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第九十三話 「逆風家に入り貪姥首をうしなふ」他
しおりを挟む新著聞集 神谷養勇軒編 寛延二(1749)年
第十四 殃禍篇
●「逆風家に入り貪姥首をうしなふ」より
信州松本領の、菜茎という山里に善治という者がいた。
彼の家では、近郷の百姓、樵夫などに米等を一升貸して二升にして返済させるのを稼業としていた。
善治には年老いた母がいたが、この母もまた大欲邪見の者で、米を貸すときは小さい升を、返済を受ける時は大きい升をと、常に二升を使い悪どい商売をしていた。
近所の者達はそれを知ってはいたが、貧しい山里であるため老婆から米を借りざるを得なかったので、誰もそれを咎めるものはいなかった。
延宝の始め頃、老婆と善治たちが囲炉裏に生木を焚き、家族が集まり話をしていたところ、俄かに大風が起こり、入り口の戸が煽られ囲炉裏の上に落ち、忽ち火が消えてしまった。
善治達家族の者が慌てふためき、再び火を起こしてみると、座っていた老婆の首が消えてなくなり、胴だけが座っていたという。
まことに恐ろしい事である。
●「多財を横取して後自害して死す」
江戸尾張町一丁目に住む、さかい屋喜兵衛という者が、明暦二年に金七十両あまりの無尽講(※)の講元をはじめたが、翌年に明暦の大火が起きて幕府より無尽講禁止のお触れが出た。
喜兵衛はこれを幸いに、集めた金を横領してそれを元手に商売を始め千両ほどを儲けて大金持ちとなった。
延宝八年、八朔の礼(陰暦の八月朔日を祝う行事)を済ませて家に帰り、普段と変わらない様子で二階へ上がると、突然「俺は以前の人の金を横領した、それを今懺悔する」と大声で叫んで脇差で自分の腹を突き始めた。
家の者が驚いて脇差を取り上げ治療したが、八月九日にはついに喜兵衛は死んでしまったという。
※無尽講(頼母子講):組合員から一定の掛け金を募って順に組合員に融通してゆく互助組織
「新著聞集」にはこういう短い逸話が多いです。
殃禍篇は、「因果応報」・・・悪いことをしてその報いを受ける話で構成されています。
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