【短編エッセイ】 紙魚の海

糺ノ杜 胡瓜堂

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第十二話 「卒塔婆、化して人に食物を与ふる事」

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 「片仮名本・因果物語」義雲・雲歩 編 寛文元(1661)年開板


 「卒塔婆そとばして人に食物を与ふる事」

 上州(現在の群馬県)加久保村に内匠たくみという人がいた。

 武田勢と上杉勢が戦った碓氷の合戦に参加し、奮戦したものの体に多数の傷を負い倒れてしまう。
 戦が終わると、深手を負って動けず口も聞けない内匠は、戦死者と間違われて捨て置かれてしまった。

 彼の家では、父が戦死したものと思った息子たちが弔いも済ませた。

 その一周忌の供養をしている最中に、どこからともなく若いお坊さんがやってきて、

 「内匠たくみという人は、戦場の大木のうろ(空洞となった部分)で生きておられます、迎えに行ってあげてください、確かに伝えましたぞ・・・・」

 そう固く言い届けて去っていった。
 息子たちが聞きつけてやってきたが、お坊さんは既にいなくなっていた。

 そのような事があって、息子たちが戦場となった山中をあちこちと探すと、木のうろの中に大怪我をしているもののまだ息がある父を発見した。

 息子たちは死んだものと思っていた父が生きていたことに喜び、急いで焚火を起こし介抱をした。

 ようやく喋れるようになった父が言うには、

 「今まで、七人のお坊さんが毎日交代でやってきて、私に食物や湯水を運んでくれていたのだ、その内の一人のお坊さんは鼻が欠けていた」

 という事だった。

 息子たちが世にも不思議な事・・・と思い戦場の跡を見ると、合戦の戦死者を悼む七本の卒塔婆そとばが建っていた。
 その一本の卒塔婆は先端が欠けているものだった。

 「今まで父を助けてくれた七人のお坊さんというのはこの七本の卒塔婆に間違いない、鼻の欠けたお坊さんというのは、この欠け目のある卒塔婆の事だろう」

 と、追善供養をしたという。

 これは、この内匠という人の孫が私に語ったことで間違いのないことである。
 本当に卒塔婆などは丁寧に造るべきだ、殊に霊前に備える仏具等はよくよく注意して備えるべきものである。

 
 ・・・・合戦の死者を悼むために建てられた卒塔婆が、僧に化身してまだ生きている人を助けたというお話。

 因果とは、原因と結果という意味で、善い行いも悪い行いも必ず自分に返ってくる、という仏教の教え。

 因果物語は、そういう仏教の教えを分かり易く説くためのお話が多いです。
 言葉は悪いですが「お説教」っぽい話も多いです。

 その内容はけっこうパターン化しているものも多いのですが、このお話なんかはオリジナリティのあるちょっと変わったお話でした。

 なんとなく「傘地蔵」の話を思い出しました・・・・・。


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