【R18】拾ったワンコは獣人でした。~イケメン獣人に求愛されて困っています。~

風雅ありす

文字の大きさ
43 / 63
【本編】

決意

しおりを挟む
「百合は……」

「……ああ。百合とは、ちゃんと別れたよ。
 ……って言っても、別に付き合おうとか話してたわけじゃなくて……
 その……ただズルズルと…………曖昧なままにしてた俺が悪いんだ」

純也がバツの悪そうな顔で下を向く。
要は、百合の自分への好意に気付いていて、それを良いように利用していたということなのだろう。

唐突に、百合の泣き顔が頭に浮かんだ。

最低だ、と思う反面、私に人のことが言えるものか、とも思った。
私だって、コウヤの好意を受けながら、きちんと自分の気持ちに向き合おうともせず、ただズルズルと楽な方に、楽な方に……と、身を任せてしまっていたのだから。

(私……コウヤに、なんてひどいことをしていたのかしら)

今更ながら自分の曖昧で残酷な態度に気付き、反省しても、もう遅い。
私も、純也と同じことをコウヤに対してしていたのだ。

「西野……大丈夫か?」

私が俯いたまま無言でいたので、純也が心配して顔を覗き込んできた。
はっと顔を上げた先に、純也の見知った瞳が思いのほか近くにあって、驚いた。

「あ…………」

何か言葉を返そうと口を開いたのに、何故か純也がぎょっとした顔をする。

「……わ、悪かったよ、ほんと。
 謝るから。だから、泣くなよ……」

泣いているつもりなんてなかったのに、私の頬を何かの液体が零れ落ちていくのを肌で感じた。
慌てて涙を拭うと、何となく純也との間に気まずい空気が流れる。
付き合っていた時ですら、純也に涙を見せたことなんてなかった。
一体、私は本当にどうしてしまったのだろう。

「……俺、院を卒業したら、就職しようと思うんだ。
 今、幾つか内定ももらえてて……そしたら、一緒に暮らさないか?」

今度は、私が驚く番だった。
純也の女性遍歴は数多聞いてきたけれど、誰か特定の1人と同棲したという話は聞いたことがない。
それだけ純也の私への気持ちが真剣なのだとわかる。

「どうして……?
 純也だったら、他にいくらでも綺麗で可愛い子と付き合えるでしょう。
 どうして私なの?」

嫌味のつもりで言ったのではない。
本心から純也が私を好きでいてくれる理由が分からないのだ。
すると、純也は、頭をぽりぽりと掻きながら答えた。

「俺ってさ、誰にでもいい顔しちゃうんだよなぁ。
 そのせいで、女には色々苦労もしたけど……
 なんて言うか……基本的に人から嫌われたくないんだよ。

 でも、お前、誰にも媚びないだろう?
 前に、サークルの先輩たちがさ、里親が見つからない猫たちを引き取るかどうかで揉めてたの、覚えてるか?
 お前、あの時、〝命を預かる覚悟が持てないなら飼うべきじゃない〟って、ハッキリ言ったんだ。
 みんなびっくりして、引いてたけど……
 俺は、あの時のお前を見て、全身に電流が走ったみたいだった。
 カッコイイなって思ったんだ。
 俺だったら、あんな風にズバッと確信ついたこと言えないで、きっと笑って誤魔化してた」

(まさか純也が私のことをそんなふうに思ってくれていたなんて……)

私と純也の間に、付き合っていた頃の楽しい日々が蘇っていく。
今ここで私が手を伸ばせば、またあの頃のように戻れるのだろうか。

純也に裏切られたと知った時、やっぱり……と、諦め半分に思う気持ちと、ショックな気持ちが半々だった。
私も、純也のことは本気で好きだった、と思う。
でも、自分のことを好きではなかった。
純也に愛されているという自信がもてなかったのだ。
だから、もう自分が傷つかないよう、愛や恋だのという曖昧な感情なんて信じまい、と心に固く決めた。

それでも、コウヤからの好意を無下に出来なかったのは、正直心地が良かったからだ。
コウヤの真っすぐな瞳は、私の心の奥底にある、隠していた気持ちを揺さぶる。
彼は、全身全霊で私を愛してくれていた。
やっぱり私は、誰かに心から必要とされたくて、心から愛されたかったのだ。

正直なところ、純也に対する当て付けも、少しはあったと思う。
もしかしたら、純也が百合との関係を曖昧なまま続けていたのも、私に対する当て付けだったのかもしれない。

(私たち、ほんとバカね……)

だからこそ、私は、今ここで、ちゃんと純也と向き合わなければダメだ。

「純也…………私………………ごめん。
 純也の気持ちには、答えられない」

私が純也の顔を見ると、純也は、心底傷付いたような顔をした。
それを見て私の胸がちくりと痛む。

「どうしてだ。百合のことを気にしてるのか?
 それとも、まだ俺のことを許せない?」

百合には恨まれたままだけど、それでも彼女は私にとって可愛い後輩で、友人の一人だ。
純也と百合が一緒に居る姿を見て、心痛んだことも本当だ。
でも……

「ごめんね。私、他に好きな人がいるの」

にっこり笑って、私が答えると、純也は、一瞬瞳に怒りの色を浮かべた。
でも、それは本当に一瞬で、すぐに諦めたような表情になる。

「公園で一緒に居た、あいつのことか。
 …………俺じゃ、ダメなんだな」

「ごめん……純也が悪いんじゃないよ。
 私が、彼じゃなきゃダメなの」

そう、コウヤがいい。
コウヤの大きくてごつごつした手が私に優しく触れるのが好き。
あの人懐っこく屈託のない笑顔が好き。
逞しく広い胸でぎゅっと私を抱きしめてくれるのが好き。
少し低めの声で私の名を呼ぶのが好き。
真っすぐ私を見つめる、あの黄緑色の瞳が何よりも恋しい。

(コウヤに会いたい―――っ!)

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...