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一章
『ワンダリング・ワンダラーズ!』(3)
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おいおい、まだ話し終わらないのか、って?
すまない、もうすぐ話の目的地に辿り着く。
最後にもう一つだけ、紹介させてくれ。
このゲーム『ワンダリング・ワンダラーズ!』における「プレイヤーの死亡」。
いわゆる「死」について。
*────
このシミュレーションゲームは、とりわけ、いわゆるハードなゲーマーに受けたんだが……それには大きな理由がある。
このゲームが、視覚聴覚限定の同調ながらも圧倒的な現実感をもたらす高性能デバイスを使用していたこと。
それゆえ、高校生以上という年齢制限に納まるのかやや怪しい、死の間際まで続く極限のリアリティを有していたということ。
そしてそれに付随する仕様として、もう一つ。
このゲームでは、プレイヤーが死ぬと、身に着けている装備を含めた所持アイテムすべてをその場に残して、直前にいた拠点に戻されるという凶悪な仕様が存在したことだ。
先述した通り、レベルやステータスの存在しない『犬』において、自身の生存を脅かす環境から身を守り、時に外敵を退けるために用いられる装備や道具の重要性は非常に大きい。
装備とは自分の資産そのもの。
そして道具とは自身の「生」を守る武装そのものだ。
死亡時に所持していたもののみとはいえ、それらをその場に遺してきてしまうばかりか、死に方によっては、長く使い続けた装備を回収不可能な形で完全にロストする可能性すらある。
精神的衝撃と実利的損失の両面から、このゲームにおける死は非常に恐れられた。
このゲームに「デスペナルティ」というようなものは存在しない。
その時点で装備・所持しているアイテムをすべて剥がされて、拠点に戻されるだけだ。
それゆえ、自分のアバターが蹂躙されるというトラウマ必死の――文字通り「死」という――体験を看過できるならば、プレイヤーはなにももたず、その身一つで未開地に乗り出してもいい。
失うものはなにもない、というやつだ。
だが、装備も道具もないプレイヤーは矮小で非力な「概ね人間準拠」にすぎず。
そんな非力な人間が、未知の外敵蔓延る未開地の開拓を満足に行えるはずもない。
なにせ俺たちプレイヤーの前に立ちはだかるのは、一つの世界なのだから。
拳一つで切り抜けてみせると豪語したプレイヤーは、未開地域を横に長く横断していた峡谷を超えられなかった。
危険が存在するか確かめるだけ確かめてくると言って、仲間にすべてのアイテムを預けて調査に赴いたプレイヤーは、自分がなぜ呼吸困難になっているのかもわからずに、なにもない場所で――実際には窒素ガスが充満していた森の窪地で――窒息死した。
「俺リアルで総合やってるんで」と言って、どこか小さな熊っぽい生き物に掴みかかったプレイヤーは、突如として内側から破裂したその生き物を前に戦わずして即死した。
……最後のは噂で聞いただけの眉唾話なんだけど、死んだ当人より、それを見ていた取り巻きの方がメンタルダメージが大きかったんじゃないかな……。
これらはどれも極端な例だが、つまり未開地の開拓とはそういうことだ。
行く先に、どれほどの危険があるのかわからない。
穏やかな草原に、化け物のような強さの生き物が潜んでいるかもしれない。
浴びるだけで死ぬ雨があるかもしれない。
足を踏み入れるだけで死ぬ沼があるかもしれない。
ただそこにいるだけで発狂させられる森、そんな森すら存在した。
……最後の一つについては、なぜそんなことになったのか、わかるかな?
