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【本編】
告白
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土日をずっと寝て過ごしたお陰で、月曜日の朝には、私の熱は下がっていた。
頭痛もなくなっていたので、いつも通りに電車に乗って会社へ行く。
会社へ着くと、同僚たちに挨拶をして、自分の席に座り、パソコンを立ち上げた。
コウヤが居なくなっても、私の日常生活は、さほど変わらない。
変わったとしたら、ここ最近また残業が増えてきたことだろうか。
「ため息なんかついて……大丈夫?
まだ彼氏と連絡付かないの?」
伊藤さんが心配そうな口調で声を掛けてくれた。
どうやら無意識にため息をついていたらしい。
「……あ、はい……でも、大丈夫です」
「大丈夫って顔じゃないわよ。
……そうだ!
今日は、他の人たちも誘ってさ、ぱーっと飲みに行きましょ!
男連中も誘ってさ、合コン気分で、どう?」
伊藤さんが私を気遣う気持ちが痛いほど伝わってきて、嬉しい気持ちよりも、彼女を心配させてしまっていることに申し訳ない気持ちになる。
「……すみません。
気持ちは嬉しいんですが、今日は、人と約束があって……また今度誘ってください」
人と会う約束がある、というのは本当だ。
今朝、純也から私の体調を心配する文面のメッセージが送られてきた。
私がもう大丈夫だと答えると、食事でもどうかと誘われた。
正直、あまり気が進まないのだが、看病してもらったお礼も兼ねて、とりあえず承諾したのだ。
「……あら。もしかして、新しい彼氏?
それで悩んでたの??」
「いえ、違います!
昔の古い……友人とです」
(本当は、元彼なんだけど)
「男? 男なのね??
そういう昔からの知り合いってのが一番のダークホースだったりするのよ!
お互いのことをよく知ってる仲だから、色々と許せるってのもあるしねぇ」
伊藤さんは、やけにしみじみとした口調で話している。
もしかしたら、自分の経験談なのかもしれない。
「あはは、心に留めておきます。
でも、本当にそういうのじゃないので」
例え、純也とやり直す未来があるとしても、今の私には考えられそうにない。
私が仕事を終えて純也との待ち合わせ場所に着くと、既に純也がそこに居た。
純也が私に気付いて手を上げる。
付き合っていた頃のことを思い出して、少し胸がきゅっと鳴った。
あの頃は、大学の知り合いに純也と一緒にいるところを見られたくなくて、大学から離れた駅で待ち合わせをした。
同じ大学の門を別々のタイミングで素知らぬ顔をして通り過ぎ、電車に乗る。
あの時は、誰かに見つからないだろうかと、胸をドキドキさせていたものだ。
純也が店を予約していると言うので、少し身構えたが、行ってみると、普通の大衆居酒屋だった。
駅前のためか、人でごった返している。
これなら純也も、私に妙なことをすることはないだろう。
「この前は、ありがとう。
薬とか食べ物とか……今日は、私が奢るわ」
「いや、別にいいよ。
あれくらい、付き合ってた頃に、お前にも同じことしてもらったこと、あったし。
それより、俺の方こそ……この前は、あんなことして悪かった。
俺、あいつにお前を取られると思ったら、ついカッとなって……」
公園で、無理やり純也にキスをされ、迫られた時のことを思い出す。
今でも不快に思うけれど、面と向かって謝られては、責める気にはなれない。
少なくとも、付き合っていた頃は、キスやその先まで関係を持っていた相手なのだ。
「……そうね。到底、紳士な態度とは思えないわね。
だったらここは、あなたに奢らせてあげるべきかしら。
それなら、犬に噛まれたとでも思って、忘れてあげてもいいけど」
そう言って、私がビールを飲むと、純也が喉の奥でくっくと笑った。
「……お前らしいな。
いいよ、ここは俺が犬になるよ。
まあ、本当に犬に噛まれたのは、俺の方だけどな」
純也がふざけた口調で口にした最後の言葉に、私の心臓がズキリと音を立てて痛む。
(そうだった……コウヤが純也に噛み付いて、怪我を負わせたんだったわ)
「……その、怪我の方は、何ともないの?
病院へは行った?」
「ああ。一応、検査も受けたけど、問題ないよ。
犬に噛まれるくらい、よくあることだろ」
お前もよく知ってるだろう、と言うように純也が眉をしかめた。
純也が言っているのは、私たちが入っていたサークル活動のことだ。
人に慣れていない犬を相手にすることも多かったので、噛まれることなんて珍しくもない。
私たちは、なんだかおかしくなって、互いの顔を見合わせて笑った。
こうしていると、なんだか昔に戻ったような気になる。
「それにしても、あの犬は……いや、まあいい。
俺が言いたいことは、前と変わらない。
お前と、もう一度やり直したいと思ってる」
真面目な顔で純也が私を見る。
その目を見ていると、なんだかとても懐かしい気持ちになって、胸が切なくなる。
「俺、西野のことが好きだ。
俺とまた付き合ってくれないか?」
頭痛もなくなっていたので、いつも通りに電車に乗って会社へ行く。
会社へ着くと、同僚たちに挨拶をして、自分の席に座り、パソコンを立ち上げた。
コウヤが居なくなっても、私の日常生活は、さほど変わらない。
変わったとしたら、ここ最近また残業が増えてきたことだろうか。
「ため息なんかついて……大丈夫?
