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第四十五話 「蟹のタトゥーの女 part2」 ~キケンな女~
しおりを挟む松浦静山著「甲子夜話」
巻四十五、三三「侠婦加久」より
ある宴席で聞いた話である。
世の中には、愚かな者がいるものである・・・・。
加久という名の仁侠の女がいるという。
賭場などにたむろする、いわゆるグワエン(臥煙)長髪とか呼ばれている無頼漢共も、この加久には何も言えないということだ。
またこの加久は、それを直接見た者の話では、尻に蟹の刺青をしているという。
蟹が両手で陰部を開こうとしている図だということだ。
また、ある相撲取りから聞いた話では、回向院で相撲が催された時、力士の休憩所の裏にこの女が住んでいることが分かると、皆その小屋を出ていって近寄らなかったという・・・。
相撲取りも恐れるほどの女だったのである。
またある人の話では、この女が銭湯に行って帰るときは、いつも裸身に緋縮緬の褌だけの姿で往来を闊歩するという。
道端で小便をして歩き、それを恥じることもないという事だ。
この女が質屋に行って、着ている着物を質入れした時の話である。
女は今自分が着ている着物を質入れすると言って、店先で着物を脱いで素っ裸になった。
下帯さえつけていない全裸である。
店の者達が、女の陰部が露わになったのを見てうっかり笑うと、女は恐ろしい剣幕で罵った。
「おい、人の陰戸(陰部)を見てそんなに面白いか!世の中の女には全員陰戸くらいついているだろう、私の陰戸は他の女と違っているか?」
店の者が困惑して何度も謝り、女に銭を与えると、女は質に入れたばかりの自分の着物も返せと無理難題をふっかけた。
質屋では女の言いなりになるしかなかった。
この女は十八巻に記した湯島の婦人、よしのようなものであろうか・・・・。
(この湯島のよしの話は、当エッセイの三十話「蟹のタトゥーの女」でご紹介しています)
・・・・なんとも恐ろしい女性です。
というか、蟹のタトゥーの女性がもう一人いたとは驚き、流行っていたのかな・・・。
三十話でご紹介した女性よしは、亡くなった夫に代わって鳶の者達をまとめ、地域のいざこざを仲裁する「仁侠」っぽい部分がありましたが、こっちの方は関わるとヒドい目に合う系の女性っぽい気が・・・。
それにして、蟹のタトゥーの女性は「裸」がお好きなようで・・・。
なお、三十話「蟹のタトゥーの女」でもご紹介しましたが、明治から昭和初期に活躍した捕物小説の祖・岡本綺堂氏の「半七捕物帳」、第59話「蟹のお角」は、こちらの加久が直接のモデルでしょう。
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