプールへ帰ってしまったのだ」
「なに? まだ聖女の力を解明していないのに、いま帰られたら困るな」
セルジャック王太子の答えに不穏な受け答えをするレオン。
相変わらず研究の虫で、今日も研究室に籠っていたのだが、あまりにもうるさいため様子を見に来たのだ。
「今の聖女様は正気とは思えん。全員謁見の間に集まってくれ」
メジェンヌ国王の命令で、貴族も含めたメンバーが招集された。
「まずは状況を再確認する」
急遽集められたにも拘わらず、ほとんどの者が揃っている。
今居ないのは国にいない者だけ、それほどの緊急事態なのだ。
セルジャック王太子から説明があり、アルバート神官長とロナウド副団長が補足説明をする。
その結果得られたものは、ハロルドがアトリア聖女にツバルアンナの薬を使用した、という事だ。
全て燃やし尽くしたはずだったが、まさか被害者が所持しているとは思わなかったようだ。
「しかし、そうか、ハロルド王太子がなぁ。ワシが感じておったアトリア聖女様への愛情は、どうやら執着心だったようだ」
「執着心? 愛しているからこその感情でしょうか」
「セルジュも気を付けねばなぁ。お前もアトリア聖女様にご執心だからな」
「な! 私はアトリアの感情を操ろうなどとは考えません!」
「それが普通じゃ。それが行き過ぎたから執着しておる、と言ったのじゃ」
普通ならば諦めなくてはいけない事を、ハロルドは諦めきれなかったのだ。
その感情がツバルアンナの薬を使う、といった最悪の行動に出てしまった。
「あのバカ聖女が操られているという事は、自分では操られている自覚がないようだな。であれば聖女の力で浄化をする事は不可能。それに気づかせられる方法となると……私の出番だな」
「レオン化学技術庁長官、何か手があるのか?」
「ええ陛下。以前もらった手土産があります。それを改良しましてね……フフフフ」
とても楽しそうな顔の、いや不敵と言った方が良いか、そんな表情で謁見の間を1人で出て行った。
「相変わらずレオン化学技術庁長官は我が道を行っていますね」
「それだけの能力がある方です。我が国民、いや他国民も、あの方には頭が上がりません」
アルバート神官長とロナウド副団長が後姿を眺めながら呟く。
自国ならず他国でも頭が上がらない……レオンの作った薬は優秀で、副作用のない特効薬を数多く作り出し、研究の成果は世界に轟いている、と言ってもいい。
そんなレオンから2日待て、と連絡が入り、本日2日目、セルジャック王太子、アルバート神官長、ロナウド副団長に小瓶を渡した。
「それを愚か者の聖女に飲ませろ。最低でもこちらの意見に耳を傾けるはずだ」
「これは以前渡した解毒剤か? しかし色が違うような……?」
そう言って瓶のフタを開け、匂いを嗅いでしまったセルジャック王太子。
白目をむいて、意識を失いかけてしまった。
「こ、こここ、この匂いは何だ!?!?」
「クックックック、聖女の調査が終わる前に立ち去った罰だ。あいつの顔面にでも叩きつけてやれ。一滴でも口に入ればそれでいい」
セルジャック王太子が気を失いかけた薬を顔面に……しかも3瓶も……効果はバツグンなのだろう。
「陛下、短い間でしたがお世話になりました。メジェンヌでの務めは終わりましたので、ヴァルプールへと戻り、本来の職務を遂行しようと思います。それでは」
そう言ってアトリアは馬車に乗り込み、振り返る事無く去っていく。
それを呆然と見送るしかないメジェンヌ国王とセルジャック王太子、アルバート神官長、ロナウド副団長。
聖女はどの国にも所属しない。
アトリアは聖女として開花したのはメジェンヌだが、どの国に滞在することも可能で、その制限はない。
本来のアトリアは、メジェンヌが好きだから滞在していただけだ。
それが薬を使われたとはいえ、自分で去って行ったのだ、止める事は出来ない。
「騒がしいな、何があった」
「おおレオン化学技術庁長官か。それが、アトリアがヴァルプールへ帰ってしまったのだ」
「なに? まだ聖女の力を解明していないのに、いま帰られたら困るな」
セルジャック王太子の答えに不穏な受け答えをするレオン。
相変わらず研究の虫で、今日も研究室に籠っていたのだが、あまりにもうるさいため様子を見に来たのだ。
「今の聖女様は正気とは思えん。全員謁見の間に集まってくれ」
メジェンヌ国王の命令で、貴族も含めたメンバーが招集された。
「まずは状況を再確認する」
急遽集められたにも拘わらず、ほとんどの者が揃っている。
今居ないのは国にいない者だけ、それほどの緊急事態なのだ。
セルジャック王太子から説明があり、アルバート神官長とロナウド副団長が補足説明をする。