別に精神汚染とか、神話的な干渉とか、そういう非現実的な原因によるものじゃない。
このゲームで遭遇する事象は、それがどんな異常な事象でも、ちゃんと物理的な因果関係に基づいて生じたものだったんだ。
つまり、ちゃんと説明可能な理屈に拠って、そんなことになってしまった。
……なにがどうなったらそうなるのか、ちょっと想像してみてくれ。
……まあ、そんなこんなで。
プレイヤーは、不条理に襲い来る死とアイテムロストという逃れられないリスクを背負いながら、そんな潜在的脅威に満ちた未開の地を、無限の命と経験と、人間の創意工夫という武器を頼りに開拓していく。
時に先人の屍を乗り越え。時に死に戻った仲間が落としたアイテムを抱えて壊走し。
時に成す術もなく世界に蹂躙され。時に呆然自失のなか「クソゲー」と呟きながら――
それでも少しずつ、まだ見ぬ世界を開拓していく。
リスクとスリルに満ちたそれは、仮想の中にある、紛れもない現実をプレイヤーたちに魅せた。
*────
総括として。
フルダイブシステム・デバイスを用いた全感覚同調型のVRゲームが登場しつつある昨今において、ヘッドマウントディスプレイ・デバイスを用いた『犬』は、やや時代に逆行した視覚聴覚限定同調型のVRゲームでありながら、広いゲーマー界隈における一定層においてのみではあるが、非常に高い評価を得た神ゲーだった。
*────
さて、ここまで話を聞いてくれてありがとう。
あんたが『犬』をやったことがあるお仲間さんか、そうでないかはわからないが。
もしもやったことがなくて、『犬』が面白そうだとちょっとでも思ってくれたなら。
それはとてもうれしいことだ。
だが――
俺はあんたに一つだけ、謝らないといけない。
『犬』。
正式名称『ワンダリング・ワンダラーズ!/Wandering Wonderers』は、一企業が管理運営する、MMOシミュレーションゲームだった。
そして。
すべてのオンラインゲームには、サービス終了という、逃れられない終焉が存在する。
そう。
『犬』は4年前にサービス終了している。
これまで話したすべてのことは、既に終わったゲームについての話なんだ。
*────
もしあんたが今、『犬』のサービス終了の知らせを聞いた当時の俺のような表情をしていたら、本当に済まないと思っている。
もしもそうなら、今のあんたは、かつての俺のように、まるで世界が終わったかのような――事実『犬』にあった一つの世界は終わってしまったんだが――気分を味わっているかもしれない。
『犬』のサービス終了から4年。
当時大学生だった俺は、今や社会人になった。
VR技術も日進月歩。
フルダイブシステムの人口への膾炙も日夜已むことはない。
1年に2桁にも及ぶVRゲームが綺羅星のように俺の目に映っては、
まるで流れ星のように、俺の前を流れ去っていった。
どんなゲームにも、のめりこめない日々。
どんな経験も、あの頃過ごした時間に及ばない。
『犬』が遺していった精神的充足という名の楔は、
この4年間、俺の日常に突き刺さったままだった。
――だが!
もはや、俺たちは、満たされることのない無尽の渇え満ちる淀んだ瀞に、その身を浸している必要はない。
あの日々に魅せられ、忘れること能わず、『犬』で味わったもう一つの現実感を今なお渇望し続けている俺の前に。
その星は。
まるで、ずっとそこで、輝きを放つ瞬間を待っていたかのように、
突如として俺の前に、燦然とその姿を現した。
……ここまで散々待たせたな、あんた。
今こそ見せよう。ここが目的地だ。
これが、これこそが、俺たちの希望だ!
近未来惑星観光開拓MMOフルダイブシミュレーション
『ワンダリング・ワンダラーズ !! /Wandering Wonderers ii』
8月30日 on Release
90分、心の旅を、今 再び
――それは今から、1か月後。
*────
ちょう たのしみ。
すまない、もうすぐ話の目的地に辿り着く。
最後にもう一つだけ、紹介させてくれ。
このゲーム『ワンダリング・ワンダラーズ!』における「プレイヤーの死亡」。
いわゆる「死」について。
*────
このシミュレーションゲームは、とりわけ、いわゆるハードなゲーマーに受けたんだが……それには大きな理由がある。
このゲームが、視覚聴覚限定の同調ながらも圧倒的な現実感をもたらす高性能デバイスを使用していたこと。
それゆえ、高校生以上という年齢制限に納まるのかやや怪しい、死の間際まで続く極限のリアリティを有していたということ。
そしてそれに付随する仕様として、もう一つ。
このゲームでは、プレイヤーが死ぬと、身に着けている装備を含めた所持アイテムすべてをその場に残して、直前にいた拠点に戻されるという凶悪な仕様が存在したことだ。
先述した通り、レベルやステータスの存在しない『犬』において、自身の生存を脅かす環境から身を守り、時に外敵を退けるために用いられる装備や道具の重要性は非常に大きい。
装備とは自分の資産そのもの。
そして道具とは自身の「生」を守る武装そのものだ。
死亡時に所持していたもののみとはいえ、それらをその場に遺してきてしまうばかりか、死に方によっては、長く使い続けた装備を回収不可能な形で完全にロストする可能性すらある。
精神的衝撃と実利的損失の両面から、このゲームにおける死は非常に恐れられた。
このゲームに「デスペナルティ」というようなものは存在しない。
その時点で装備・所持しているアイテムをすべて剥がされて、拠点に戻されるだけだ。
それゆえ、自分のアバターが蹂躙されるというトラウマ必死の――文字通り「死」という――体験を看過できるならば、プレイヤーはなにももたず、その身一つで未開地に乗り出してもいい。
失うものはなにもない、というやつだ。
だが、装備も道具もないプレイヤーは矮小で非力な「概ね人間準拠」にすぎず。
そんな非力な人間が、未知の外敵蔓延る未開地の開拓を満足に行えるはずもない。
なにせ俺たちプレイヤーの前に立ちはだかるのは、一つの世界なのだから。
拳一つで切り抜けてみせると豪語したプレイヤーは、未開地域を横に長く横断していた峡谷を超えられなかった。
危険が存在するか確かめるだけ確かめてくると言って、仲間にすべてのアイテムを預けて調査に赴いたプレイヤーは、自分がなぜ呼吸困難になっているのかもわからずに、なにもない場所で――実際には窒素ガスが充満していた森の窪地で――窒息死した。
「俺リアルで総合やってるんで」と言って、どこか小さな熊っぽい生き物に掴みかかったプレイヤーは、突如として内側から破裂したその生き物を前に戦わずして即死した。
……最後のは噂で聞いただけの眉唾話なんだけど、死んだ当人より、それを見ていた取り巻きの方がメンタルダメージが大きかったんじゃないかな……。
これらはどれも極端な例だが、つまり未開地の開拓とはそういうことだ。
行く先に、どれほどの危険があるのかわからない。
穏やかな草原に、化け物のような強さの生き物が潜んでいるかもしれない。
浴びるだけで死ぬ雨があるかもしれない。
足を踏み入れるだけで死ぬ沼があるかもしれない。
ただそこにいるだけで発狂させられる森、そんな森すら存在した。
……最後の一つについては、なぜそんなことになったのか、わかるかな?
