称号は『最後の切り札』

四条元

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移住の準備は身体から

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「さてと…。」
爺さんが腕捲りを始めた。
未だにはっきり認識出来んけど、どんな服装してんだ?
「早速お主の新たな身体を創るとするか。」
働き者だな。
見習いはせんけど。
「ん‥?なぁ爺さん?」
少し気になったので聞いてみる。
「新しい身体の基本ベースって、元の俺の身体なのか?」
「そうじゃが、何か問題が有るのかの?」
「有るね、大有りだ。」
爺さんが訊ねてきたので答えた。
「セカンディールって弱肉強食なんだろ?元の弛んだ身体なら移住して三秒で死ぬ自信有るぞ。」
「なるほど、あり得るの。ううむ、ならばどうするか…?」
爺さんは暫し考え込み、おもむろにパンっと手を叩いた。
「ヨシ!ならばこうしよう。」
「どーすんだ?」
「お主の元の身体を基本に、儂が手を加えた身体を創ろう。」
「手を加える?改造すんのか?」
「みたいなモノかの?まず肉体年齢を幾分か若くしよう。身体能力と魔力は此方の者より高めにしておくか。」
爺さんノリノリだな。
狂科学者マッドサイエンティストの才能あんじゃね‥?
「後は危機を察知したら、身体強化の魔法が勝手に発動するようにしよう。」
何故か狂戦士バーサーカーって言葉が頭に浮かぶんだが…?
「ヨシ、コレでそう簡単には死ぬ事は無いじゃろう。」
簡単に殺す方になりそうな気がするんだが…。

「それから‥と。」
「え?何?まだやる気?」
「当然じゃ。お主、暫くは旅生活じゃろ?」
「…言われてみれば確かに。」
そうだ、定住先が見つかる迄は旅烏になるんだな。
「ならば旅に便利な収納魔法を使えるようにしておくか。容量は無限で良かろう。」
ちっと待て!
収納魔法?
容量無限?
それヤバい魔法じゃねーのか?
「オイ爺さん!!その収納魔法って悪目立ちするんじゃねぇのか!?」
何だか悪い予感がするぞ…。
「安心せい、収納魔法の使い手は多くはないが存在するからの。」
…そうか、他に使い手がいるなら悪目立ちはしないだろう。
一安心だな。
「流石に容量無限は歴史上一人も存在して居らんがの。」
安心出来ねー!!
そんな厄介なモン、簡単に付けるな!!
「最後は特殊能力スキルじゃな。」
「スキル?」
スキルって何だっけ?
「お主にちょうど良い物でなければの。…さて何にするかの?」
ああ、また悪い予感がするぞ…。

爺さんはまた考え込み、そしてまた手を叩いた。
「そうじゃ!記憶の目録メモリーカタログならお主にちょうど良いじゃろう。」
「記憶の目録?」
また訳の分からんモノを…。
「お主の記憶の中のありとあらゆる物を、魔力を代償に召還できるスキルじゃ。」
「…なるほど、ソイツはありがたいな。」
何でもって事は武器も出せるって事だな。
弱肉強食の世界なら武装は必要だろう。
セカンディールが中世と同じなら、武器は俺に馴染みが無い物ばかりのはずだ。
使える種類バリエーションが豊富なのは助かる。
「言っておくが生きてる女体は召還出来んからの。」
「誰がするかぁ!!」
何考えてんだマッドジジイ!!

「さてハヤテよ、最後に言うておくぞ。」
爺さんが真面目な表情をする。
「お主の倫理観を少し弄らせてもらう。」
「倫理観を?何でだ?」
「お主はまだ、地球の倫理観じゃからの。」
「地球の倫理観じゃ駄目なのか…?」
「地球の倫理観ではセカンディールはキツい、地獄と同じとなる。」
地獄と同じ?
あ、なんとなく理解出来そうだ。
「殺人に対しての忌避感や罪悪感…だな?」
爺さんは頷く。
「倫理観がそのままでは、人を殺めた時に罪の意識に苛まれる。例えそれが必要であってもじゃ。」
「…だな。」
どんな時でもどんな人でも。
例え殺人鬼に襲われた時でも。
正当防衛以外で殺してはいけない。
それが日本だ。
正しい考え方かもしれない。
だが誰が立証するんだ?
目撃者がいなければ最悪、過剰防衛で罪に問われる。
それも日本だ。
例え正当防衛でも、殺人の記憶は自分を責めるだろう。
それでは弱肉強食の世界は生き残れない…。
「分かった、倫理観を少しばかり弄ってくれ。」
地球で生きていた頃と違う自分になる。
それが少し寂しく感じた…。
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