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【本編】

青いウサギ

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百合は、学校で見つけた不思議な青いウサギを自分の家へと連れて帰った。
膝の上で大人しく丸まっているウサギの柔らかな背中を優しく撫でてやっていると、心が落ち着くようだった。

すると不思議なことが起きた。

突然、百合の目の前で、ウサギが人間の男の子に変身したのだ。
薄い水色をした髪の毛に、金色に近い黄緑色の瞳。
驚いて言葉が出ない百合に、男の子は言った。

「僕のお嫁さんになってください」

その男の子は、自分のことを異世界からやって来た<獣人ベスティアン>だと言い、
一生の番となるべく伴侶を探しているのだと教えてくれた。

突然、求婚されて戸惑う気持ちもあったが、百合の中には根拠のない確信があった。
彼と自分は、出逢うべくして出会った運命の相手なのだと。
言葉では説明できない、強い絆が彼と自分の間に感じられたのだ。

「私で良いの……? 本当に?」

「僕は、生涯の伴侶にするなら、ユリがいい。
 ユリが運命の人だと思ったから、言ったんだ。
 ユリも同じ気持ちだったら、嬉しい」

「私も……一緒になるなら、あなたがいい。
 私をあなたの世界に連れて行ってくれる?」

「もちろん! 嬉しいよ、ユリ。
 ありがとう。大事にする。
 僕たち、きっと世界一お似合いで幸せなカップルになるよ」

百合にとって、ウサギの男の子は、救世主だった。
両親からの愛を信じられなくなっていた百合に、本当の愛を教えてくれる存在で、
自分はようやくこれで幸せになれるのだと信じて疑わなかった。
でも、幸せは、いともかんたんに簡単に壊されてしまう。

「お前の婚約相手が決まった。
 相手は、大手企業M社の御曹司だ」

その夜、久しぶりに父が同席した夕食の席でのことだった。
百合が他に心に決めた人がいると話をしても、取り繕ってもらえない。
むしろ、相手の男とは別れろと言われ、別れなければ、百合を部屋に閉じ込めて一生外へは出さないと脅した。

百合が反発すると、父親は、手をあげた。
生まれて初めて感じる頬の痛みに、百合は、ここに自分の居場所はないのだと、はっきりと悟った。

その時、青いウサギが百合の父親に向かって牙を剥いた。
まるでユリを守ろうとするかのように。
草食系であるウサギに牙があるはずがない。
薄気味悪いと言って、父親は、百合からそのウサギを取り上げた。

「やめてっ、彼を返して!!
 彼は、人間なの!!」

その日は、新月の夜だった。
百合の必死な訴えに、父親は耳を貸そうとはしなかった。
青いウサギは、ウサギの姿のまま百合の前から姿を消した。
後日になって、父親は、ウサギを処分したと百合に告げた。

その時、百合の心は、本当の意味で死んでしまった。
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