別に精神汚染とか、神話的な干渉とか、そういう非現実的な原因によるものじゃない。
このゲームで遭遇する事象は、それがどんな異常な事象でも、ちゃんと物理的な因果関係に基づいて生じたものだったんだ。
つまり、ちゃんと説明可能な理屈に拠って、そんなことになってしまった。
……なにがどうなったらそうなるのか、ちょっと想像してみてくれ。
……まあ、そんなこんなで。
プレイヤーは、不条理に襲い来る死とアイテムロストという逃れられないリスクを背負いながら、そんな潜在的脅威に満ちた未開の地を、無限の命と経験と、人間の創意工夫という武器を頼りに開拓していく。
時に先人の屍を乗り越え。時に死に戻った仲間が落としたアイテムを抱えて壊走し。
時に成す術もなく世界に蹂躙され。時に呆然自失のなか「クソゲー」と呟きながら――
それでも少しずつ、まだ見ぬ世界を開拓していく。
リスクとスリルに満ちたそれは、仮想の中にある、紛れもない現実をプレイヤーたちに魅せた。
*────
総括として。
フルダイブシステム・デバイスを用いた全感覚同調型のVRゲームが登場しつつある昨今において、ヘッドマウントディスプレイ・デバイスを用いた『犬』は、やや時代に逆行した視覚聴覚限定同調型のVRゲームでありながら、広いゲーマー界隈における一定層においてのみではあるが、非常に高い評価を得た神ゲーだった。
*────
さて、ここまで話を聞いてくれてありがとう。
あんたが『犬』をやったことがあるお仲間さんか、そうでないかはわからないが。
もしもやったことがなくて、『犬』が面白そうだとちょっとでも思ってくれたなら。
それはとてもうれしいことだ。
だが――
俺はあんたに一つだけ、謝らないといけない。
『犬』。
正式名称『ワンダリング・ワンダラーズ!/Wandering Wonderers』は、一企業が管理運営する、MMOシミュレーションゲームだった。
そして。
すべてのオンラインゲームには、サービス終了という、逃れられない終焉が存在する。
そう。
『犬』は4年前にサービス終了している。
これまで話したすべてのことは、既に終わったゲームについての話なんだ。
*────
もしあんたが今、『犬』のサービス終了の知らせを聞いた当時の俺のような表情をしていたら、本当に済まないと思っている。
もしもそうなら、今のあんたは、かつての俺のように、まるで世界が終わったかのような――事実『犬』にあった一つの世界は終わってしまったんだが――気分を味わっているかもしれない。
『犬』のサービス終了から4年。
当時大学生だった俺は、今や社会人になった。
VR技術も日進月歩。
フルダイブシステムの人口への膾炙も日夜已むことはない。
1年に2桁にも及ぶVRゲームが綺羅星のように俺の目に映っては、
まるで流れ星のように、俺の前を流れ去っていった。
どんなゲームにも、のめりこめない日々。
どんな経験も、あの頃過ごした時間に及ばない。
『犬』が遺していった精神的充足という名の楔は、
この4年間、俺の日常に突き刺さったままだった。
――だが!
もはや、俺たちは、満たされることのない無尽の渇え満ちる淀んだ瀞に、その身を浸している必要はない。
あの日々に魅せられ、忘れること能わず、『犬』で味わったもう一つの現実感を今なお渇望し続けている俺の前に。
その星は。
まるで、ずっとそこで、輝きを放つ瞬間を待っていたかのように、
突如として俺の前に、燦然とその姿を現した。
……ここまで散々待たせたな、あんた。
今こそ見せよう。ここが目的地だ。
これが、これこそが、俺たちの希望だ!
近未来惑星観光開拓MMOフルダイブシミュレーション
『ワンダリング・ワンダラーズ !! /Wandering Wonderers ii』
8月30日 on Release
90分、心の旅を、今 再び
――それは今から、1か月後。
*────
ちょう たのしみ。
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