まだ彼氏と連絡付かないの?」
伊藤さんが心配そうな口調で声を掛けてくれた。
どうやら無意識にため息をついていたらしい。
「……あ、はい……でも、大丈夫です」
「大丈夫って顔じゃないわよ。
……そうだ!
今日は、他の人たちも誘ってさ、ぱーっと飲みに行きましょ!
男連中も誘ってさ、合コン気分で、どう?」
伊藤さんが私を気遣う気持ちが痛いほど伝わってきて、嬉しい気持ちよりも、彼女を心配させてしまっていることに申し訳ない気持ちになる。
「……すみません。
気持ちは嬉しいんですが、今日は、人と約束があって……また今度誘ってください」
人と会う約束がある、というのは本当だ。
今朝、純也から私の体調を心配する文面のメッセージが送られてきた。
私がもう大丈夫だと答えると、食事でもどうかと誘われた。
正直、あまり気が進まないのだが、看病してもらったお礼も兼ねて、とりあえず承諾したのだ。
「……あら。もしかして、新しい彼氏?
それで悩んでたの??」
「いえ、違います!
昔の古い……友人とです」
(本当は、元彼なんだけど)
「男? 男なのね??
そういう昔からの知り合いってのが一番のダークホースだったりするのよ!
お互いのことをよく知ってる仲だから、色々と許せるってのもあるしねぇ」
伊藤さんは、やけにしみじみとした口調で話している。
もしかしたら、自分の経験談なのかもしれない。
「あはは、心に留めておきます。
でも、本当にそういうのじゃないので」
例え、純也とやり直す未来があるとしても、今の私には考えられそうにない。
私が仕事を終えて純也との待ち合わせ場所に着くと、既に純也がそこに居た。
純也が私に気付いて手を上げる。
付き合っていた頃のことを思い出して、少し胸がきゅっと鳴った。
あの頃は、大学の知り合いに純也と一緒にいるところを見られたくなくて、大学から離れた駅で待ち合わせをした。
同じ大学の門を別々のタイミングで素知らぬ顔をして通り過ぎ、電車に乗る。
あの時は、誰かに見つからないだろうかと、胸をドキドキさせていたものだ。
純也が店を予約していると言うので、少し身構えたが、行ってみると、普通の大衆居酒屋だった。
駅前のためか、人でごった返している。
これなら純也も、私に妙なことをすることはないだろう。
「この前は、ありがとう。
薬とか食べ物とか……今日は、私が奢るわ」
「いや、別にいいよ。
あれくらい、付き合ってた頃に、お前にも同じことしてもらったこと、あったし。
それより、俺の方こそ……この前は、あんなことして悪かった。
俺、あいつにお前を取られると思ったら、ついカッとなって……」
公園で、無理やり純也にキスをされ、迫られた時のことを思い出す。
今でも不快に思うけれど、面と向かって謝られては、責める気にはなれない。
少なくとも、付き合っていた頃は、キスやその先まで関係を持っていた相手なのだ。
「……そうね。到底、紳士な態度とは思えないわね。
だったらここは、あなたに奢らせてあげるべきかしら。
それなら、犬に噛まれたとでも思って、忘れてあげてもいいけど」
そう言って、私がビールを飲むと、純也が喉の奥でくっくと笑った。
「……お前らしいな。
いいよ、ここは俺が犬になるよ。
まあ、本当に犬に噛まれたのは、俺の方だけどな」
純也がふざけた口調で口にした最後の言葉に、私の心臓がズキリと音を立てて痛む。
(そうだった……コウヤが純也に噛み付いて、怪我を負わせたんだったわ)
「……その、怪我の方は、何ともないの?
病院へは行った?」
「ああ。一応、検査も受けたけど、問題ないよ。
犬に噛まれるくらい、よくあることだろ」
お前もよく知ってるだろう、と言うように純也が眉をしかめた。
純也が言っているのは、私たちが入っていたサークル活動のことだ。
人に慣れていない犬を相手にすることも多かったので、噛まれることなんて珍しくもない。
私たちは、なんだかおかしくなって、互いの顔を見合わせて笑った。
こうしていると、なんだか昔に戻ったような気になる。
「それにしても、あの犬は……いや、まあいい。
俺が言いたいことは、前と変わらない。
お前と、もう一度やり直したいと思ってる」
真面目な顔で純也が私を見る。
その目を見ていると、なんだかとても懐かしい気持ちになって、胸が切なくなる。
「俺、西野のことが好きだ。
俺とまた付き合ってくれないか?」
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