その結果得られたものは、ハロルドがアトリア聖女にツバルアンナの薬を使用した、という事だ。
全て燃やし尽くしたはずだったが、まさか被害者が所持しているとは思わなかったようだ。
「しかし、そうか、ハロルド王太子がなぁ。ワシが感じておったアトリア聖女様への愛情は、どうやら執着心だったようだ」
「執着心? 愛しているからこその感情でしょうか」
「セルジュも気を付けねばなぁ。お前もアトリア聖女様にご執心だからな」
「な! 私はアトリアの感情を操ろうなどとは考えません!」
「それが普通じゃ。それが行き過ぎたから執着しておる、と言ったのじゃ」
普通ならば諦めなくてはいけない事を、ハロルドは諦めきれなかったのだ。
その感情がツバルアンナの薬を使う、といった最悪の行動に出てしまった。
「あのバカ聖女が操られているという事は、自分では操られている自覚がないようだな。であれば聖女の力で浄化をする事は不可能。それに気づかせられる方法となると……私の出番だな」
「レオン化学技術庁長官、何か手があるのか?」
「ええ陛下。以前もらった手土産があります。それを改良しましてね……フフフフ」
とても楽しそうな顔の、いや不敵と言った方が良いか、そんな表情で謁見の間を1人で出て行った。
「相変わらずレオン化学技術庁長官は我が道を行っていますね」
「それだけの能力がある方です。我が国民、いや他国民も、あの方には頭が上がりません」
アルバート神官長とロナウド副団長が後姿を眺めながら呟く。
自国ならず他国でも頭が上がらない……レオンの作った薬は優秀で、副作用のない特効薬を数多く作り出し、研究の成果は世界に轟いている、と言ってもいい。
そんなレオンから2日待て、と連絡が入り、本日2日目、セルジャック王太子、アルバート神官長、ロナウド副団長に小瓶を渡した。
「それを愚か者の聖女に飲ませろ。最低でもこちらの意見に耳を傾けるはずだ」
「これは以前渡した解毒剤か? しかし色が違うような……?」
そう言って瓶のフタを開け、匂いを嗅いでしまったセルジャック王太子。
白目をむいて、意識を失いかけてしまった。
「こ、こここ、この匂いは何だ!?!?」
「クックックック、聖女の調査が終わる前に立ち去った罰だ。あいつの顔面にでも叩きつけてやれ。一滴でも口に入ればそれでいい」
セルジャック王太子が気を失いかけた薬を顔面に……しかも3瓶も……効果はバツグンなのだろう。
6
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された氷の令嬢 ~偽りの聖女を暴き、炎の公爵エクウスに溺愛される~
ふわふわ
恋愛
侯爵令嬢アイシス・ヴァレンティンは、王太子レグナムの婚約者として厳しい妃教育に耐えてきた。しかし、王宮パーティーで突然婚約破棄を宣告される。理由は、レグナムの幼馴染で「聖女」と称されるエマが「アイシスにいじめられた」という濡れ衣。実際はすべてエマの策略だった。
絶望の底で、アイシスは前世の記憶を思い出す――この世界は乙女ゲームで、自分は「悪役令嬢」として破滅する運命だった。覚醒した氷魔法の力と前世知識を武器に、辺境のフロスト領へ追放されたアイシスは、自立の道を選ぶ。そこで出会ったのは、冷徹で「炎の公爵」と恐れられるエクウス・ドラゴン。彼はアイシスの魔法に興味を持ち、政略結婚を提案するが、実は一目惚れで彼女を溺愛し始める。
アイシスは氷魔法で領地を繁栄させ、騎士ルークスと魔導師セナの忠誠を得ながら、逆ハーレム的な甘い日常を過ごす。一方、王都ではエマの偽聖女の力が暴かれ、レグナムは後悔の涙を流す。最終決戦で、アイシスとエクウスの「氷炎魔法」が王国軍を撃破。偽りの聖女は転落し、王国は変わる。
**氷の令嬢は、炎の公爵に溺愛され、運命を逆転させる**。
婚約破棄の屈辱から始まる、爽快ザマアと胸キュン溺愛の物語。
【完結】追放された大聖女は黒狼王子の『運命の番』だったようです
星名柚花
恋愛
聖女アンジェリカは平民ながら聖王国の王妃候補に選ばれた。
しかし他の王妃候補の妨害工作に遭い、冤罪で国外追放されてしまう。
契約精霊と共に向かった亜人の国で、過去に自分を助けてくれたシャノンと再会を果たすアンジェリカ。
亜人は人間に迫害されているためアンジェリカを快く思わない者もいたが、アンジェリカは少しずつ彼らの心を開いていく。
たとえ問題が起きても解決します!
だって私、四大精霊を従える大聖女なので!
気づけばアンジェリカは亜人たちに愛され始める。
そしてアンジェリカはシャノンの『運命の番』であることが発覚し――?
