〔時〕〔空〕冒険記

irohani

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水の国【ファウンテン】

みちのり。

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コーロに連れ出されて早朝から出発をして、気が付いたら太陽が登りきっていた。いつもなら既にご飯を食べ終わる時間帯。

馬車に揺られながらコーロは読み物をしている。

「アホか!!」

コーロがビックリしてこちらを振り向く。

「おま、起きたと思ったらすぐ罵倒かよ」

「出発までの過程が楽しみだったのにいいいぃいぃいぃ…」

「すまんすまん。でもよ、窓から外見てみろよ。めっちゃ綺麗やから」

コーロは誤魔化してそんな事を言う。

「そんな事言われたって私は騙されないし許さない」

「うわマジギレじゃん…っとそれより騙されたと思って見てみろよ」

コーロに背中を押されて窓のそばに近寄る。

「だから騙され……」

窓から見た景色はとても綺麗だった。すぐ横には川があり、水底に宝石が散りばめられているかのように光を反射する。水底を泳ぐ魚もキラキラしている。水はどこまででも見通すことが出来そうなぐらい透き通っている。遠くに見える滝には水しぶきで虹がかかっている。

「…綺麗」

思わずそう呟く。

「だろ?多分【水の国ファウンテン】に着いたらもっと綺麗なモン見れるだろうな」

楽しみだなと私に囁く。その笑顔は昨日の夜に劣らないぐらいキラキラしていた。

「ホントに楽しみなんだね」

コーロに釣られて私も笑う。

「そりゃあ楽しみさ、なんてったってクロノとの二人旅だからな。でも折角なら勇者も誘いたかったなぁ…」

魔王討伐のパーティで世界を巡るなんてまた魔王が復活したと勘違いされるだろう。…まぁそこまで知名度があるとは思わない。

「そうだねー。…そういえば勇者と文通するって言ってなかったっけ?」

魔王討伐後に2人が話していた事を思い出す。その時は互いに楽しそうに話していたっけ。

「してたよ。落ち着いたら向こうから出すって言ってたんだけどなかなか来なくてさ」

「…だから着いてきたの?」

「ああ、忙しいならこっちから会いに行ってやろうと思ってな。勇者からの手紙が来たら賢者様が伝えてくれるらしいから、その辺も問題ない」

一応いろいろと考えてるんだぞとコーロが言う。…賢者様を便利屋扱いしている事は目を瞑ろう。私も結構賢者様に頼っているし。

…で、旅の動機は勇者様のこと、と。ふむ。

「…やっぱり勇者様のこと好きでしょ?」

「べっ、別にそんなんじゃねーし!!心配だから会いに行くんだからな!!…ホントだからな!!」

顔を真っ赤にして喚いている。

「じゃあ、どう思ってるの?」

多分今の私は悪い顔をしてるだろう。

「う、ウチのことはいいの!!クロノはなんで旅をしようと思ったのさ?」

「えー?聞かせてよ?」

「いいからいいから!!」

これ以上勇者様の事について聞くと多分少しだけ口を利いてくれなくなるだろう。…この話はまたの機会にしよう。残念だけどね。

「…私はただ世界を巡りたいだけだよ」

コーロに本当の事を言うのは気が引けるから、思わず嘘をついてしまう。コーロにあまり心配をかけたくない。

「…ホントか?」

「ほ、ホントだよ」

「…はぁ、お前ホントにわかりやすいな。嘘なんだろそれ?」

そこまで顔に出ているのか。…正直、あまり言いたくはない。でもここで言った方がいいだろう。

「実はさ、魔王の事についてなんだよね」

「…あー、そういえば復讐とかどうたらこうたら言ってたな」

気難しい顔をする。そんな顔をするコーロは珍しい。

「それもあるんだけど、魔王って良い奴だったから倒さないでもよかったんじゃないのかなとか思ったりしてさ」

「いろいろ、わかんなくなっちゃって」

「そこで賢者様に色んな所を巡ってみたらって言われて折角だからやってみよう、って言うのが理由」

私の顔を見て相槌を打ちながら聞いていたコーロが私に近付いて抱き寄せてくる。

「やっぱ、クロノはそういう奴だよな。人一倍気を使う所とかさ、ウチには真似出来ねーや」

そんなことは無い。今だって、こうやって気遣ってくれている。

「だからってあんまり抱え込むなよ?ウチが居るからさ、頼っていいんだぞ?」

「…うん」

口に出して言うのは恥ずかしいから言わないけど…コーロのこんな不器用さが大好きだ。魔王討伐のみちのりの時もこの優しさがあったから頑張れたんだ。

「…おお!!見えてきた!!アレが水の国ファウンテンか!!」

コーロの指さす方を見る。白い街並みが見える。奥に見える大きな建物はきっとお城だろう。

「着いたらまずは探索からだな!!」

「先に宿を見つけるのが最優先でしょ!?」


…結構、早とちりな所もあるけど。


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