称号は『最後の切り札』

四条元

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ジョバールの森を出てみよう

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異世界『セカンディール』での俺の新たな人生は、送り込まれた森から出る事から始まった。
身体に植えられた情報だと、俺のいる場所は森の端から三分の一辺りらしい。
何時までも森の中に居てもしょうがないので、森の近くにある道を目指す事にした。
召還したベレッタの遊底スライドをコッキングし、薬室チャンバーに弾を送り込む。
直ぐに射撃出来る様にセーフティはかけず、セレクターは三点バーストにしておく。
ヨシ、準備は出来た。
道を目指して出発だ。
こうして意気揚々と、俺はセカンディールの世界を歩きだした。

歩き出して一時間が経過。
俺は少しだけ後悔している。
歩きだした事では無い。
ベレッタを選んだ事をだ。
別に重いって訳じゃあ無い。
所詮は拳銃だから、アサルトやSMGに比べりゃ軽いもんだ。
爺さんが身体を若く創った筈だし、今のところ疲れは感じない。
それじゃ何を後悔してるのか?

拳銃だから肩紐スリングが無ぇ…。

結構キツイわ~、ずっと両手で銃を保持してんの‥。
映画とかで射撃体勢で歩いてるのはよく見るが、よく出来るなあんな事…。
こっちは銃口マズルを斜め下に向けて歩いてるのに、それでも正直ダルいぞ。
スリング付いてるウジにでもしときゃ良かったかなぁ…?

「自衛隊の頃は六四ロクヨンでも平気だったんだがなぁ…。歳は取りたくねーわ。」

ぼやきながら歩いていると、突然身体に変化が起きる。
全身に力が漲るような感覚だ。
(‥コレが身体強化か!?危機を察知した!?)
直感で左に大きくサイドステップ!
腰をひねり身体を右に向けて銃を構える!
茂みから飛び出した何かを確認!
額にある鋭い角、肉食の兎ホーンラビットか!
照星と照門で狙いを定めトリガーを引くと、三発の弾丸がリズミカルに弾き出された。
三発全てホーンラビットの顔面に命中し、ホーンラビットは一瞬で絶命した…。

…不思議だ、罪悪感が湧かない。
倫理観を弄られたからか…?
地球で生きていた頃の俺なら、殺す選択なんてしていないだろう…。
「…別人になったみてぇだ。」
心からそう思った…。

「それにしても、何だ今の動き?」
ワンステップの間に全て終わった。
(‥俺が動いてから最後までえらくゆっくりに感じたな。スローモーション見てるみたいに…。)
今のも身体強化の効果なのか…?
(若返りプラス身体強化で出来たのか?それとも身体自体がスペシャルになってるのか?もしくはアスリートの言うゾーンてヤツか?)
頭の中で色々考えるが答えは出ない。
(情報が少な過ぎる。暫くデータ集めに専念するか…。)

この森ーージョバールの森と言うらしいーーを歩いて三時間。
俺は代わり映えの無い風景に飽きてきていた。
「あ~、もう木は見飽きた!頼むから風景が変化してくれ~!」
棒読みですが本音です。
ええ本音です。
だって飽きるよ、前も後ろも左も右も木だけしかない風景は。
歩いていても
(俺、本当に前に進んでんのかなぁ…?)
とか
考えちゃうよ?
 もしかすると同じ所を堂々巡りしてんじゃね…?なんて不安になっちゃうよ?
「ハア…。一服しよ…。」
取り敢えず休憩する事に決めた。

「…やっぱ地図無しで動いたのは無謀だったかなぁ?」
今更言ってもしょうがないのは解ってる。
だが肝心の地図が無い。
身体に植え込まれたのはあくまでも情報であり、俺自身の記憶とは違うから目録にもセカンディールの地図は出て来ない。
つまり俺は地図無しで行動するしかないのだ。
「爺さんも地図位サービスしてくれりゃ良いのに…。」
まあ、俺も地図の事は頭に無かったからどっちもどっちだ。
「とにかく森から出れたなら後はなんとかなんだろ。死にさえしなきゃだが…。」
水筒の水をラッパ飲みして一息つく。
「…フウッ。とにかく行動だ、行動しなきゃ話にならん。」
地図は無くても森から出なくては。
一生この森で暮らすなんて嫌だしな。

「それにしても…。」
俺は歩いて来た方を見た。
「セカンディールってこんなに魔物の多い世界なのか…?」
ホーンラビットを加えて、既に五回魔物と遭遇している。
当然の如く戦闘になり、全ての魔物を仕留め無限収納に入れた。
これからも同じ確率で遭遇すると考えると、予備弾倉の残数が心配だ。
「…仕方ねぇ。予備弾追加すっか…。」
収納から取り出した目録を捲っていると、不意にその項目が目についた。
「…最高重要機密トップシークレット?」
なんだろう、凄く気になる…。
物凄く不安だ。
だがワクワクする。
堪らんなぁ、この感覚!
俺はゆっくりと頁を捲った。

「え~っと‥『地表走査スキャンプログラム搭載型地上監視衛星』か…。」

俺は一旦目録を閉じる。
「…うん、きっと碌でも無い代物が載ってる予想はしたさ。したけどね…?」
俺は頭を抱えた。
「…何で米軍の超が付く重要機密なんだよ?」
地球の米軍にバレたら秘密裏に射殺も有り得る代物だぞオイ!!
つか何で載ってるのコレ!?
噂程度しか知らんぞ俺は!?
…あ、そういや漫画で読んだ事あるような?
漫画の中の物まで実体化すんのかよオイ……。
「…ヤベェ、目録コレそのうち白い悪魔や鐵の城すら出てくんぞ。」
自重の一言を胸に刻んだ俺だった…。

しかし、背に腹は変えられないのも事実である。
見つけた物とGPS連動のナビを組み合わせれば、地図の代わりになるも知れない。
だが…。
「‥少なくともケネディ宇宙センターケープケネディ位の設備は必要だよな。打ち上げもイプシロンじゃ不安だからアポロクラスが確実か?それに土地が…。」
辺りは森である。
当然、拓けた土地などある訳が無い。
例え土地が有ろうがロケットや打ち上げ施設を召還出来る魔力が有るか解らない。
結論‥無理。
諦めました。
無理な物は無理である。
人間諦めが肝心なのだ。
「しょーがねぇ、歩くか…。」
俺はまた森を歩き始めた。

更に四時間後、俺はやっと森を出て道らしきモノにたどり着いた。
この間三回魔物に襲われ、その内二回はグレイハウンドと呼ばれる魔物だった。
野生の魔物に猟犬ハウンドなんて名付けたの誰だよ…?
ネームセンス無さすぎだろ?
俺もセンスねーけど…。
さて、森を出れたから次は町に行ってみるか…。
だとすると必要なのは“足”だな。
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