婚約破棄されましたが、おかげで聖女になりました
瀬崎由美
恋愛
「アイラ・ロックウェル、君との婚約は無かったことにしよう」そう婚約者のセドリックから言い放たれたのは、通っていた学園の卒業パーティー。婚約破棄の理由には身に覚えはなかったけれど、世間体を気にした両親からはほとぼりが冷めるまでの聖地巡礼——世界樹の参拝を言い渡され……。仕方なく朝夕の参拝を真面目に行っていたら、落ちてきた世界樹の実に頭を直撃。気を失って目が覚めた時、私は神官達に囲まれ、横たえていた胸の上には実から生まれたという聖獣が乗っかっていた。どうやら私は聖獣に見初められた聖女らしい。
そして、その場に偶然居合わせていた第三王子から求婚される。問題児だという噂の第三王子、パトリック。聖女と婚約すれば神殿からの後ろ盾が得られると明け透けに語る王子に、私は逆に清々しさを覚えた。
虐げられた聖女は精霊王国で溺愛される~追放されたら、剣聖と大魔導師がついてきた~
星名柚花
恋愛
聖女となって三年、リーリエは人々のために必死で頑張ってきた。
しかし、力の使い過ぎで《聖紋》を失うなり、用済みとばかりに婚約破棄され、国外追放を言い渡されてしまう。
これで私の人生も終わり…かと思いきや。
「ちょっと待った!!」
剣聖(剣の達人)と大魔導師(魔法の達人)が声を上げた。
え、二人とも国を捨ててついてきてくれるんですか?
国防の要である二人がいなくなったら大変だろうけれど、まあそんなこと追放される身としては知ったことではないわけで。
虐げられた日々はもう終わり!
私は二人と精霊たちとハッピーライフを目指します!
『龍の生け贄婚』令嬢、夫に溺愛されながら、自分を捨てた家族にざまぁします
卯月八花
恋愛
公爵令嬢ルディーナは、親戚に家を乗っ取られ虐げられていた。
ある日、妹に魔物を統べる龍の皇帝グラルシオから結婚が申し込まれる。
泣いて嫌がる妹の身代わりとして、ルディーナはグラルシオに嫁ぐことになるが――。
「だからお前なのだ、ルディーナ。俺はお前が欲しかった」
グラルシオは実はルディーナの曾祖父が書いたミステリー小説の熱狂的なファンであり、直系の子孫でありながら虐げられる彼女を救い出すために、結婚という名目で呼び寄せたのだ。
敬愛する作家のひ孫に眼を輝かせるグラルシオ。
二人は、強欲な親戚に奪われたフォーコン公爵家を取り戻すため、奇妙な共犯関係を結んで反撃を開始する。
これは不遇な令嬢が最強の龍皇帝に溺愛され、捨てた家族に復讐を果たす大逆転サクセスストーリーです。
(ハッピーエンド確約/ざまぁ要素あり/他サイト様にも掲載中)
もし面白いと思っていただけましたら、お気に入り登録・いいねなどしていただけましたら、作者の大変なモチベーション向上になりますので、ぜひお願いします!
聖女だけど婚約破棄されたので、「ざまぁリスト」片手に隣国へ行きます
もちもちのごはん
恋愛
セレフィア王国の伯爵令嬢クラリスは、王太子との婚約を突然破棄され、社交界の嘲笑の的に。だが彼女は静かに微笑む――「ざまぁリスト、更新完了」。実は聖女の血を引くクラリスは、隣国の第二王子ユリウスに見出され、溺愛と共に新たな人生を歩み始める。
偽聖女の汚名を着せられ婚約破棄された元聖女ですが、『結界魔法』がことのほか便利なので魔獣の森でもふもふスローライフ始めます!
南田 此仁
恋愛
「システィーナ、今この場をもっておまえとの婚約を破棄する!」
パーティー会場で高らかに上がった声は、数瞬前まで婚約者だった王太子のもの。
王太子は続けて言う。
システィーナの妹こそが本物の聖女であり、システィーナは聖女を騙った罪人であると。
突然婚約者と聖女の肩書きを失ったシスティーナは、国外追放を言い渡されて故郷をも失うこととなった。
馬車も従者もなく、ただ一人自分を信じてついてきてくれた護衛騎士のダーナンとともに馬に乗って城を出る。
目指すは西の隣国。
八日間の旅を経て、国境の門を出た。しかし国外に出てもなお、見届け人たちは後をついてくる。
魔獣の森を迂回しようと進路を変えた瞬間。ついに彼らは剣を手に、こちらへと向かってきた。
「まずいな、このままじゃ追いつかれる……!」
多勢に無勢。
窮地のシスティーナは叫ぶ。
「魔獣の森に入って! 私の考えが正しければ、たぶん大丈夫だから!」
■この三連休で完結します。14000文字程度の短編です。
婚約破棄されたので、聖女になりました。けど、こんな国の為には働けません。自分の王国を建設します。
ぽっちゃりおっさん
恋愛
公爵であるアルフォンス家一人息子ボクリアと婚約していた貴族の娘サラ。
しかし公爵から一方的に婚約破棄を告げられる。
屈辱の日々を送っていたサラは、15歳の洗礼を受ける日に【聖女】としての啓示を受けた。
【聖女】としてのスタートを切るが、幸運を祈る相手が、あの憎っくきアルフォンス家であった。
差別主義者のアルフォンス家の為には、祈る気にはなれず、サラは国を飛び出してしまう。
そこでサラが取った決断は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる